金曜日, 10月 03, 2008

公務員制度改革は風前の灯火 政治空白につけ込む官僚の勝利か【町田徹コラム】


ダイヤモンド・オンライン2008年10月3日(金)09:15
 かねて懸念された通り、国家公務員の制度改革を骨抜きにしようとする動きが本格化してきた。
 抵抗勢力の官邸官僚たちはここへきて、解散・総選挙が11月半ばにずれ込み「政治の空白」が長引く可能性が高いことに付け込んで、この間に、改革の指針だったはずの基本法の精神を無視した杜撰な原案を早急にでっちあげて抜本改革を葬り去ってしまおうと暗躍している。
 このために、官邸官僚たちは、公的な会議の場で平然と詭弁を弄したり、動画配信する議事から不都合な部分をカットして世論の監視を阻んだり、権謀術数の限りを尽くしているのだ。

◇ 改革への情熱が乏しい麻生首相を歓迎する官僚

 公務員制度改革は財政改革などと並ぶ重要な課題とされるが、小泉純一郎元首相が在任中取り上げることを嫌ったとされるほど当初から官僚の抵抗が予想されていた。
 こうした中で、安倍晋三元首相が火中の栗を拾う形で、議論がスタート。
 現在進められている改革は、福田康夫政権下の今年6月に成立した「国家公務員制度改革基本法」が基本的な枠組みを成している。
 主な柱としては、(1)各省別の人事をやめて、内閣官房に内閣人事局を設置、幹部職員の一元管理を行う、(2)幹部候補が固定されがちだったキャリア制度の廃止、(3)国家戦略スタッフの設置――などがあげられる。
 そして、国家公務員制度改革推進本部(本部長・首相)の顧問会議(座長・御手洗冨士夫日本経団連会長)が、その具体案作りの監視役となっている。
 ただ、福田前首相の突然の辞任表明と、福田前首相以上に公務員制度改革に対する情熱の乏しい麻生太郎氏の政権獲得を好機と見て、官邸官僚が勢いを回復、改革の骨抜きに動くのではないか、とみられていた。


 そして、最初の鍔迫り合いが起きたのが、9月12日付けの本コラムで紹介した同5日の第1回顧問会議だ。

 まず、仕掛けたのは官邸官僚たちだ。会議の役割や議事の公開といった側面から改革を骨抜きにしようと試みた。

 具体的には、会議の冒頭で、官僚が行う「事務局説明」で、顧問会議の座長を設置するかしないか、報告書・提言書を作成するかしないか、懇談会で定 着していたインターネットによる会議の中継を行うか否か、といった項目にあえて言及せず、それらをすべて見送ろうと目論んだのだ。そうすれば、顧問会議は 単なる言いっ放しのお飾りの会議になり、世間の監視の目にさらされることもないからだ。

 ところが、こうした抵抗勢力の意図を見破った、顧問会議のメンバーは黙っていなかった。作家の堺屋太一氏、評論家の屋山太郎氏、桜井正光経済同友会代表幹事らが強く反発し、座長の設置やインターネット中継の実施を認めさせたのである。


◇ 総選挙の政治空白を利用し改革を止めようと画策


 9月23日の第2回会議も、官邸官僚たちは手練手管をいかんなく発揮した。

 まず、顧問会議メンバーから強い反発を受けて、この日からの実施を確約していた議事のインターネット中継が、「会議の開催直前に、インターネットへのアクセスが不能になった」ため、行われなかった。

 そして、官邸官僚は会議中、公務員改革基本法が定めた「内閣人事局の設置」について、詭弁を弄した。同法は、「法施行後1年以内(つまり来年6月 まで)に、内閣人事局を設置するために必要な法制上の措置を講じる」となっているが、これを強引に「早く作れということになるから、(平成)21年度中に 設置しないといけない。そうすると、年末の予算編成に間に合わせないといけない。つまり、11月に(内閣人事局の)要綱を決定する必要がある」と説明した のだ。


 だが、これは、詭弁・曲解の類に他ならない。実際の基本法に従えば、政府が持つオブリゲーションは、「来年6月までに法案を出す」ことだけなのだ。法案を成立させるかどうかは、国会の判断であり、基本法はそこまで政府に責任を負わせてなどいない。

 では、なぜ、官邸官僚は、「要綱の11月決定」に拘ったのか。まさに、この時期までに、解散・総選挙が想定されており、政治の空白期間にあたると みられているからだ。総選挙後はどんな政権が成立するかわからず、抵抗勢力にとってのリスクが小さいとは言い切れないから、さっさと骨抜き改革案を作って しまい、これで改革騒ぎにピリオドを打ってしまおうというのである。


 だが、この11月要綱決定案には、顧問会議メンバーの作家の堺屋太一氏、桜井正光・経済同友会代表幹事、高木剛・日本労働組合連合会会長、評論家 の屋山太郎氏、ジャーナリストの川戸恵子氏らが一斉に猛反発し、傍聴していた記者たちが「最後は紛糾だ」と話題にしたほどだった。


◇ 内閣が変われば担当大臣の発言も完全無視


 ところが、官僚の悪知恵は尽きるということがないらしい。中継でなく、録画になった今回の議事の配信動画をみると、この紛糾場面はカットされ、御手洗座長がメモでも読み上げるかのように淡々と議事をまとめたように編集されているからである。あの日のクライマックスの雰囲気はまったく伝わらない動画 となっている。

 そして、官邸官僚たちはこの日の会議の最後に、増田寛也総務大臣(当時)と茂木敏充公務員制度改革担当大臣(同)の2人が行った大臣発言も完全に 無視する構えだ。2人は、顧問会議メンバーたちが反発した11月要綱決定というスケジュールについて、「議論を尽くすことが大切だ。(スケジュールは)政 治的判断(で行う)」などと引き取ったのに、麻生政権の誕生によって、両大臣が交代したのをよいことに、この発言の無視を決め込んでいるのである。


 現在、官邸官僚たちは水面下で、顧問会議の下に設置が決まったワーキンググループ、顧問会議、公務員制度改革推進本部と議論を積み上げて、最終的に11月半ばに要綱を決定、これにより事実上、公務員制度改革を実質的に幕引きする計画を進めているという。


 長年にわたって、事実上、政府を牛耳り、日本を支配してきた官僚たちに改革を迫る試みは、頓挫の危機に瀕している。


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なまじ利害が一致し易いプロの政治家さん方に、官僚機構の改革は無理だって.... 政権交代でもして、勝手分からぬ手合いに、引っ掻き回される荒療治の方が、手っ取り早いとおもうなぁ....

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