土曜日, 11月 04, 2006

安倍首相、日本の国際的地位確立を目指す


(フィナンシャル・タイムズ 2006年10月31日初出 翻訳gooニュース) デビッド・ピリング東京支局長

 安倍晋三が小泉純一郎の後釜となり、日本の総理大臣になってまだ4週間ほどしかたっていない。「後釜となる」ことを英語では「(前任者の)靴を履く」と言 うが、新総理が履くことになった前任者の下駄は実に巨大だ。小泉氏は、日本で数十年ぶりに出現したカリスマ的な総理大臣で、見方によってはかなりの業績を残した総理大臣でもあるからだ。その後任となった安倍氏が見劣りするのは、避けがたい宿命のようにも思えた。

新政権はまだ始まったばかり。安倍氏が結局は、これといったことのない総理大臣として歴史に名を残す可能性はまだある。しかし安倍首相は最初の1ヵ月で (1ヵ月というより1年みたいな感じがすると、本人は笑いながら言う)、先輩に匹敵するだけの、あるいはそれ以上の、活発な動きで注目を集めている。

就任からわずかの間に新首相は、北京訪問を果たし、ここ数年冷え切っていた中国との外交関係を修復した。言うまでもなく、中国は日本にとって最重要な貿易 相手だ。首相がこれまで北朝鮮に示してきた強硬姿勢も、北朝鮮の核実験後は、周辺諸国結束の拠り所となった。北朝鮮の6カ国協議復帰という最新の展開を見 ると、安倍氏の強硬姿勢は功を奏しつつあるようだ。

一方で安倍氏は国内に向けては、過激な右翼主義という風評を払拭し、真当な穏健派というイメージを作り出すのに成功した。総理大臣として臨んだ初の選挙でも(安倍氏を首相に選んだのは国民ではなく自民党だった)、神奈川と大阪の衆院補選を自民圧勝という結果に導いた。

政権発足から間もなく立て続けにこうした成果を挙げたことで、「安倍政権は短命のつなぎ政権、情勢微妙な来年7月の参院選を持ちこたえられない」という憶測は聞こえなくなった。安倍政権の支持率は60%台後半。人気沸騰中だった小泉政権初期の数字には及ばないが、日本で普通とされる首相支持率を遥かに上 回っている。

安倍首相は10月31日、フィナンシャル・タイムズ(FT)の単独インタビューに応じた。就任後初の新聞インタビューとなったその場で、首相は、自民党規 則が総裁に認める最長任期6年間を総理大臣として全うしたいと表明。その6年間の任期中に平和憲法の改憲を果たし、「日本にとって新しい時代を開きたい」 と言明した。

初の戦後生まれの総理大臣として、安倍氏は「美しい国」を作り出すことを自分の使命としている。安倍氏の言う「美しい国」はつまり、日本人はもう戦争の罪 悪感に打ちひしがれなくてもいいということだ。安倍氏の祖父は岸信介元首相、戦争犯罪人として逮捕されたが起訴はされなかった人物だ。そんな安倍氏は、日 本の敗戦国症候群に遂に終止符を打ち、国民の誇り回復を目標として、総理大臣になった。

安倍首相の計画の中心にあるのは、憲法の改正だ。日本を占領していた米軍の若い理想主義者たちが1946年に急いで書き上げた憲法は、軍隊の保有を正式に は禁止されている(そしてそのおかげで日本は、世界で最も装備の整った警察隊を持っている)。その日本が改憲によって、十分な自衛力を持つ国、国際的な安 全保障に貢献できる国となることを、安倍氏は目指している。

無機質だが美しい新首相官邸は、ワシントンのキャピトル・ヒルに相当する東京の霞ヶ関にある。そこでFTの単独取材に応じた安倍首相は「現在の憲法は、戦後日本が独立する前に書かれたものです。それから60年たって、現在の実態に見合っていない部分がある」と話した。

改憲にあたって最大の難関となるのは、憲法9条の撤廃だ。9条のもとで日本は、国際紛争を解決する手段としての武力行使権を放棄し、「陸海空軍その他の戦 力」を保持する権利も放棄している。しかしこの条文はその意味がどんどん拡大解釈され、特に小泉政権下では、無意味と言ってもおかしくないところまで来て しまっている。

安倍氏はこの憲法9条は「日本を守るという観点から改正する必要がある」と指摘。さらには、世界第2の経済大国として日本は国際社会の安全保障に貢献すべ きだと言う意味でも、改正の必要があると話した。イラク復興支援に地上部隊を派遣するだけでなく、日本はインド洋における米軍艦の給油に協力してきたし、 今後は国連制裁の実施に伴い北朝鮮船舶に対する臨検を支援する方針だ。

日本人の誇りや国の安全保障を強調してきた安倍氏は、日本を極右へひきずりこむタカ派だと、さかんに批判されてきた。前任者に比べて経済政策にさほど関心 を示さなかったことも、経済改革をほったらかしにするつもりだと批判された。しかし外交と経済の両分野で小泉氏は、安倍氏が自分なりの成果を残せるよう、 貴重なお膳立てをしていったと言える。

前首相によるお膳立てのひとつは、中国・韓国との冷えきった関係。安倍氏にしてみれば、改善するしかないという代物だった。小泉氏は首相として、靖国神社 (東京裁判で有罪となったA級戦犯14人を含め、戦死者250万人が奉られている)を繰り返し参拝し、これに中韓は激しく抗議していた。中国は日本にとっ て最大の貿易国、韓国は第3の貿易相手だが、靖国参拝に対する両国政府の怒りは激しく、日本との関係はここ数十年来で最悪ともいえるところまで悪化した。

安倍首相自身も何度も靖国を参拝しているし、東京裁判で下された「勝者の正義」について疑問を呈してきたが、小泉氏がはまってしまった外交の袋小路からは 巧みに脱出。首相就任から10日の内に中国政府からの招待を獲得した安倍氏は、前任者が5年余りの任期中に果たせなかった北京訪問を実現し、双方のために なる新たな次元に両国の関係を高めていく必要があると表明した「日中共同プレス発表」に合意した。

日中関係の改善については、本人の努力もさることながら、小泉時代のもつれた関係から抜け出したいと中国政府の方も意志を固めていたことが大きかった。安 倍氏はこう認めている。「日本の政権交代というタイミングをとらえて行動しようと決めたのだと思う」と安倍氏は言う。「特に経済分野において、日中はお互 いを必要としている。そのことを中国側は強く意識していて、もしこのまま政治的な緊張関係が続けば、中国経済に悪影響を与えかねないと、おそらく考えてい たのだろう」

中国側も動いたが、安倍氏も動いた。小泉氏とは異り、新首相は靖国参拝を公約にしていない。この日のインタビューでは、日本の首相が靖国を参拝しても大丈 夫なほど新しい日中関係は強力なものになったのかという質問に答えず、靖国参拝の話題を避けた。首相は代わりに、妥協の必要性を強調し、「両国はお互いに 努力して、信頼関係を築く必要がある」とだけ答えた。

自分の強硬派レトリックを打ち消そうと、安倍氏はほかにも努力をしてきた。対外的には、周辺諸国を怒らせることなく、対内的には信頼できる穏健派としての 評判を獲得しようと、意識的に努力しているように見える。首相は国会では戦争について謝罪を繰り返し、祖父・岸信介を含む指導者の戦争責任を認めさえし た。FTとのインタビューではこの点を質問される前に、自分の方から、日本人が「アジアで多くの人々に多大な損害を与えた」と言及し、日本人はこうした過 去の教えを「真剣に受け止めている」と述べた。

東京テンプル大学のジェフ・キングストン教授(アジア研究)は「(安倍新首相は)嬉しい驚きだった。中韓からの申し出にこれほど素早く応えるとは、まさか 期待していなかった。しかし安倍氏は毅然とした指導者らしく振る舞い、好ましい基調を打ち出した。1ヵ月の働きとしては、全く悪くない」と評価する。安倍 氏と親しい政治評論家・三宅久之氏は「国の代表として安倍さんは、個人の信条と国家利益をごっちゃにすべきではないと考えている。そういう意味では、小泉 さんよりも柔軟だ」と見ている。

安倍氏にとって今のところ外交は、これ以上ないほどうまくいっている。比較してしまうと、国内政治はさほど劇的に何かが進んだというわけではないが、それでも新首相はなかなかうまくやっている。

消費税引き上げなど不人気な対策をとらなくても、安倍政権は日本の巨大な財政問題を解決できる──と、安倍氏は有権者を説得しなくてはならない。これに は、来年夏に控える参院選の勝敗がかかっている。安倍政権が任期半ばの短命で終わるか、あるいは小泉政権並みの長期政権となるかが、参院選の結果にかかっ ているのだ。

これについて小泉氏は、近隣諸国との気まずい関係とは違い、はるかに前向きなお膳立てを残していった。小泉政権は、日本の経済を過去15年間で最高の状態 にまで改善した上で、後任に託したのだ。回復基調も5年目に入った日本経済は、2.5%程度の成長率をまだ数年間は持続できるだろうと言われている。 1990年代の停滞ぶりに比べれば、好景気と呼んでもいいくらいの状態だ。

一方で、安倍政権は現在の好景気を言い訳にして、時間稼ぎをしていると批判する声も多い。国内総生産(GDP)の182%にも相当し、先進国の中でも最多 の巨大な財政赤字にただちに取り組むべきところを、安倍氏は経済回復を言い訳に、伸ばし伸ばしにしているというのだ。確かに安倍氏は、来年の選挙が無事に 終わるまで、消費税を現行のわずか5%から引き上げることはしないと、はっきり述べている。

しかし選挙が終わればその後には、難しい政策決定が待っている。これを疑う人は少ない。政府は、成長促進と増税と経費削減のバランスを上手に図る方策を見つけ、高齢化の進む日本の人口構成に日々浸食されている財政の問題をなんとかしなくてはならない。

FTの取材に対して安倍氏は、財政再建の議論はどうなるかという質問になかなか応えようとしなかった。しかしその発言から察するに安倍氏は、戦後日本で一般的とされてきたモデルよりも、低負担・低福祉のモデルに傾いているようだった。

「社会保険料の上昇を抑えるために、効率化の努力を重ねなくてはならないし、まだまだ打つ手はあると思う」と安倍氏。「同時に、国民の納税意識に取り組ん で、たとえば社会保険の保険料を引き上げるとか、サービスを受けた際の窓口負担を引き上げるなど、(より大きな)貢献をお願いするかもしれない」 首相の諮問機関として大きな影響力をもつ経済財政諮問会議で民間メンバーを務める伊藤隆敏・東大教授は、新首相がじっくり待って様子を見るのは当然だと話 す。景気循環のもたらす果実を有効活用して事態打開を図れるかもしれないのに、慌てて増税するのは愚かなことだと伊藤教授は言う。

所信表明演説で「改革の炎を燃やし続けて」いくと宣言した安倍氏は伊藤教授によると、経済の規制緩和を進め、公共投資を減らす様々な対策をすでに静かに実 施している。たとえば、国内では格差の拡大に対する懸念が強いが、労働基準法をさらに緩和して企業のパート雇用をこれまで以上に後押しするなどだ。安倍首 相は法人税減税も検討している。 経済財政諮問会議はさらに、政府による地方債の保証を廃止するよう提言。これが実現すれば、公費支出は劇的に抑制される。

こうした中で安倍氏が支持を保つには、来年夏の大事な選挙が終わるまで経済成長が続いてくれなくてはならない。経済成長が続くかどうかは、日銀の対応によりけりという側面があるが、安倍首相にしてみれば日銀は金利引き上げに意欲的すぎるということになる。

日銀は今年7月、当時の官房長官だった安倍氏が「まだデフレ脱却を果たしていない」と厳しく警告したにもかかわらず、短期金利の誘導目標を6年ぶりに引き 上げて0.25%とした。原油価格が下落し続ければ消費者物価はマイナスの領域に戻ってしまう恐れもあるが、日銀は年内の追加利上げの可能性を除外してい ない。

しかし安倍氏はこの点については慎重に言葉を選び、日銀は金融政策の運営にあたり完全な独立性をもっていると強調した。

「政府も日銀も、デフレ脱却を共通の目的としている。そして政府も日銀も、残念ながらデフレ脱却の目標にはまだ達していないと判断している。そのため政府としては、日銀には金融政策で日本経済を下支えしてもらいたいと期待している」と首相は話した。

しかし何も強制するつもりはないと首相は言う。たとえばインフレ目標を1%に設定するなど、何らかの正式な目標設定を日銀に要求するつもりはあるかと質問すると、首相はきっぱりとこれを否定。「そういうことは考えていない」と答えた。

新首相は明らかに、靖国問題以外でも、話の分かる穏健派という評価を確立しようとしているようだ。



穏健派リベラリストってーと聞こえはイイけどね....結果何にもできなかったでしょ、あんた。


「任期中に改憲」 安倍首相にフィナンシャル・タイムズが聞いた一問一答

フィナンシャル・タイムズ
 2006年11月4日(土)09:57

(フィナンシャル・タイムズ 2006年10月31日初出 翻訳gooニュース) デビッド・ピリング東京支局長

フィナンシャル・タイムズ(以下、FT):総理は日本で初の戦後生まれ首相となりました。日本が戦争からいまだに引きずっている問題がいくつかあります。ご自分が首相在任中に、日本はいわゆる普通の国に、普通の憲法と普通の軍隊と、今ほど謝罪的でない普通の歴史観をもった国になるべきだと考えていますか。

安倍晋三首相(以下、安倍):戦争の結果、60年前、日本人は自らひどい損害を受けると共に、アジアの多くの人々に多大な損害を与えました。この教訓を心から受け止めて、日本人は今まで60年間、自由と民主主義と基本的人権を守り、それによって世界平和に貢献してきた。

そうした確信を胸に、日本人は21世紀の新しい時代に見合った憲法を、自分たちの手で作るべきです。憲法改正を政治課題のひとつに上げるため、我々が指導力を発揮しなくてはならないと考えている。

私が、日本国憲法を改正すべきだと考える理由は3つある。第一に、今の憲法は日本が戦後、独立を回復する前に書かれたものです。第二に、制定から60年 たった今、現在の実態に見合っていない部分がある。第三に、憲法制定以降に生まれた新しい価値観を取り上げ、憲法に書き込むことでその精神を後押しすれ ば、日本にとって新しい時代を開くことができると考えている。

FT:憲法の中で、現代の価値観にそぐわない部分とは具体的に何でしょうか。ご自分の任期中に、憲法が実際に改正されると思いますか。

安倍:新しい価値観という意味では、たとえば地球環境の保護がとても大事だという考え方もその一つです。プライバシー権もそう。

時代にそぐわなくなった条文といえば、典型的な例は9条です。9条は、日本を守るという観点から改正する必要がある。また、日本に国際貢献を期待する国際社会の期待に応えるという観点からも、改正の必要がある。

私の任期は1期3年で、自民党総裁は最長2期まで在任できる。その期間内に、私は改憲の実現を目指すつもりです。

FT:次に、中国についてお聞きしたい。中国政府との関係修復は、外交上の勝利ともいえる大成果でした。明らかに中 国側には、対日姿勢を変えようという用意があった。小泉前首相とあなたとで、中国側の姿勢がこれほど違ったのはなぜだと思いますか。何が根本的に変わった のでしょうか。

安倍:日中関係については、特に経済分野において、両国ともお互いを必要としています。そのことを中国側は強く意識していて、もしこのまま政治的な緊張関係が続けば、中国経済に悪影響を与えかねないと、おそらく考えていたのでしょう。

中国はそのことをここ数年間で気づき、おそらく日本の政権交代というタイミングをとらえて行動しようと決めたのだと思う。

FT:新しい日中関係はどれぐらいしっかりしたものなのでしょうか。つまり、総理は自分が靖国を参拝するかどうか明 言していませんが、仮にたとえば1年たって「自分は日本の総理大臣なのだから、どうして靖国に行ったらいけないんだ」と思い立ったとします。それでも中国 側は受け入れるほど、日中関係は頑丈なものになったのでしょうか。

安倍:日本と中国は、相互利益につながる戦略的な関係を構築すると合意しました。その関係を築くことができるのか、両国ともこれから試されるわけです。そしてその目的に向って、両国とも努力していかなくてはならない。

目的実現のための装置として、首脳会談や閣僚級会談を時々もつことにします。そしてそれによって重要なのは、信頼関係の構築に向けて両国がお互いに努力することです。

FT:胡錦涛国家主席は来年早々にも来日するのですか?

安倍:まだ決定はしていませんが、いずれにしても、中国首脳が来年、来日することを期待しています。

FT:次に北朝鮮についておうかがいします。南アフリカを例外として、核爆弾を自発的に放棄した国はありません。金正日は、自国民が苦しんでもかまわないという態度です。朝鮮半島の非核化を本当に実現するためには、体制変換しかないのではないですか。

安倍:我々は、金正日政権と交渉する必要がある。そしてその意味でも、現行の政策を続けるならば自分たちの状況は日々悪化するばかりだと、金体制に気づかせなくてはならない。経済状況も食糧事情も、ひたすら悪化の一途をたどるだけです。

そのためには中国と韓国を含めた国際社会が協力して、国連安保理決議1718に本当の意味で実効性を持たせなくてはならない。

FT:第2案はないのでしょうか。仮に食糧やぜいたく品の禁輸が実現しても、それによって一般市民がどれだけ苦しんで も、金正日はかまわず、ただひたすら意固地にこりかたまったりしたら? 気まぐれにミサイルを発射するようになったらどうするのでしょうか。武力紛争にも 見える状況に日本がひきずりこまれる事態もあり得るわけです。そのための準備はできているのでしょうか。

安倍:この問題は外交によって、平和的に解決しなくてはならないと確信しています。それは、米国を含む国際社会の総意だと思う。

しかし金正日総書記と政権実力者たちは、もし自分たちが武力を使うようなことがあれば、自分たちはもうおしまいだと理解していると思う。

FT:おしまいですか?

安倍:そう、おしまいです。そのことを向こうは十分、理解していると思う。

FT:これはフィナンシャル・タイムズ紙のインタビューなので、経済政策についても少しお伺いします。日本は米国式 の税制と欧州式の福祉制度をもった国だとよく言われます。国民の大半が現役で働いている高度成長期にはそれで大丈夫でしょうが、日本の人口ピラミッドは変 わりつつあります。以前よりも高齢者が増えて、成長率は下がっている。ある意味で今や日本は、米国式税制と欧州式福祉のどちらかを選ばなくてはならないと ころに来ている。

安倍首相は、福祉の民営化を拡大し、低負担・低福祉のモデルを選びつつあるように見えます。それが総理のビジョンでしょうか。面倒見のいい優しい政府に慣れてきた日本の国民に、低負担・低福祉のモデルを受け入れるよう説得できますか?

安倍:社会保険料を引き上げる主な理由は、高齢化社会です。社会保険料の値上げを抑えるから最適化する方策をまとめているところです。

社会保険料の上昇を抑えるために、効率化の努力を重ねなくてはならないし、まだまだ打つ手はあると思う。保険請求のデジタル化など、様々な手段がある。

公的な社会保障制度を維持するのが目的です。社会保険料の上昇を抑制すると同時に、国民の納税意識に取り組んで、たとえば社会保険の保険料を(さらに)引き上げるとか、サービスを受けた際の窓口負担を引き上げるなど、(より大きな)貢献をお願いするかもしれない。

こうした色々なやり方のバランスをどうとるべきか、議論を重ねていく必要がある。

将来的には、民間保険の役割が色々と出てくると思うが、公的な社会保障を削減するつもりはない。

FT:最新の消費者物価指数によると、日本はデフレに舞い戻る危険がややあるように見えます。いくつかの技術的な要 因にもよりますが、あり得る話です。デフレ再来の危険がある状況で日銀が追加利上げを実施するのは馬鹿げたことですが、総理として日銀にそう伝える用意は ありますか。

安倍:金融政策を決めるのは日銀の仕事です。

政府も日銀も、デフレ脱却を共通の目的としている。そして政府も日銀も、残念ながらデフレ脱却の目標にはまだ達していないと判断している。そのため政府としては、日銀には金融政策で日本経済を下支えしてもらいたいと期待している。

FT:総理は、名目成長率3%、実質成長率2%、インフレ率1%を目標として掲げていますが、日銀にはたとえばインフレ目標を1%前後に設定してほしいと期待しますか。

安倍:そういうことは考えていません。それよりもまず第一に、潜在的成長を拡大するため、技術革新への投資を促したい。

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