木曜日, 1月 11, 2007

東京市場の独り負けは国の無策が生んだ“官製暴落”

ダイヤモンド・オンライン

 東京株式市場の動揺が収まらない。日経平均株価が昨年、2ケタのマイナスとなったのに続き、今月4日の取引初日は、大発会として7年ぶりに下げ相 場を記録。さらに4日続落し、下げ幅が1100円を超えた。“官製不況”と日本経済を揶揄してきた外国人投資家の言を借りれば、株式相場は“官製暴落”の 様相を呈しているのだ。株式市場の暴落は、我々に、いったい何を問い掛けているのだろうか。

「この水準がいいとか悪いとかということについて、政府としてコメントをする立場にはございません」

「昨今の株価というのは、日本経済のファンダメンタルズとはほぼ関係なく、海外の株式市場であるとか、あるいは米国経済、サブプライムローンの影響を受けたアメリカの株安の反映であります」

「どうみても、日本経済の実体と関係がないなという印象を持ちます」

 1月7日午前。大発会翌日も下がり続ける東京株式市場について、福田康夫内閣の要である町村信孝官房長官は、株価の暴落を他人事と言わんばかりの調子で、こう言い連ねた。

 そして、この発言が伝わると、多くの株式市場関係者は「当事者意識の欠如を露呈した救いがたい発言だ。責任逃れも甚だしい。東京市場の下げを加速しかねない」(銀行系証券会社アナリスト)とがっくり肩を落とした。

 町村官房長官と言えば、名門・都立日比谷高校から東京大学経済学部に進み、通商産業省に13年間も勤務したあと、父親に続いて、政治家に転進した人物。経済に明るいはずの人物だ。その人物の株式市場に対する発言が「責任逃れ」呼ばわりされるほど無責任だと言うのはなぜだろうか。

◇ 失われた10年の再来かとの嫌な連想も

 なるほど、多くの市場関係者が指摘するように、1年のスタートである4日の大発会で、日経平均株価が前年末に比べて下げたのは“事件”である。も ともと、ご祝儀色の強い大発会で終値が前年末を下回ったのは、7年ぶりのこと。しかも、その616円という下げ幅は、大発会としては過去最大の下げであ る。

 ご祝儀色が強く、上げ相場が当たり前だった大発会の様相が一転したのは、「失われた10年」と呼ばれた90年代のことだ。92年から01年までの 10年間を見ると、5回の大発会が、この時期の厳しい経済環境を映すかのように前年比マイナスという結果を残した。今回の下げは、再び、失われた10年が 繰り返されるのではないかという嫌な連想を働かせると市場関係者たちは言う。

 ただ、年末年始も取引が継続していた米国では、株式市場の相場が軟調だった。このことを考えれば、久しぶりに開場した東京市場の下げが大きくなっ たこと自体は、それほど不思議のないところだ。さらに、4日以降も米国株の軟調が東京に悪い影響を与えていたことも、否定のできない事実だろう。そういう 意味では、町村発言は、あながち的外れとばかりは言えない。

 だが、もし仮に、町村長官が、日本株はサブプライムローン問題の影響に振り回されていると本気で考えているならば、米当局に対して、要求すべきこ とがあるはずだ。米当局が、個別の金融機関が毀損した自己資本を補うために中東やアジアの政府系ファンドから資本を注入するのをただ眺めており、米連邦準 備制度理事会(FRB)の小幅の利下げと、借り手のための金利引き上げ先送り策の2つぐらいしか対策を打ち出せていないからである。

 銀行の不良債権処理に手間取ったかつての日本を想い出してほしい。当時の日本に、米政府首脳たちは、「トゥ レイト、トゥ リトル(Too late, too little)」と繰り返した。今こそ、これ以上サブプライムローン問題を深刻化させないため、日本が国をあげて、あの言葉をそっくりそのまま、米国に返 してもおかしくない局面ではある。

 ただ、こうした要求さえすれば、日本株の下落に歯止めがかかると考えるのは、あまりにも安易だろう。ここで冷静に着目するべきなのが、昨年1年間の株価の騰落率である。

◇ 前年比10%超の下落で昨年、東京市場は独り負け

 昨年、日本株市場は年間でみて、日経平均がマイナス11.1%、TOPIXが同じく12.2%とそろって2ケタの下落を記録した。世界の中では、“独り負け”市場なのである。

 この点で言えば、サブプライムローン問題の直撃を受けたニューヨーク株式市場は、東京と対照的に、ダウ工業株30種平均がプラス7.2%、ナスダック総合指数が同10.8%と年間を通じて株式相場は上げた。

 さらに、BRICSの代表選手である中国株式市場の上海総合指数は前年比98.4%上昇とほぼ2倍に上昇した。このほか、インドのSENSEX30も同46.6%上昇という実績を残した。

 言い換えれば、主要な20市場を見た場合、前年比10%を上回る下落をしたのは、東京市場だけという体たらくなのだ。また、東京株式市場の動向を インターネットやBSのデジタルテレビに動画で配信しているストックボイスによると、昨年12月半ばまでの世界49市場の年初からの騰落率は、最下位がア イルランド(ダブリン)市場で、東京市場のパフォーマンスはそれに次いで48位だったという。

 こうした東京市場の低迷の背景には、「成長力の面で、新興国ばかりか、先進国にも続々と抜かれてきた現実がある」(米系証券会社エコノミスト)。 内閣府が昨年末に公表した統計は、そのことを端的に表している。それによると、先進国クラブと呼ばれるOECD(経済開発協力機構)加盟国の中で、93年 に2位の座にあった日本の1人当たりGDPが、06年には18位まで後退した。さらに言えば、2000年代に入ってからの日本の名目成長力は、平均して 0.3%程度。OECD加盟30ヵ国の平均(5.1%)と比べても低水準で、ダントツの最下位である。

 言い換えれば、政策的な貧困から、長年、日本経済がデフレを脱却できず、低成長に喘いできた結果が、現在の株式相場に投影しているのだ。つまり、“官製暴落”と呼ばざるを得ない現実が、そこには存在している

◇ 政府に“官製暴落”から抜け出す政策能力は無いのか

 国力を回復し、株式市場の低迷を脱却するために優先すべきは、農業、金融、流通、運輸、教育、医療といった、諸外国に比べて生産性や効率が悪いと される分野の競争力の強化である。そのために、規制緩和や独立行政法人の民営化といった経済政策が重要なのは明らかだ。こうした分野は、公共事業予算の拡 大などと違い、財政再建の足枷がない。

 ところが、福田政権は昨年暮れ、これらの施策でことごとく官僚に迎合してしまい、抜本策を講じられなかった。

 例えば、本コラムでも年末に指摘した独立行政法人改革。101の対象法人を16減らしたと町村長官らは胸を張ったが、実態は中小法人の統合という数合わせに過ぎず、独法が囲い込んでいる業務が民間に移管されたわけでないのは、すでにお伝えした通りである。

 また、やはり、政府の規制改革会議(議長:草刈隆郎日本郵船会長)が年末に第2次答申をまとめた規制緩和でも、保険診療と保険外診療を併用する混 合診療の全面解禁が見送られるなど、官僚の根強い抵抗にあって抜本策が実現しなかった。この責任も、福田康夫首相らの行政府の長としての指導力不足にある ことは明らかなのである。

 加えて、有耶無耶に終わろうとしている埋蔵金論議(政府の特別会計の膨大な剰余金問題)も重要だ。本稿の執筆にあたって、改めて05年4月に経済 財政諮問会議に提出された「各特別会計の改革案」を確認したところ、財務省所管の財政融資資金特別会計と外国為替資金特別会計の2つだけで、資産総額から 負債総額を差し引いた剰余金が05年度末に34兆円弱も存在した。当時の試算では、これが09年度末には、50兆6000億円近くまで膨らむという。財政 融資資金特別会計にも、外国為替資金特別会計にも、それなりのリスクがあり、一定の剰余金が必要ではあろうが、これほど巨額の剰余金が必要とは到底考えら れない。

 ところが、政府・与党がまとめた来年度予算の政府案では、こうした埋蔵金が有効に活用されたとは言えない。その結果、小泉・安倍政権時代と比べても消極的な国債発行の圧縮策しか盛り込まれなかった。

 それどころか、政府・与党は、今年の総選挙を済ませたら、来年度に消費税を大増税しようという意図を露骨に見せている。安易な消費税増税は、格差に喘ぎ、低迷する個人消費を一段と冷え込ませ、瀕死の成長力をさらに損ねる施策なのに、その方向に舵を切ろうとしているのだ。

 30兆円、50兆円といった埋蔵金があれば、消費税増税どころか、石油税や法人税の引き下げといった景気にプラスで、国際競争力の向上にも役立つ諸施策がふんだんに可能なのに、政府・与党にはそうした政策を立案し、実行する力がない。

 世界の投資家は、長引く株式相場の低迷に終止符を打てない政策的貧困を含む日本のカントリーリスクに呆れ、「東京から離散している」(米系証券会 社)という。また、「外国株を組み込んだ投資信託の方がパフォーマンスがよいからと、低迷する日本株を売却する国内の個人投資家が後を絶たない」(中小証 券幹部)ようだ。しかし、個人が、日本株の将来性に希望を持てず、決して小さくない為替リスクや途上国のカントリーリスクを負って外国株投信を買うという のが正常な投資の姿とは、筆者には思えない。

 今こそ、政策的貧困にピリオドを打ち、官製暴落から抜け出すことに全力を挙げるべきときと考えるが、福田首相、あなたはどうお考えですか。



ここで踏ん張っとくべきだった?

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