予算委員会が始まった。国会はいよいよ本格的な論戦に入る。本臨時国会の会期は68日間。審議中の補正予算案のほかに、すでに給油継続法案、消費者庁設置法案などが提出されている。
昨日(10月7日)、その予算委員会の席上で、菅直人民主党代表代行の質問に答える形で、麻生首相の注目すべき発言があった。
「民主党との間に争点を設定しないといけない。国際貢献への考え方など、きちんと正確にした上で、どちらが政権担当能力があるか明らかにすることが必要だ」
結論から言おう。麻生首相が念頭におく国際貢献とは、給油継続法案である。本コラムでも再三指摘したとおり、麻生首相はこの法案の継続に政治家としての信念を賭けている。
北東アジアから、中央アジア・コーカサス、トルコ、中・東欧、バルト諸国まで延びる線上の国々への積極的な国際貢献を通じて、日本外交の地位を高めようというのが、麻生首相の著書『自由と繁栄の弧』の真髄だ。当然ながらその中にはアフガニスタンへの支援も含まれている。
『自由と繁栄の弧』構想の屋台骨でもある同地域での国際貢献の必要性はまた、日米同盟を第一義とする「麻生外交」の最優先課題でもある。
◇ 給油法案継続は厳しいといまだに主張するマスコミ
それは、総裁選の最中からのみならず、小泉内閣の外務大臣時代からずっと訴え続けてきたことだ。だからこそ、国会がどのような状況にあろうと、い くら「解散風」が吹こうと、同法案が提出されたことに驚きはないし、審議入り(未定)することにも何ら疑問を感じないのである。
少なくとも、ダイヤモンドオンラインの読者ならば、麻生首相がそうした考えを持っていることはすでにご存知だろう。次は、もはや記すのも嫌になっているのだが、そうでない読者のために一応書いておく。
新聞・テレビではいまだに、
〈解散が避けられない現在、同法案の審議入りは不可能だ〉
〈自衛隊の海外活動に批判的な公明党・創価学会の反対があるので審議入りは厳しい〉
といった論調が残っている。
冒頭解散、早期解散の是非について、これ以上、本コラムで扱う必要もないだろう。1ヵ月前(9月11日)の記事を参照していただければ十分である。
もうひとつのマスコミ論調に対しても、すでに結論は出ている。
先月(9月)3日、山崎拓衆議院議員を座長とする自民・公明の与党合同プロジェクトチームは、臨時国会での給油法の継続を合意している。
さらに9月19日、同法案の継続は閣議決定もされている。
これらは共に福田政権時の出来事である。だが当然に、麻生幹事長(当時)の意向を無視しては為されない話だ。
◇ 給油法の成立が麻生首相の最重要課題
また、9月25日には麻生首相自身が、国連演説で、次のように語っている。
「我が国は、アフガニスタンの復興支援に当初から力を注ぎ、インド洋では補給活動を続けてまいりました。私はここに、日本が今後とも国際社会と一体となり、テロとの闘いに積極参画してまいることを申し上げるものです」
給油法案の前身のテロ特措法は、アフガニスタンにおける日本の貢献という点について言えば、確かに一定の評価は受けている。
思えば、安倍首相は小沢民主党代表との党首討論を熱望し、その政治生命をかけてまで同法案を継続しようとした。
福田首相も同じく、小沢代表との大連立構想を模索してまで、給油法案の継続を企図した。だが、ともに失敗に終わり、内閣の倒れる主要因となった。
同法が、日米同盟を基軸とする自民党、とりわけ麻生首相にとって最重要であることに変わりはない。
ということで、同法の成立を前提として、今後の国会を占ってみよう。
同法は、来年1月15日でもって期限が切れる。
答えから言ってしまえば、「ねじれ国会」の状況からして、同法案成立の可能性は2つだけである。衆議院での3分の2再議決か、あるいは民主党の賛成である。
仮に、衆議院が解散されれば、期限内での同法案の成立はもはや不可能となる。日程的に政治空白が生じるばかりか、仮に選挙の結果、自公連立政権が 続いたとしても、現在の圧倒的な議席数は失い、再議決の権利も失ってしまうからだ。もちろん、同法に反対している民主党が総選挙に勝って政権を獲得すれ ば、自民党は下野することになり、同法は消滅するだろう。
『自由と繁栄の弧』の執筆者のひとりとも言われるのが、谷内正太郎前外務事務次官だ。その谷内氏は、9月30日の読売新聞とのインタビューで、次のよう語っている。
「(民主党と)自民党と外交政策で大きな違いがあるとは思っていない。ただ、小沢代表は、国連中心主義の傾向が強いと思う。世界中が賛成しても、常任理事国が1ヵ国でも反対すれば実現できないという国連の実態からすれば、国連至上主義的な考えは慎重であるべきだ」
谷内氏の言葉は、麻生首相の予算委員会での答弁と見事に符号する。ついでに述べれば、麻生首相は所信表明演説(9月29日)の中でも次のように語っている。
「今後日本の外交は、日米同盟から国連に軸足を移すといった発言が、民主党の幹部諸氏から聞こえてまいります。わたしは、日本国と日本国民の安寧 にとって、日米同盟は、今日いささかもその重要性を失わないと考えます。事が国家・世界の安全保障に関わる場合、現在の国連は、少数国の方針で左右され得 るなど、国運をそのままゆだね得る状況ではありません。
日米同盟と、国連と。両者をどう優先劣後させようとしているか。民主党には、日本国民と世界に対し、明確にする責任があると存じます。論拠と共に伺いたいと存じます。
第二に伺います。海上自衛隊によるインド洋での補給支援活動を、わたしは、我が国が、我が国の国益をかけ、我が国自身のためにしてきたものと考え てきました。テロとの闘いは、まだ到底出口が見えてまいりません。尊い犠牲を出しながら、幾多の国々はアフガニスタンへの関わりを、むしろ増やそうとして おります。この時に当たって、国際社会の一員たる日本が、活動から手を引く選択はあり得ません。
民主党は、それでもいいと考えるのでしょうか。見解を問うものであります」
◇ 外交政策をめぐって自民・民主の攻防が始まる
麻生首相の狙いは、日米同盟を基軸とした「麻生外交」と、国連中心主義のISAFを唱える「小沢外交」との論争でもって、自民党と民主党の差異を見せ付けようということである。それが、昨日の予算委員会での麻生首相の発言に繋がっている。
さらに進んで、この国際貢献策の違いを争点化したまま「総選挙」に突入、というシナリオこそ、麻生首相が思い描いてきた戦略なのだ。
きょう(10月8日)、民主党は麻生首相の戦略のウラをかいたのだろうか、同法案の衆議院採決に同意する意向を明らかにした。
〈民主党の山岡賢次国対委員長は八日午前、インド洋での自衛隊の給油活動を来年一月以降も続けるための新テロ対策特別措置法改正案の処理で、週内の衆院通過を容認する姿勢を示した〉(10月8日付「東京新聞」夕刊)
予算委員会の攻防の水面下では、与野党国対のこうした激しい駆け引きが始まっているのだ。
臨時国会最大の焦点が、ようやく新聞・テレビにも登場しはじめたようだ。
」
どっこい、最大の焦点は、そんなもんじゃなかったって話。
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