土曜日, 12月 06, 2008

一時しのぎの雇用対策 産業界、助成・奨励金の効果疑問視


産経新聞2008年12月6日(土)08:05
 総額2兆円に上る与党の雇用対策案が5日、麻生太郎首相に提出された。派遣社員の正社員化に対する助成金の支給などが柱だが、一過性の助成金や奨励金が 民間企業の雇用拡大につながる見込みは少ない。金融危機の拡大に伴う景況感の悪化で、産業界の現場からは「受注減で仕事そのものがない」など、深刻な声が 上がっており、目先のばらまきよりも抜本的な景気刺激策の実現が不可欠だ。(内田博文)

 与党案に盛り込まれた非正規社員の正社員化に対する助成金支給をめぐっては、今月1日に麻生首相が、日本経団連の御手洗冨士夫会長、日本商工会議所の岡村正会頭を官邸に呼び、雇用対策を要請した際にも「(就職氷河期の)若者の雇用支援で、政府も補助金を出すので正社員
化をしてほしい」と強調している。
 だが、その際にも御手洗会長は「経済界も雇用維持に努めるが、景気回復が何よりの対策だとお願いした」と語っており、一層の景気対策を求める産業界とはかみ合っていない。
 実際に、日本商工会議所が行う早期景気観測調査(11月分)では、「雇用の不足」との回答割合から「雇用の過剰」との回答割合を引いた雇用DIはマイナ ス10・8と、就職氷河期だった平成15年に匹敵する水準。特に規模の小さい中小企業からは「雇用どころか受注減で仕事そのものがない」(建設業)との声 があがっている。
 それだけに「一時的な助成金の見返りに、正社員化による長期的なコスト増を負うのは難しい」(大手メーカー)、「払い切りではなく、継続的に助成が出るような制度でないと厳しい」(家電労組)のが産業界の本音だ。
 自動車業界で非正規従業員の解雇が、金融危機が始まった9月以降で1万人を超えるなど、既に多数の失職者が生じている一方、対策案の財源となる一般会計分の1500億円は、来年の通常国会に提出される第2次補正予算案で計上される予定。「雇い止めで年を越せない人もおり、一刻も早い実施が不可欠」と、政府・与党のスピード感を疑問視する声もある。
 JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは「製造業を中心に戦後最大の減産が進んでおり、雇用情勢は年末から来年1~3月期にかけて急速に悪化する」とした上で、「与党の対策案は痛み止めに過ぎず、どれだけの効果があるかは疑問だ」としている。

 ≪与党の雇用対策案ポイント≫
 一、雇用安定に向けた対策を3年間実施、保険2事業で1兆円、一般財源で1兆円の計2兆円規模を確保
 一、中小企業が派遣社員を正社員として雇えば1人当たり100万円、有期雇用なら50万円支給。大企業は半額
 一、雇用保険の非正規労働者の適用基準を「6カ月以上の雇用見込み」に緩和。再就職が困難な場合の給付日数を特例的に60日分延長
 一、失業した非正規労働者や中高年者を対象に、自治体が一時的な就業機会を創出
 一、「ふるさと雇用再生特別交付金」を実施、安定的な雇用機会創出
 一、内定を取り消された学生を採用した企業に特別奨励金を支給

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「派遣切り」は止められるのか~雇用不安の深層を湯浅誠氏(NPO自立生活サポートセンター・もやい事務局長)に聞く
ダイヤモンド・オンライン 2008年12月4日(木)10:50
 「派遣切り」という言葉が、頻繁にメデイアに登場する。新入社員の内定取り消しが、後を絶たない。雇用不安の深層を、湯浅誠氏に聞いた。NPO自立生活サポー トセンター・もやい事務局長として生活困窮者を支援しつつ、雇用問題に積極的発言を続ける湯浅氏は、「非正社員と正社員の労働条件の切り下げ競争が進んで いる」と指摘する。

―1990年代半ば以降、経済の低迷が長期化し、コスト削減圧力が高まる中で、企業は雇用形態の多様化を進め、パート、派遣、業務請負と非正規社員の雇用を拡大してきた。今、景気後退に直面し、非正規社員の雇用不安が非常に高まっている。

 経営者の本音は、こうした不況期のために非正規社員を増やしてきたということだろう。今も10年前も、非正規社員が雇用の調整弁に使われることに違いはない。

 だが、今と10年前とでは、仕事を失った人々が受けるダメージがまったく違う。今は、生活ができなくなってしまう人が増えている。

―この10年間に、何が変化したのか。

  非正規社員は、例えば、地元に帰れば親がいる、季節限定の出稼ぎで生活基盤は別にある、主婦のパートには十分な収入のある夫がいる、つまり、仕事を失って も、苦しくはなるだろうが生活はできる人々だ、と説明されてきた。その一方で、正社員は職場で重要な役割を果たし、家族を養う重責を担う、だから雇用は守 らなければならない――これが経営者の論理だった。
  だが、この10年間でわかったことは、いわゆるワーキングプアが非正規社員のなかに混じっていることだ。帰る親元などなく、住居を持たず、さまざまな理由から仕事を奪われたら即座に生活できなくなってしまう人々だ。彼等が増えてから、今回が初めての不況だ。

―だが、景気後退に対応するために、経営者は非正規社員の雇用に手をつけることに躊躇しないだろう。

 派遣切りの実態は、凄まじい。今日相談に来た派遣労働者は神奈川県の自動車部品工場で働いていたが、80人の派遣社員の9割が契約を打ち切られたそうだ。
 ここで重要なのは、正規社員がこの事態をどう考えるかだ。先ほど述べた非正規社員と正規社員に対する経営者の論理を、正規社員もこれまでは受け入れてきた。

―その経営者の論理は正規社員の雇用を守るためなのだから、受け入れるのは当然なのではないか。実際、 1990年代半ばからの10年間は、産業界は、正規社員の雇用を守るために新規採用を控え、ロストゼネレーション(ロスジェネ)と呼ばれる大量の若年層非 正規社員が生まれた。

 その結果、正規社員と公務員は既得権益にしがみつく悪のごとき存在とされ、社会的批判を浴びる
ようになった。とりわけ、ロスジェネたちの怨念は根深いものがある。世代間の対立は、社会に暗い影を投げかける。
 そして、雇用は守られたとしても、労働環境は劣化している。正規社員が減ったことで職場での責任が増し、労働量は増え、非正規社員のマネジメントの難しさに苦しんでいる。精神的不安定さが増す一方で、労働分配率は抑えられ、収入はいっこうに増えない。
 正社員が、政府と会社の雇用政策に守られていると信じてきたら、知らない間に労働条件が悪化していたのだ。

―正社員と非正規社員が対立し、墓穴を掘っているということか。

 そうだ。より重要な問題は、その正社員の労働条件の悪化が、非正規社員の労働条件のさらなる引き下げに利用されていることだ。
 「正社員もこれだけ厳しいのだから、非正規社員の雇用条件が下がるのは仕方がない」――こうした説明が繰り返され、あたかも切り下げ競争のようだ。 正社員が疑いもなく経営者に同調し、自分たちは勝ち組であり非正規社員を負け組として突き放すことは、結果的に自らの足元を切り崩すことになる。それが、 この10年間の教訓だ。そこを正社員に理解してほしい。

―連合はこの問題に気がつき、非正規社員の雇用問題にも取り組んでいる。

 そのはずだったが、連合の春闘方針(ミニマム運動課題)には正規社員のベースアップから始まって、パートの賃上げまでは入っているが、「派遣切 り」問題には触れていない。「派遣切り」が最も激しい自動車業界でも、自動車総連が記者会見を行ったというような話は聞かない。ここにきて、巨大労組が自 分たちの利益だけを考え、正社員クラブから一歩も出
ないとしたら、問題だと思う。

―彼らは、どんな声を上げるべきか。

 労組は春闘で、現在は景気が後退して業績が悪化していても、この5年間増収増益を続けた結果厚くなった内部留保からベースアップ原資を確保せよ、 という主張をするだろう。いったい何のために好況時に内部留保を厚くするのか、と迫るのだろう。その時、「派遣切り反対」と言うべきだ。
 一方、経営者は、非正規社員が失業することが社会不安につながることを認識すべきだ。いうまでもなく、企業も社会の一員であり、社会不安の高まりは自らに跳ね返る。

―だが、経営者はコストを抑え、国際競争力を維持しなければならない。経営者側に立って考えれば、正社員の 雇用、賃金体系を守らねばならないから、非正規社員にしわ寄せせざるを得ないのではないか。この問題を解決するために、労働法制度を改革して、正社員の労 働条件を変更できる権限を与える。例えば、正社員の賃金体系を下げ、非正規社員のそれを上げ、同一労働同一賃金という公平さを保つ。現実に、経済産業省や 連合が、経済学者、法学者を交え議論を進めている。

 その議論を進めるには、ある条件が欠かせない。賃金体系を変えるなら、支出体系を先に変える必要があるということだ。
 ある一つの賃金体系にさやよせしていくのだとすれば、非正規社員にとっては賃上げになるが、正規社員にとっては賃下げになる。基本給的賃金カーブはいまだに年功型が多いから、賃下げはとりわけ40代にきつくなる。
 年功型賃金が維持されてきたのには、それなりの理由がある。30代、40代になるにしたがって生活支
出が拡大するからだ。そもそも年収が 400~800万円の大多数を占める正社員は、さまざまな家計支出に追われ余裕がない。社会保障費の負担は重く、今後も増え続ける。いくら非正社員の雇用 を維持し、賃金水準を近づけるためでも、この支出を切り下げないまま賃金体系を切り下げれば、生活はたちまち苦しくなる。政府はまず、財政・税制を総合的 に見直して、社会保障費などの負担を下げることが労働法制度改革の必須条件だ。

―厚労省は、来年3月まで3万人の非正規社員の失業者が出ると発表した。政府は、非正規社員への雇用(失業)保険の適用基準を緩和することを検討している。

 これまで政府は、雇用保険をどんどん受けにくくしてきた。適用審査が厳しく、今や、10人に2人しか給付されない。だから、失業するとすぐさま生活に詰まってしまうのだ。
 給付を絞り込む一方で、雇用保険財政は5兆円もの余剰になっていて、緊急経済対策の一環として、労使折半で総賃金の1.2%の雇用保険料率を最大 0.4%引き下げようとしている。にもかかわらず、社会保険費2200億円抑制の財源として、国庫負担金を全廃しようとしている。なんとも矛盾する、付け 焼刃の政策だ。
 非正規社員の雇用保険対象化や住宅困難者対策について、政府は確かに言及している。だが、言及するだけでなかなか具体策が出ないし、現状の検証もおざなりだ。そもそも、第二次補正予算も組めない政府が、頼りになるだろうか。 

 雇用不安を深刻化させないために、世論の後押しがほしい。

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湯浅誠(ゆあさ まこと)
1969年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得後中退。在学中から養護施設ボランティア、 ホームレス支援、イラク復興支援などにかかわり、現代日本の貧困問題を現場から訴え続ける。現在、NPO自立生活サポートセンター・もやい事務局長ほか。 著書に『貧困襲来』、『反貧困』。
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大問題だって認識あんのかね、政府は?
こっちはパフォーマンスとしても....

ネットカフェを視察=雇用対策で与野党協議も-民主・菅氏
時事通信2008年12月4日(木)20:30
 民主党菅直人代表代行は4日、埼玉県蕨市内のインターネットカフェを訪れ、店内に寝泊まりする「ネットカフェ難民」の現状を視察した。雇用対策を重視する同党の姿勢をアピールするのが狙い。
 菅氏は約40分かけて店内を見て回り、個室の中で実際に横になったり、派遣会社に登録しているという40代の男性客に「ここはもう長いんですか」などと話し掛けたりしていた。
 この後の記者会見で、菅氏は雇用対策に関して「命にかかわる緊急対策は、政府・与党も変なメンツを捨てて、国民に対する責任として対応してほしい」と強調、政府・与党から呼び掛けがあれば政策協議にも応じる考えを示した。

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