金曜日, 9月 12, 2008

埋蔵金6兆円で好景気に

「高橋洋一(東洋大学教授)
Voice2008年9月12日(金)14:09
◇ 無駄にもっていた埋蔵金

 行政の無駄を省くべきだ。この意見に反論する人はいまい。ただ、人によって「無駄」の程度に差が出るのは致し方ないだろう。
 ちなみに与謝野馨経済財政相は、「予算の無駄には2種類あって、会計検査院が指摘するような間違った使い方ということと、この政策は無駄な政策だという政 策の評価の問題とがある」と講演で述べていたが、先日のテレビ番組では、天下りや官製談合、特殊法人などでの無駄遣いの指摘に対して、「無駄遣いはない。 政策判断の問題だから」といっていた。
 もちろん、政策判断の程度の差という問題はあるが、それをオープンな場で議論することは有用だろう。そうすれば、無駄の意味も明らかになるし、何より政策議論の質が向上する。これは長期的には行政の「無駄」をなくすことになるだろう。
 一例として、筆者がこれまで指摘した「霞が関埋蔵金」について考えてみよう。
 筆者と埋蔵金の関わりはこれまで3回ある。1回目は3年ほど前である。経済財政諮問会議において、特別会計の資産負債差額が50兆円弱あり、それらの1部 は取り崩しても問題ないと指摘した。その結果、財政融資資金特別会計などから20兆円の取り崩しが閣議決定され、その内容を盛り込んだ「簡素で効率的な政 府を実現するための行政改革の推進に関する法律」が2006年6月に成立した。
 2回目は、2007年11月の話だ。自民党財政改革研究会(与謝野馨会長)が、増税路線を打ち出したが、中川秀直元幹事長が異論を唱え、増税の前に特別会 計積立金のうち財政貢献できる部分があると主張した。ところが、この増税反対論に対して、財政改革研究会は「そのような話は霞が関埋蔵金伝説だ」と揶揄 し、「埋蔵金は存在しない」と応酬した。中川氏は、具体的に財政融資資金特別会計と外国為替資金特別会計の繰越利益・当年度利益が合計40兆円あると指摘 し、それらは過大であると反論した。財政当局はこの指摘を受け「埋蔵金」の存在を認め、10兆円を2008年度予算に取り入れることとした。
 1回目と2回目での「埋蔵金」は、特別会計のバランスシートにおける資産負債差額の総計である。資産負債差額が行政の「無駄」につながるかは、慎重な検討を要する。まず、無駄に使わなかったからこそ、その結果、資産負債差額として残っているといえる。
 ただし、過剰にもっているかどうかで、有していることが無駄であるかどうかがわかるであろう。1回目の20兆円、2回目の10兆円はいずれも取り崩され て、一般会計や国債償還に使われたのであるから、結果として特別会計では過剰な剰余金をもっていたわけである。それは無駄にもっていた埋蔵金だったといわ れても仕方ない。
 3回目の関わりは今年7月に出た「清和骨太」の埋蔵金50兆円である。7月4日、自民党の総裁派閥である清和政策研究会が発表した政策であるが、まず、「骨太」の意味を説明しておきたい。
 そもそも「骨太」というのは、正式名称についていえば、2001年は「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」、2002年から 2006年まで「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」、2007年と2008年は「経済財政改革の基本方針」である。いずれも、6月までには閣議決 定されて、次年度の予算方針などの前提となる国の経済政策の基本方向を定めている。
 じつは2年前に、「骨太2006」というものがあって、その後の5年間、2011年度までの「5年間の予算シーリング」がすでに決まっており、それで2011年度のプライマリーバランス黒字化が目標となっている。
 ところが近年、社会保障費2200億円をカットすべきかどうかという問題や、基礎年金について国庫負担割合の引き上げにどのように対応すべきかという問題 があり、さらには、ここ2年間の名目成長率が政府見通しを大幅に下回り、税収も下方修正せざるをえなくなっている。ということは、本来であれば経済状況を 踏まえて、2011年度の黒字化目標を含め、今年の「骨太2008」では「骨太2006」を改訂すべきであった。
 埋蔵金の話を抜きに、来年度以降の予算の話などできるわけないが、なぜか諮問会議が埋蔵金の話をしないまま、6月27日に「骨太2008」は閣議決定され た。社会保障費の問題や2011年度のプライマリーバランス黒字化などについて、この「骨太2008」では解が盛り込まれておらず、明らかに不完全であっ た。そこに、清和研の政策提言は、具体的な財源の裏づけのある答えを示した。つまり、埋蔵金の活用によって、社会保障問題への対策や、成長・環境などの新 たな課題にも対応しつつ、2011年度のプライマリーバランスの黒字化の方針は堅持できるとした。
 8月1日、福田康夫総理は政権発足後初の内閣改造を行なったが、「清和骨太」の作成に関係していた、いわゆる「上げ潮派」は一掃されたかたちだ。
 しかし、「清和骨太」が示した事実は、今年度の補正予算編成や来年度の予算編成に確実に大きな影響を与えるはずだ。つまり、少なくとも来年度までは、消費 税増税の議論はできない。福田総理が自ら公言しているが、50兆円の埋蔵金が否定できない以上、増税論議はできるはずがない。伊吹財務相(前自民党幹事 長)も、埋蔵金は10兆円以上あることを認めており、今年度補正予算と来年度予算ではそれを活用せざるをえないわけだ。

◇ 4四半期ぶりのマイナス成長
 以上を踏まえて、3回目の埋蔵金50兆円を説明しよう。7月4日、「上げ潮派」といわれる中川秀直自民党元幹事長らが中心となって、清和政策研会として 「『増税論議』の前になすべきこと」という政策提言を行なった。陣頭指揮をしたのは杉浦正健さん、奥野信亮さんである。山本拓さんも精力的に活動してい た。私も手伝って、派閥集団が新たな「霞が関埋蔵金」の存在を指摘したのだ。
 今回の埋蔵金50兆円は、3つの部分からなる。第一に、今年度中に使えるものとして6兆円。第二に、来年度予算に使えるものとして10兆円。第三に、その後3年間で使えるものとして19兆~37兆円だ。
 これらが無駄なお金であったかどうかであるが、6兆円と10兆円は、使われていなかったという意味では、ひどい無駄遣いであったわけではないが、うまく使 われてこなかった金であることは間違いない。19兆~37兆円はこれからよい政策をすることによって生み出すわけで、無駄な政策をしない結果といえる。以 下では、補正予算が話題になっているので6兆円を中心としつつ、10兆円にも触れてみよう。
 第一の6兆円は、新たな負担なしで補正予算に対応するにはこの部分で賄える。なぜ補正か。いろいろと大型補正の声も聞かれるが、なぜかといえば、とうとう 景気が悪くなったからだ。8月13日、内閣府は2008年4―6月期の国内総生産(GDP)速報値を発表したが、実質GDPは前期比0.6%減、年率換算 で2.4%減だった。2007年4―6月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長だ。民間エコノミストのあいだでは、今年初めからすでに景気後退に入っている のではないかといわれていた。政府が景気後退を認めるのはいちばん最後であるので、これで景気後退が確実になったといえる。
 同じ内閣府が発表している景気動向指数、景気ウォッチャー調査をみると、景気減速は2007年中に始まったのだろう。この景気後退は、しばしばアメリカ経 済の景気減速を背景にした輸出の減速が主要因といわれ、内需の柱である個人消費や設備投資の落ち込みが響いたとされている。しかし、4―6月期のアメリカ の実質GDPの伸び率は、鈍化したとはいえ、まだ0.5%増であった。サブプライム問題の本家本元のアメリカのほうがまだマシということは、日本の景気後 退が国内要因(ホームメイド)であることを強く示唆している。
 ただし、日本の景気後退は大したことはないという意見もある。8月4日付の『フィナンシャル・タイムズ』紙は、「日本の景気後退は景気後退でない」と題し て、「住宅バブルや金融危機もない。アジア向け輸出も伸びている」と指摘し、「日本政府に求められているのは、改革強化であって、設計の悪い財政出動でも インフレに対する日銀の過剰反応でもない」としている。そのうえで、日銀に対しては「金利を維持し、長年のデフレに慣れきった日本人に対して、ガソリン以 外にも価格上昇を覚悟させるようにせよ」、政府に対しては「漁船のための燃料補助金は悪い。道路建設もさらに悪い。無駄な財政出動に抵抗し、小泉構造改革 に回帰せよ」と提言している。
 これは1つの正論であろう。それに、この機会に予算分捕りもあり、与党から見れば選挙向けのばらまきとなる恐れもある。ただし、どうしても「景気対策」が必要というのであれば、この正論の趣旨に即したものにすべきだ。

◇ 日本の景気が後退した理由
 具体的な景気対策を論ずる前に、日本の景気後退の理由を整理しておきたい。
 景気減速が2007年中に始まったとすれば、効果のラグを考慮して2006年中の出来事に注目すべきである。
 いまサブプライム問題をきっかけとして、アメリカ経済は危機状況に陥っているが、2006年には住宅価格の上昇率が鈍化するとともに、住宅ローンの延滞率 が上昇してきたという状況であったものの、サブプライムローンが世界的に問題視されはじめたのは2007年夏ごろからである。しかも、日本はサブプライム 問題の発信地ではない。
 まず思い出すのは、定率減税の廃止だ。定率減税は、所得税と住民税の税額をそれぞれ20%、15%減額するもので、景気対策のために暫定的に1999年から導入されていた。それが、2006年(度)と2007年(度)で半分ずつ段階的に廃止された。
 定率減税の廃止は、マクロ経済的観点からみれば、3兆円強の所得税増税になる。その経済効果は、ある試算によれば、実質GDPを0.5%程度低下させるという。
 また2006年は、日銀が金融引き締めに転じた年でもあった。2006年3月9日、日銀は量的緩和政策を解除した。2006年7月14日、2007年2月21日、日銀は誘導金利をそれぞれ0.25%ずつ引き上げた。
 量的緩和政策の解除は金利に換算すると0.5%程度の効果であるといわれているので、一連の金利引き上げは1%程度と思っていいだろう。ある試算によれば、この一連の金利引き上げによるマクロ経済効果は実質GDPを0.5%程度押し下げるといわれている。
 いずれにしても、マクロ経済的には、2006年に財政引き締めと金融引き締めが同時に行なわれたわけで、形式的に考えても、実質GDPを1%程度押し下げてもおかしくない。
 ちなみに、実質GDP伸び率について、2007年度の政府の見通しは2.0%であったが、実績は1.6%。2008年度の政府見通し2.0%が、実績見通 しは1.3%にとどまった。また、名目GDP伸び率について、2007年度の政府の見通しは2.2%であったが、実績は0.6%。2008年度の政府見通 し2.1%が、実績見通しは0.3%にとどまった。
 この名目GDPの低迷と裏腹のことであるが、ホームメイドインフレの指標とされ総合的な物価の動きを示すGDPデフレータについて、2007年度の政府見 通しは0.2%であったが、実績は▲1.0%、2008年度の政府見通し0.1%が、実績見通しも▲1.0%と2年連続して大きく下回った。

◇ 金融のイロハを間違った日銀
 こうした経済指標を見ても、2006年の財政引き締めと金融引き締めのどちらが主因であるかを判断することは難しい。ただ、明確な決まりはないが、政府見通しについて、実質成長率は政府、GDPデフレータは日銀の責任という漠然とした思いはある。
 もっとも、日銀はその責任分担さえ拒否してきた。現行の仕組みでは、日銀は、政府経済見通しについて、マクロ経済運営に関して基本的視点を共有するのみで あり、コミットメント(結果責任を伴う約束)はしていない。この意味で、政府見通しの達成義務は政府だけにあり、それが達成できなくても、日銀は政府に対 して何の責任もないことになる。日銀は、どこにもコミットしておらず、経済運営の結果についていっさい責任は生じないというのだ。
 考えてみればこれはおかしいのだが、いまの日銀法の下では仕方ないことである。ちなみに、日銀法では「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊 重されなければならない」(第3条第1項)、「日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければなら ない」(第3条第2項)となっており、政府との関係は、「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが 政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」(第4条)と規定されているのみ で、意思疎通さえすれば、結果は問わないのだ。
 これは、中央銀行の独立性を曲解しており、日銀法の欠陥であるといわざるをえない。現行制度の下では、先進国の行政機関で導入されているPDCA(PLAN‐DO‐CHECK‐ACT)サイクルさえ、日銀には適用できない。
 中央銀行の独立性については、中央銀行は政府と目標を共有するが、その達成手段は中央銀行に任せ、政府が口出ししないとなっているのが世界標準である。と なれば、中央銀行の目標について、政府が設定するか、または政府と中央銀行が設定し、その目標の達成は中央銀行に任せて、中央銀行のPDCAサイクルを適 用できるわけだ。このような中央銀行と政府の関係について、しばしば「中央銀行は目標の独立性をもたず、手段の独立性をもつ」と表現している。
 こうした見方について、日銀としては政策委員会・金融政策決定会合で決めた金融市場調節方針にコミットメントしていたとの反論があるかもしれない。たしか に、2001年3月から2006年3月まで、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的に0%以上となるまで継続するとの明確な「約 束」に沿って、量的緩和政策を継続してきた。
 ただし、これは外部から見たら「言い訳」にすぎない。というのは、日銀は物価見通しをこれまで何度も下方修正して、それでシナリオどおりだという後出し じゃんけんばかりやっている。日銀はフォワードルッキングといって、先読みの政策をやってきているというが、先読みがあったためしはない。
 また、見るべき物価を間違えている。一般的に、物価はGDPデフレータで見るのが優れている。ただしGDPデフレータは統計作成が遅れるため、できるかぎりそれに連動するもので物価を見る必要があるので、コアCPI(消費者物価指数)で見るのが世界の常識である。
 海外では、このコアCPIは変動の激しいエネルギー・食品を除いているのが通例であるが、日本はなぜが生鮮食品しか除いていない。このため、コアCPIの 数字で海外から誤解を招くことが多かったので、竹中平蔵氏が総務大臣になった2006年から、エネルギー・食品を除いたCPIも公表するようにした。とこ ろが、マスコミ報道は相変わらず、古いCPI(除く生鮮食品)であり、日銀も古いものを使いつづけている。
 ちなみに、6月のCPI(除く生鮮食品)は前年同月比1.9%の上昇であるが、CPI(除くエネルギー・食品)は0.1%、4―6月期のGDPデフレータは前年同期比1.6%の下落であった。
 このようにいうと、「日常品で値上がりしているのでインフレではないか」という声が聞こえてくる。だがインフレというのは、正しくは全体の物価水準の上昇 であり、現在のような状況は「海外インフレ、国内デフレ」である。国内が本当にインフレになれば、賃金も地価も上がるはずであるが、そうなっていない。
 いずれにしても、ホームメイドインフレの指標であるGDPデフレータがマイナスである以上、日銀の金融政策は失敗したといわざるをえない。要するに、 GDPデフレータがマイナスのまま、しかもそれはCPI(除くエネルギー・食品)を見ていても容易に判定できたにもかかわらず、2006年から金融引き締 めを行なったのは、金融政策のイロハを間違ったのである。
 さらに、増税を行なう政府と金融引き締めを行なう日銀とのあいだの連携も結果としては不十分だった。こうして景気後退になった。

◇ もっとも効果的な経済政策は
 以上を踏まえ、景気対策を考えるなら、単純にいえば、2006年の逆をやればよい。つまり、金融政策を緩和しゼロ金利・量的緩和政策まで戻るとともに、財政政策も定率減税を復活させればよい。
 さらに、経済政策のセオリーを使うと、もっと効果のある対策もある。マクロ経済政策の効果について、マンデル=フレミング理論というノーベル経済学賞の栄 誉に輝いた有名な理論があるが、同理論によれば、変動相場制の下では、金融政策のほうが財政政策より効果が高い。財政政策は為替変動・輸出入変動を通じ て、その効果が海外にスピルオーバーするからだという。
 ここで、今年度中に使える埋蔵金6兆円に戻ろう。じつは2回目の埋蔵金10兆円(正しくは9.8兆円)について、今年度予算で国債償還に充てられていると 説明したが、正確にいうと、埋蔵金9.8兆円のうち、市中の国債買い入れに充てたのは3兆円だけであり、残りの6.8兆円分は、日本銀行が保有する国債 3.4兆円分と、財務省の資金運用部が保有する国債3.4兆円分を買い入れるとされていた。
 要するに、6.8兆円は広義の政府部門の国債償還に充てられているので、政府の外から見れば、何もしていないことになる。つまり、まだ使えるわけで、これが6兆円の意味だ。
 もうおわかりであろうが、マクロ経済効果が少なく財政赤字を増す定率減税の復活もさることながら、それよりも埋蔵金6兆円を活用すべきである。マンデル= フレミング理論の応用になるが、この6兆円を財政支出や減税より市中国債の償還に回すほうが、長期金利低下となって、金融緩和政策と相まって、大きなマク ロ経済効果になるにちがいない。
 こうしたマクロ経済政策ミックスは金利低下を促すので、実質的には設備投資減税と同じことになる。今回のようなエネルギー・輸入価格を上昇させ交易条件を悪化させる外的ショックに対して、省エネ体質にして長期的な競争力を強化するために、政策的にも望ましい。
 埋蔵金6兆円を使わないのは、もったいないし無駄である。使うとしても、財政支出や減税より、市中国債の償還のほうが、効果的という意味で無駄がない。ま して現在、与党内で議論されているように、金融政策なしで個別業界対策のような支援を行なうのは、ここで述べたマクロ経済政策ミックスと比べると、大いに 無駄な対策である。
 最後に、来年度予算に使える10兆円の内訳に触れよう。
 今年度の特別会計では、来年度への繰越金が25.4兆円ある。特別会計は、1年間で使い切れなかったお金は次年度に繰り越せるのである。だが余っているなら、その金を一般会計に返せばよい。
 ただ、約25兆円の繰越金のうち、翌年度に繰り越さないと資金がショートして支障が出かねないものある。しかし、一般会計に繰り入れても問題ない繰越金 が、私の見積もりによると、5.3兆円ある。その内訳は、労働保険特会で0.8兆円、財政融資特会で2兆円、外為資金特会で2.5兆円である。
 また、特別会計で今年の黒字分を繰り越すのは、会計学でいうフローの数字だ。一方で、ストックに当たる積立・準備金がある。そのうち、財政融資資金特別会計は、金利リスクに備え現在10兆円の積立・準備金をもっているが、ここから4兆円分を取り崩すことは十分に可能だ。
 もう1つは、労働保険特会である。先に指摘したとおり、雇用保険料が高すぎるのか、0.8兆円もカネが余っている。にもかかわらず、一般会計から毎年0.2兆円が投入されている。
 すき焼き三昧の離れに、粥をすすっている母屋から仕送りをする必要はなく、すぐ停止すべきだ。「骨太2006」では、社会保障費の自然増分を年に2200 億円ずつ抑制するとされ、それは難しいと厚生労働省は文句をいっている。だが、自分たちがもっている労働保険特会の埋蔵金だけで解決できる。さらに、労働 保険はストックベースでも4兆円以上余っているので、それらを取り崩しながら、長期的に維持可能な社会保障システムを考えたらいいだろう。
 こうしたお金をうまく使わなければ、無駄なお金といわれてしまうだろう。

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」
無駄となりそう....。

金曜日, 8月 22, 2008

首相・財務相らと補正予算に向け作業することで一致=与謝野担当相

「
[東京 22日 ロイター] 与謝野馨経済財政担当相は22日、午前の閣議後会見で、閣議前後に福田康夫首相、伊吹文明財務相、二階俊博経済産業相、町村信孝官房長官と総合経済対策について議論し、補正予算に向け作業することで一致したことを明らかにした。

ただ、会議では具体的な規模や財源についての言及はなかったという。

きょ うまでに取りまとめる予定だった政府案については「政策のラインアップはできた」としながらも、「予算上の措置をどうするか、その他の税制など政策手段を どうするかの問題が残っている」として、さらに検討を続ける考えを表明。来週以降は与党との調整も行い、予定通り月内に総合経済対策を取りまとめる考えを 明らかにした。

<伊吹財務相が補正予算に言及>首相や経済関係閣僚らとの会議では、総合経済対策に伴う2008年度補正 予算編成について「伊吹財務相が内容や規模など具体的なことはいわないが、補正予算の話を『補正予算』という言葉を使って話をした」と説明。「そういうも のに向かって作業を進めることについて意見が一致した」と述べ、関係閣僚間で補正予算の編成で合意したことをにじませた。伊吹財務相からは「国債発行」に ついての言及はなかったという。

<赤字国債発行の是非は財政当局や党が判断>一方、自民党の園田博之政調会長代理が21 日夜、総合経済対策の財源について赤字国債の発行もやむを得ないとの認識を示したことに関しては評価を避け、赤字国債発行の是非については「私自身は何の 意見もない。これは財政当局や党に考えていただくことで、いえるのは、ばらまきにしないことだ」と述べるにとどめた。

<追加国 債発行と財政規律の両立>そのうえで与謝野担当相は、追加国債発行は財政健全化の後退にならないかとの質問に対して「財政規律というのは非常に難し い言葉で、原点は『入を計って出を制す』ということ。その意味では小泉内閣の後半になんとか国債発行を30兆円以下に抑えようとしたのは、財政規律の第一 歩であった。それは財政規律そのもの、そのものというのは財政規律の原点ではなく、それに向かっての歩みだ」と説明。

続けて「大変緊 急を要する事態に直面した時に、緊急事態に対応するような行動・予算が必要か、財政規律が必要か、二者択一になることはあり得る。その時にどちらかを取る 話ではなく、両方を少しずつ取るという話ではないかと私は思っている」と述べ、国債の追加発行と財政規律が両立し得るとの認識を示唆した。

ただ、これは「重要な政治判断だ」と繰り返し、「大事なのはばらまきに至らない。そういう経済対策でなければならない。単に有効需要を創出するということだけを目的にしたカネの使い方であってはならない」点を強調した。

(ロイター日本語ニュース 吉川 裕子記者)
」

総合経済対策での赤字国債発行は否定できない=自民政調会長代理

「
[東京 21日 ロイター] 自民党の園田博之政調会長代理は21日、民放テレビで、政府・与党が検討中の総合経済対策の財源について「年内に出せる財源は8000億円から9000億 円程度で、多分それ以上のものが必要になると思う。その場合は新たに国債を発行することは否定できない」と述べ、赤字国債発行もやむを得ないとの認識を示 した。対策の規模については明言を避けたが、新たな借金を背負うことになるのだからバラマキはしないと強調した。

経済対策に充当でき る財源は、2008年度当初予算に予測できない事態に備えて計上している予備費約3300億円や2007年度決算の剰余金6300億円がある。ただ、剰余 金は財政法で約半分を国債の償還に充てることが決まっている。さらに、今年度予算の想定長期金利に比べ市場実勢が低位なため、国債利払い費の余裕が追加財 源として期待できる。こうしたものを足し上げると、園田政調会長代理が指摘する8000億円─9000億円となる。

一方、公明党の山 口那津男政調会長は対策の規模については「兆円規模」とし、予備費など今みえている財源では不十分で1兆─10兆円の範囲で検討中と語った。財源は「単純 に赤字国債はまずい。むしろ、特別会計を見直し、これを活用するか考える必要がある」と述べ、特別会計の活用による財源のねん出を主張した。

」

木曜日, 8月 21, 2008

ばらまき型の景気対策必要との考え方、今政府にはない=官房長官

「
[東京 21日 ロイター] 町村信孝官房長官は21日午前の会見で、政府が検討している総合経済対策について「需要不足で景気が下振れしているわけではないので、大規模な需要を公的支出で求められているのかどうか、考えなければならない問題」と指摘した。

その上で「ばらまき型の景気対策が必要だという考え方は、今政府にはない」として、大規模な対策には否定的な考え方を示した。

町 村長官は必要となる対策について「たとえば低炭素社会に移行する、あるいは高いエネルギー・食料価格にいかに対応していくのか、それに資する対策というよ うな構造的な視点、そうはいっても急激な価格上昇にうまく対応できない人々への手当ては、今回の総合対策で考えていくということはある」との方向性を示し た。

所得税減税については「税制の抜本改革は党でも議論を始めているところだし、自民党税調も来週再開されると聞いている。そうした 場で、どういう趣旨の、何を目的にした減税をするのかというところからしっかりした議論をしてほしい」とした上で、大きな税制改正については年末に向けて の抜本的な税制改革の中で議論されるとの認識を示した。

(ロイター日本語ニュース 中川泉記者)
」

火曜日, 8月 19, 2008

臨時国会の9月中旬召集で合意、来週総合経済対策を決定=政府・与党

「
[東京 19日 ロイター] 政府・与党は19日正午に連絡会議を開催し、焦点となっていた臨時国会の召集時期を9月中旬とすることで合意した。

会議で福田康夫首相は、原油・食料価格高騰や景気悪化懸念に対応した総合経済対策を来週にもとりまとめる意向を表明したが、2008年度の補正予算編成について言及することはなかった。

複 数の与党幹部によると、連絡会議の席上、福田首相は臨時国会の召集時期について「9月中旬に開きたい」と発言。臨時国会召集のタイミングでは、新テロ対策 特別措置法の延長・衆院再可決をにらんで9月上旬をめざしていた政府側に対し、再可決に慎重な意向を示していた公明党側は9月下旬を主張。福田首相の提案 は公明党に配慮した格好で、公明党の太田昭宏代表は会議終了後、記者団に対して「(中旬開催に)了承した」と語った。

その上で、太田代表は中旬開催の理由について、会議で福田首相が臨時国会で解決すべき課題を挙げたことを明らかにした上で、「(課題解決に)ある程度の時間は必要と判断したのだろう」と述べた。

太 田代表によると、福田首相は課題として、総合経済対策、国際協力、消費者対策(消費者庁関連法案含む)、前通常国会からの継続案件の4点を指摘。太田代表 は会議において、これらの課題の解決に向けて「与野党間の協議が極めて重要。党首間の話し合いを含めて与野党の協議を進めてほしい」と民主党の小沢一郎代 表との党首会談を要請したことを明らかにした。

自民党の細田博之幹事長代理によると、臨時国会のポイントとなる総合経済対策について福田首相は会議で「来週中には決定したい」ととりまとめを急ぐよう指示。麻生太郎幹事長は「税制面の政策を含めて思い切った対策をお願いしたい」と発言したという。

政 府は11日に対策の骨格を公表しているが、麻生幹事長や公明党が主張する税制面の措置の取り扱いを含めて規模や財源は依然として不透明。次期衆院選をにら んで規模拡大を求める与党と財政再建を重視する政府との溝が存在しており、複数の与党幹部によると連絡会議において補正予算編成に対する言及はなかったと いう。

(ロイター日本語ニュース 伊藤 純夫、吉川 裕子)
」

今の段階で赤字国債を出す出さないという話ではない=麻生幹事長

「
[東京 19日 ロイター] 麻生太郎自民党幹事長は19日、自民党役員会・役員連絡会終了後の会見で、総合経済対策に伴う財源に関して「最初に額が決まっているわけではない。何が必 要か積み上げた結果だ」とし、「今の段階で赤字国債を出す出さないという話ではない」と語った。

赤字国債の発行は回避する形で対策の検討を進めるかどうかについての明言を避けた。

具 体策に関しても麻生幹事長は明言を避けたが、「企業の設備投資が動く。個人の投資意欲が高まるようなことが、中長期的にみても、短期的にみてもよいのでは ないか」と指摘。税制関連のメニューについては「税制は間違いなく今回の対策で中長期的に考えるべき政策」としたが、具体的には自民党税調会長らと話しを していかなければならないと語った。

一方、麻生幹事長によると、午前の会合で福田康夫首相が経済対策に関し「政府としては、今週中に 各省庁からの考え方をまとめ、来週早々には党と詰めていきたい」と発言。幹部からは「緊急事態を念頭において思い切ったものをお願いしたい」(笹川堯総務 会長)、「若年層の雇用所得関連を考えてもらいたい」(古賀誠選挙対策委員長)などの意見が出た。

自民・公明党間で調整が難航してき た臨時国会召集日について、福田首相が昼の政府・与党連絡会議で基本的な考えを示すことを明らかにした。臨時国会で審議されるテーマは1)経済対策、2) 国際協力、3)消費者庁設置などに関する消費者行政、4)前国会の積み残し──など。会期幅は、これら審議すべき課題を踏まえて詰めることになるという。

(ロイター日本語ニュース 吉川 裕子記者)
」

水曜日, 8月 13, 2008

原油高と“ばらまき”の誘惑

「竹中平蔵(慶応義塾大学教授)
Voice2008年8月13日(水)14:51
原油高、一次産品高騰、サブプライム問題……。世界の経済環境は1年前と大きく変化した。このようななかで、新たな 政策課題が多数生じている。スタグフレーションにどのように対処するか、原油高で苦しむ業界をどうするか、原油高そのものを抑える方策はあるのか……。政 策を担当する政府の責任は重大である。

そんななかで、政府の政策のあり方に関する基本的な方針が公表された。今年の骨太方針と、いわゆる第二前川レポート(経済財政諮問会議の「構造変化と日本 経済」専門調査会報告)である。しかし残念なことに、今日の厳しい経済環境の変化にどのような基本スタンスで臨もうとしているのか、メッセージを読み取る ことができないのである。骨太方針についていうならば、全体で41ページの報告のなかで、マクロ経済運営についての記述は0.5ページしかない。かつ、そ の内容は、昨年の記述とほとんど変わらないものだ。さすがに第二前川レポートにおいては、こうした問題意識に基づく現状の解説は行なわれている。ただ、そ れに対する処方箋は「開放されたプラットフォーム」をつくるという一般論に終始している。

原油価格上昇、一次産品高騰に関連して、今後政治の場で多くの政策論議が出されるだろう。選挙が近いことを意識した「ばらまき」型の政策に走る傾向も懸念される。われわれは、以下の点に十分な留意が必要だ。

まず認識する必要があるのは、輸入財の価格上昇すなわち「交易条件の悪化」が生じる際には、国民の生活水準は低下せざるをえないという厳しい現実である。 これまで100円で手に入っていたものが、200円さらには300円支払わねばならないわけだから、購買力は確実に海外に移転する。石油燃料を多く使用す る輸送業や漁業の業績が悪化したり、消費者の家計が苦しくなるのは、程度の差はあれ避けられない現象なのである。もちろん、だからそれをすべて放置してよ いということではない。価格形成に圧力がかかって(たとえば大手業者が買い叩いて)零細業者が不当に苦しむような事態は修正されなければならない。しか し、交易条件が悪化している以上、結果的に当面は国民全体としての生活水準が下がるということは甘受しなければならないのである。

しかし現実問題として、ポピュリスト的な政治勢力(与野党を問わず……)とメディアの一部は、影響の大きい業界の救済を強力に求めるだろう。このような動 きはすでに始まっており、補正予算で補助金や無利子・低利貸付の活用を求める声が強まっている。政策を考えるに当たっては、ばらまきを避けてきわめて限定 的な対応を行なうことが求められる。具体的に、政策の項目は次の3点に絞られなければならない。

第1は、当面の生活さえも危ぶまれる人たちに対するセーフティネット的な対応である。もっとも、こうした場合も、本来は生活保護で対応すべきものである。 ただ、価格の変化があまりに急激であり対応が不可能なケースに限って、限定的な政策対応を行なうことはありうるだろう。ただし期間を限定するなど、しっか りとしたルールに基づいた政策としなければならない。

第2は、価格変化に対応した新たな技術への移行を助ける場合などに、必要な資金を低利で提供するという政策だ。最近しばしばイカ釣り漁船の問題が取り上げ られるが、極端な例でいえば、石油燃料に依存しない新しい漁法への移行(それがどのようなものかチェックが必要だが……)などを推し進めるのは意味があ る。そうした投資が困難な中小業者に一定の範囲で政策融資を行なうことは、考えられてよい。

その際、あらためて確認すべきなのは、相対価格の変化を歪めるような安易な救済措置は避けなければならないことである。たとえば、原油高で苦しんでいるか らといって原油の価格を補填するような財政措置をとってはならない。価格の高騰は厳しい事実ではあるが、高い価格によってこそ省エネと代替エネルギー開発 が進む。安易に一時的な価格補填を行なうことは、省エネのインセンティブを抑え込むことにほかならない。じつは第一次石油危機の際、日本は安易な価格補填 をとらない国であった。石炭などの代替エネルギーも存在しなかったために、世界のなかでも、もっとも厳しい石油価格上昇に直面した国となった。しかし、だ からこそ今日、日本は世界でもっとも省エネが進み、エネルギー効率の高い国となったのである。

じつは第二前川レポートでは、こうした点についての一般的考え方はかなり明快に書かれている。「価格のシグナルの活用を」という項目を立てて議論する姿勢 は、そのかぎりにおいて正しいものである。たとえば、「重要なことは……短期的に痛みを緩和する政策への誘惑を極力排除すること」「相対的な価格の変化 は、何が不足し、何が過剰かを示すシグナルでもある」といった指摘は適切なものである。

第3は、長期的な国家戦略としての代替エネルギー開発、省エネの促進である。原油価格の今後の動向については、専門家のあいだでもさまざまな見方がある。 筆者はあえて、中長期的に原油の値上がりが続くという見方を提示したい。しばしば指摘されるように、現状の原油価格には投機による行きすぎた部分が含まれ ている。しかし、もしバブル的な要素だけが問題であるのなら、事態はそれほど深刻ではない。バブルはいつか必ず崩壊し、結果的に原油価格の上昇は抑えられ るからである。しかし現実には、原油の(さらには精製の)供給サイドに構造的な問題があり、いったん価格は下がっても、その後、中長期的に原油価格が上昇 する可能性が高い。その最大の理由は、第一次石油危機当時は供給の40%を占めていた国営企業のウエイトが、いまや65%を占めるようになっていること だ。一般には、価格が上昇すれば供給が増える、という当然のメカニズムが働くはずだ。しかし、国営企業のウエイトが高まるなかでこうしたメカニズムが働き 難くなっている。

選挙が近づくなかで、政治の世界では原油高に苦しむ業界への露骨な救済策が議論されてこよう。また、なかには、インド洋での自衛隊の給油に掛かるコストを 削減し、その分、国民の価格負担を補えといった議論さえあるという。しかし繰り返しいうが、第一次石油危機の当時、日本はそうした安易な救済措置をあまり とらなかったからこそ、今日の省エネ・環境大国と呼ばれる状況が出現した。政策における短期と長期の“インコンシステンシー(矛盾)”にどのように対処す るか、経済政策の軸足が問われる。
」
この程度なら、誰でも何とでも、対策打てたんだろね....。

土曜日, 8月 02, 2008

日本の政局、膠着状態に直面

ちょっと楽しめる読み物だったんで、全文引用させてもらっちまいましょうか....
「
フィナンシャル・タイムズ 2007年8月2日(木)14:00

(フィナンシャル・タイムズ 2007年7月30日初出 翻訳gooニュース) FT東京支局長デビッド・ピリング

安倍晋三首相の初めての、そしてもしかして最後の、国政選挙で最も印象的だった姿は、首相のものではなかった。それよりもはるかに記憶に残ったのは、四面 楚歌状 態にある赤城徳彦農水相の姿。巨大なバンソウコウを顔中に貼って登場して、その異様な様子で記者団を仰天させた時の、あの姿だ。

安倍政権の信頼性を次から次へと侵食した政治とカネのスキャンダル。その最新版の中心にいた赤城氏は、どうしてバンソウコウを貼っているのか、顔をどうし たのか、 説明しようとしなかった。そもそも何か困ったことがあったのか、そのこと自体を認めようとしなかった。そしてひたすら、「何でもありません」と繰り返し た。

「満身創痍(まんしんそうい)」といったこのイメージは、29日の参院選で惨敗した安倍首相に実にふさわしい。一説によると今回の選 挙は、 1955年の自民党結党以来、最悪の敗北なのだそうだ。指導力に対する信頼がボロボロに失墜した安倍首相も(赤城氏同様)、「何でもありません」というフ リをするしかないところまで追い込まれた。首相は有権者の厳しい判断について「反省していかないといけない」と認める一方で、「基本的な政策は間違ってい なかったと思うし、国民のご理解をいただいている」と繰り返した。

しかし選挙結果をざっと見渡した限り、そういう風には全く見えない。選 挙結果によると自民党は、浮動層の多い東京、名古屋、大阪など大都市部で大きく敗退。それに加えて、自民党にとってさらに深刻なのは、農村部でも散々に敗 れていることだ。自民党があたかも永遠に選挙で勝ち続けるかのように見えていたのは、あくまでも農村部の支持基盤に下支えされていたからだというのに。

自民党は6年前、29ある1人区のうち25選挙区で圧勝したものだが、今回はわずか6勝。民主党は今回、農村地域の23県で勝利した。これはアメリカ政治 で言うなら、(ブッシュ大統領地元の)テキサス州で民主党が地滑り勝利を収めるようなもの。日本の民主党は、それと同じくらいありえない大勝を収めたの だ。

米コロンビア大学の日本専門家ジェラルド・カーティス教授は、安倍首相惨敗という今回の選挙結果から、3つの大きな疑問点が浮かび上がったと指摘する。 (1) 有権者はなぜ安倍首相にこれほどきつい罰を与えたのか。(2) 短期的そして中期的に、日本政治はどうなるのか。そして、(3) 政策への影響は何かあるのか——の3つだ。

有権者が怒った理由はいくつか推測できる。安倍内閣は発足当初から相次ぐスキャンダルまみれだった。閣僚2人が辞任し(訳注・8月2日現在で3人が辞 任)、1人はあろうことか汚職で追及された挙げ句に自殺した(この人の後任が、例のバンソウコウ だらけの赤城農水相だった)。これに加えて、年金記録問題が発覚。安倍首相の責任ではないことは明らかだが、役人の怠慢のせいで年金記録5千万件が行方不 明になり、何百万人もの老後の生活に影響が出るかもしれないと発覚した時、国民は怒ったのだ。

しかし、有権者が安倍政権に圧倒的な 「ノー」をつきつけた背景には、もっと深い理由がある。それはつまり前任者からの移行が、うまくいかなかったのだ。あの抜け目のないカリスマ的な小泉純一 郎氏から、比べてしまうと政治的な洞察力に乏しい安倍氏への引き継ぎが1年前、うまくいかなかったのだ。自民党の加藤紘一元幹事長は、今回の大敗の原因 は、小泉政治の負の遺産にあると話す。今回の選挙で起きたのは、小泉時代の経済改革に反発する国民の本格的な復讐であって、それに自民党がここまで痛めつ けられたのだと加藤氏は言う。

一見したところでは、加藤氏の分析は間違っているように見える。わずか2年前、小泉氏率いる自民党は総選挙で圧勝したのだし、昨年9月に首相を辞めた時、 小泉氏はまだまだとてつもなく高い支持率を獲得していたではないか。小泉氏が総理大臣だった5年間、日本経済は成長し続け、いわゆる「失われた10年間」 についに終止符を打つことができた。加えて小泉氏は、経済や社会に改革が必要だと訴え続けたし、少なくとも当時は多くの人が小泉氏による改革の呼び声をエ キサイティングなものだと受け止めていた。

それはどれもその通りだと、加藤氏は言う。しかし小泉氏がいなくなった今、小泉政治の遺産のあちこちが色あせて見え始めたと言うのだ。小泉改革の様々な施 策は農村部を痛めつけた。だからこそ今回の選挙で農村部が、自民党をとことん痛めつけたのだと加藤氏は言う。小泉改革は諸々の予算を削った。特に、産業の ない地方において貴重な雇用機会を提供していた公共工事の予算を大きく削った。地方交付税も削り、おかげで地方自治体は自分たちで独自に地元で税収をまか なうしかなくなった。この地方交付税削減に関係して(訳注・「三位一体改革」で税源が国から地方に移譲され)各地の住民税が引き上げられたわけだが、皮肉 なことに、有権者の多くは投票日の直前になっていきなり、自分たちの税金がはねあがっている事態に気づく羽目になった。


小泉氏は日本の経済危機を利用し、改革の必要性を国民に訴えた。とりわけドラマチックだったのは2005年の政局。あのとき小泉氏は、郵政民営化をめぐっ て有権者の圧倒的信任を自民党に取りつけることに成功した。「小泉改革には光と影の両側面があった」と加藤氏は言う。「小泉さんがそこにいれば、出し物と してずいぶんと面白かったが、小泉さんがいなくなった今、多くの人が小泉劇場の暗部に気づくようになった」

低所得地域の厳しい実情を、安倍首相はきちんと認識していなかったと加藤氏は批判する。たとえばかつては自民党の強固な牙城だった高知県が今回、民主党の 手に落ちた。日本全体で見ると有効求人倍率は1.06倍。つまり求職者100人に対して106件の求人がある計算だ。しかし日本列島4大島で最小の四国島 にある高知県では、求人倍率は0.48倍。つまり100人に対して仕事は48件しかないのだ。農村部の多くがそうだが、高知も人口に占める高齢者の比率が 非常に高い。若者たちはほとんどが仕事を求めて都市部に移住してしまっている。「こうした人たちの不満や苦しみを理解しようという姿勢が、安倍さんには見 られない」と加藤氏は言う。(訳注・加藤氏の日本語は全てgooニュースが英語から翻訳したもの)

コロンビア大学のカーティス教授もこの分析に同意する。「多くの人が小泉氏を支持したのは、その政策が好きだったからではない。日本人は小泉さんが好き だったから小泉さんを支持したのだ。小泉流の魔法が消えてしまった今、たくさんの不満や悲しみが残された。今回の選挙で農村部の有権者は、小泉改革に仕返 ししたのだ」

安倍首相は、国民にとって最も関心が深い日常の生活の問題を無視して、「美しい国、日本」という自分にとって大事なテーマを追求した。カーティス教授はこ う言う。第2次世界大戦後もっとも若い52歳の総理大臣は、「戦後体制からの脱却」を訴え、平和憲法を書き換え、教育内容を今よりも愛国的なものに変えよ うとしてきた。しかし本当にこれが優先事項なのだと、国民を説得できずにいる。「一国の首相が自分の国で体制変換をしようとしている。そんな国がほかにあ るだろうか」とカーティス教授は言う。

社会民主党の福島瑞穂党首は、安倍氏が一般国民の気持ちが分からない貴族なのだと批判する(安倍氏は祖父と大叔父が総理大臣)。アメリカのリンカーン大統領をもじって福島氏はこう言う。「安倍さんは、お坊ちゃんの、お坊ちゃんによる、お坊ちゃんのための政府の代表だ」

安倍氏は国民感情が分かっていないのなら、ではこれからどうなるのだろう。首相を続投できるという判断は、間違っているのだろうか? 答えはおそらく「イ エス」だ。「ここで逃げてはならない。政治の空白は許されない」と繰り返した安倍首相だが、このまま政権を担い続けるのは無理だろう。

首相続投を言明した安倍首相を、民主党はただちに反論。たとえば1998年の参院選で44議席(今回の37議席より7議席多い)と大敗した橋本龍太郎元首 相をはじめ、これまで選挙で大敗した自民党総裁はいずれも引責辞任というまともな対応をしていると、安倍氏を非難している。民主党の菅直人代表代行は「国 民の審判がはっきり下ったわけだから、その審判の結果と全く矛盾する行動を取ることは理解できない」と批判した。

しかし民主党には、首相を無理やり退陣させるだけの力はない。参議院で第1党にはなったが、内閣総理大臣の指名に関しては衆議院が優越する。そして衆議院 では(小泉氏のおかげで)自民党が圧倒多数を占めているし、衆院選の予定は2009年までないからだ。さらに言えば、5つの政党が合流してできた民主党 も、自民党に負けず劣らず、党内は分裂している。7月29日の選挙結果は、安倍首相に対する反対票であって、小沢一郎・民主党代表への支持票では決してな い——というのが、大方の政治評論家の見方だ。

10年以上前に自民党を離党した小沢氏は、新しい時代の改革派というよりは、「小泉以前」の昔ながらの政治スタイルが得意な、豪腕・辣腕(らつわん)な策 略家——というイメージが強い。自ら表舞台に立つよりも、水面下で動く方が得意な政治家だ。民主党の代表ではあるが、自分自身が総理大臣になりたいかとい うと、あまり意欲的ではない。29日夜の小沢氏は、政治的勝利を国民の前で堂々と祝うよりも、「遊説中の疲れ」を理由に世間の前から姿を消した。

少なくとも現時点では、安倍氏を本当に脅かすものは、野党ではなく自民党内だ。表面的には自民党実力者たちは揃って、首相続投表明を支持。中川秀直幹事長と青木幹夫参議院議員会長は、大敗の責任をとって辞任すると表明している。

それで安倍批判の風は少し和らぐのかもしれない。首相はすでに「人心を一新せよというのが国民の声だ」として、近く内閣改造するつもりだと言明している。

しかし30日の時点ですでに、自民党支持者の間では不満がふつふつと表面化していた。首相以外のみんなが責任をかぶる羽目になっているのに、なぜ首相だけは……と。

安倍氏はあと数カ月は首相の座に留まろうとするだろう。カーティス教授はそう見ている。小泉氏がすでに党内派閥の力をボロボロに打ち砕いてあるので、後任 の座をねらえるだけの実力者が党内にあまりいないのだ。麻生太郎外相は、首相になりたいと願っている。しかし彼もいわゆる政界のサラブレッドで、安倍氏の 考え方とかなり近いだけに、今のところは安倍支持の姿勢を保っている。ほかに候補として考えられるのは、昨年9月の総裁選で安倍氏と争った谷垣禎一前財務 相だ。しかし谷垣氏は、現行5%の消費税を引き上げようと一貫して主張してきた。選挙で消費税引き上げを訴えることは自殺行為に等しいと考える、党中枢に してみれば、谷垣氏も安倍氏と同じくらい厄介な存在ということになりかねない。

何がどうなるにせよ、総選挙が行われるまで、日本政局ははっきりしない状態が続くだろう。そのせいでこれから何カ月にもわたって政局が膠着し、政策が迷走 する恐れがあると、一部の政治評論家は指摘する。今回の選挙結果がもたらした新しい政界地図が、実際の政策決定にどう影響するか、そのきざしがすでに見え 始めているのだ。民主党は早くも30日、インド洋に展開する米艦隊を自衛隊が後方支援するためのテロ対策特措法の延長に、反対を表明したのだ。

自衛隊による米艦艇の給油支援。そして、イラク復興支援のための自衛隊550人派遣。これはいずれも、国際情勢にもっと積極的な役割を担っていくという日 本政府の覚悟を示すものだとして、米政府は大いに歓迎していたものだ。しかし参院選の結果を受けて、こうした動きは全て失速していくかもしれない。

しかし経済については、大きな揺り戻しはなさそうだと、専門家たちは見ている。参院選の結果は、小泉流の自由市場主義の流れに反発したものだという見方もできるが、方向性がすぐに大きく変わることはなさそうだ。

というのも民主党は、たとえそうしたくても、財政支出拡大を要求できる立場にないからだ。予算関連の決定権は衆議院にある。そして小泉改革によって日本に 新しくやってきた弱肉強食の経済に不満はたくさんあっても、国の借金を増やして増税しようと主張できる政治家はそうはいない。それどころかむしろ、消費税 率引き上げ議論はさらに先送りされる可能性が出てきた。とすると、仮に引き上げが決まったとしても、実施されるのは2010年以降ということになる。

衆参ねじれ現象で国会議決が滞ることになれば、新しい政策づくりはほとんど何もできなくなる。しかしだからといって、大した影響はないのかもしれない。地 方との格差は確かに問題だが、日本経済全体は堅調で、あと数年はこのまま拡大成長を続けるだろう。こうした状況なら、日本の政治家がお互いを罵り合うのに 忙しくて大胆な決断をする余裕がないというのは、そうそう悪くはないのかもしれない。

」

月曜日, 6月 23, 2008

日本が環境グローバルスタンダードを握る日は終ぞ来ないであろう理由

「
WIRED VISION

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

過去2回ヨーロッパの環境規制がグローバルスタンダードになる理由を考えてきました。まず、企業のサプライチェーンにショックを与える「新しい規制」を作る、ということでした。それが、サプライチェーンを通じて世界中に伝播する。

もう一つ付け加えなければいけないのは、尖った新規制は他国に真似される、ということです。例えば、カリフォルニア州はヨーロッパのRoHS指令を 文字通り「コピペ」。アメリカ全体がRoHS指令を採用したのと事実上同じ効果。中国や韓国もヨーロッパに追随して有害物質の使用禁止規制を導入しまし た。

「企業の事業活動を通じた事実上の伝播」と「他国がEU規制を真似る規制そのものの拡散」という二つのルートでEU規制はグローバルスンダードにのし上がっていったわけです。

前回ノルウェイの例で見たように、このようなことはEUのように巨大な政治体でなくても、小さな国でもできることです。さて、では日本にできるで しょうか? 環境ルールの世界で日本は世界覇権を握れるか? あくまで個人的な感想ですが、ワタシはあまり楽観的ではありません。


■日本では理念先行の尖った規制は無理?

「尖った」規制をつくることが日本は不得意です。いや、こう言うと語弊がありますね。正確に言えば、日本の社会は尖った規制をつくることに価値を置かない。

マスコミの報道を見ていれば明かです。ほんの些細な法令違反でも書き立てるのが昨今の新聞ですよね。法令は施行されたその瞬間から完璧に守られてい るべきだという社会的前提があります。このような社会的な状況下では、RoHS指令やその後のREACH(ものすごく革新的なEUの化学物質規制)のよう な鋭角的ルールは生まれてきません。

EUの法令は多分に理念的で、少なくとも当分の間きちんと実施されるなどとは誰も思っていない。法令違反の状態が一定期間続くことが暗黙の了解で す。逆に言えば、それくらい革新性があるということです。革新性は環境保護の理念から来るもので、よって、他国の環境当局にとってとても魅力あるものに映 ります。カリフォルニア州とかが真似する所以ですね。

日本は真面目なので規制つくるまでに徹底的に調整するでしょ。そして、施行当日からきちんと実施される。逆にいえば、実施可能なものしか法律にはな らないのです。当然、角がとれる。あるルールが国際的な訴求力を持つかどうか、最大のポイントは理念の強さであって円滑な実施ではありません。

調整といえば、欧州議会のRoHS指令の審理を傍聴していて「凄いなあ、敵わないや」と思ったことがあります。それは、中小企業を例外扱いするか、 という点。欧州議会は「環境保護に大企業も中小企業もない」と中小企業の例外扱いをにべもなく拒絶します。日本だったらどうでしょう? マスコミは「結局 しわ寄せを受けるのは可哀想な中小企業」ってなキャンペーンでも張りかねない。政治もそれを受け入れる。外国からは理解でいない例外だらけの規制になる。

表でEU規制がグローバルスタンダードになっていることに異を唱えている産業人に、「じゃ、日本が先んじますか?」と裏で聞けば、ほとんどの人は 黙ってしまうでしょう。グローバルに波及力のある規制ができても、マスコミは必然的に起こる不遵守の事例を面白可笑しく書くでしょう。世の論は無責任な法 律を作った政府を批判するでしょう。つまりそんな規制をつくることは、誰の関心事でもないのです。結果として、日本はEUの後ろを追いかけ続けることにな ります。

仕方ないと思います。他罰的な社会がすぐ変わるわけでもないから。頑張ってEUにロビイングしながら、国内では真面目に実施可能な環境規制を考える、というのは一つのやり方。そもそも規制が環境を改善するのではなく、規制の実行ですから。環境を改善するのは。

ただ、「環境グローバルスタンダードを握れ!」と威勢のよい主張に接すると、一体どこまでの覚悟があっての発言なのだろうって考えてしまいます。山ほど質問したくなる(笑)。

もちろん、希望がないわけではない。成功事例があります。「省エネ法のトップランナー方式」です。最もエネルギー効率の高い製品が基準になるという、日本発のアイデアでエッジが立っている。出来るときは随分物議を醸しましたが、海外で高く評価されています。

欧州議会で「日本に学びトップランナー方式をEUも導入すべきだ」という議論がなされたとき、沢山のロビイスト仲間が連絡してきました。祝意半分、疑念半分。「オマエ、うまくやったな」って(笑)。そんなことはなくて、あれはあの規制が持つ理念の力だったのです。

」

金曜日, 6月 20, 2008

もはや自民も民主も不要!:永久寿夫 (PHP総合研究所常務取締役)

「
Voice
ダッチロール状態の日本政治

ねじれ国会である。衆参それぞれ別の時期に選挙が行なわれるのだから、両院で多数派が異なる現象が生じるのは何もおかしくはない。いや、同時に選挙を行 なっても選挙方法が異なるのだから、結果的にねじれが発生する可能性もある。実際、外国の例をわざわざ持ち出さなくとも、過去を少し振り返れば、こうした 状況は9年ごとに現れている。

リクルート事件、消費税導入、宇野宗佑首相の女性問題と続いたあとの1989年の参院選で、自民は半数割れとなった。宇野首相辞任後の首相指名では、衆議 院が自民党の海部俊樹を指名したのに対し、参議院は社会党の土井たか子。参議院で、消費税廃止法案が可決され、89年度の補正予算が否決されるなどもし た。

それから9年後の1998年の参院選では、消費税率引き上げや景気の後退、失業率の上昇、減税に関する橋本龍太郎首相の一貫性のない発言などが要因で自民は敗北。責任をとって橋本首相は辞任する。

その後の首相指名では、衆議院で自民党の小渕恵三が指名されるも参議院は民主党の菅直人を指名。金融再生法案では参議院で野党が修正案を提示し、与党はそ れを丸呑みするという事態が生じている。防衛庁調達実施本部の背任事件で、額賀福志郎防衛庁長官が問責決議を通され辞任した。与党に打撃を与えたという点 では、今回のねじれと同様である。

ただし、今回のねじれが前回の2つのケースと決定的に異なるのが、自民・民主の大連立、あるいは大幅な政界再編がないかぎり、ねじれは解消しない点である。

1989年のときには、自公民が政党間協議で同調するというかたちで与党は参議院で過半数を回復した。98年のときには、自民は自由・公明と連立を図り、 ねじれを解消した。つまり、自民は参議院の少数派と手を組むことによって、危機から脱出したのである。だが今回は、自公与党は参議院で最大多数となった民 主党と大連立を組むか、さもなければ民主の一部を離党させて吸収しないかぎり、参議院で過半数を得ることはできない。

昨年11月にわいた大連立構想が誰の思惑で進められたのか、真相はよくわからないが、ねじれ現象を解消しようという力学が働いたのは確かだ。その大連立構 想の主人公で、「民主には政権担当能力がない」と自らの政党を酷評した小沢代表の辞任表明を拒否し、留任を求めた民主党幹部には、小沢代表が「配下」を引 き連れて自民に合流するのではないかという危惧があったのではないか。

いずれにしても、今回のねじれは規模が大きいだけに、その分、政局を大きく変化させうるだけのエネルギーが政治の舞台裏で溜まっている。

大連立が成立しなかった背景には、衆院選に向けて選挙区ごとの候補者のバッティングをどう解決するかという「ミクロ」な問題もあっただろうが、むしろ 1998年の結党以来、政権交代を悲願としてきた民主に、千載一遇のチャンスを逃してはならないという判断があったはずである。参院選の勢いがあるうちに 衆議院を解散総選挙に持ち込み、自公を政権の座から引きずり下ろす、与党と徹底的に対立し、ダメージを与える、そのためには手段は選ばない、という戦術が 開始されるのである。

その端的な例が、日銀総裁人事とガソリンの暫定税率ではないか。

日銀は財務省にとって最高の「天下り」先で、事務次官経験者が何人も総裁のポストを占めてきたのは確かではある。だが、これによって日銀の独立性が損なわ れてきたかどうかは一概に結論づけできない。もちろん、有害な天下りは無用だし、経歴が考え方を左右もするが、現職の独立性を保つために経歴を制限すると いう論理は強引すぎる。事実、民主内部ではそのやり方に批判的だった人間はかなりいる。何度も拒否を続ける民主をやりすぎとみた有権者は多いし、政府与党 も、それを予想して拒否されるような人材ばかりを提案してきたのではないか。

暫定税率のほうは、ガソリンは高いより安いほうがありがたいのは当然だが、ガソリンが安くなって喜びながらも、2兆6000億円もの財源がなくなってほん とうに大丈夫なのか、と多くの「普通の人」が心配した。政治がやるべきことは、暫定税率がなくなったら財政が立ち行かなくなるのか、それを実証的に議論す るところにあったはず。あとになって道路特定財源の一般財源化の議論がさかんになったが、そうした議論をそっちのけで税金を上げ下げするだけに終始した一 時期は、ポピュリズム中毒ともいうべき症状であった。

政府与党による一方的な国会運営が行なわれなくなり、日銀総裁人事や暫定税率など、これまで問題視されなかったイシューが国民の前で論議されるという事態 が生じたことは、ねじれ国会がもたらした1つの効果として評価すべきではあるが、実際行なわれたのは政策本位の議論というよりも政局バトル。反対のための 反対や人気取りといった空虚な争い。有権者にはそれがミエミエであった。

一方の政府与党といえば、虻蜂取らずの停滞状態を続けている。

先の参院選に向けて不祥事が次々と露呈して弱っていた安倍政権に対し、大局的には小泉・安倍の改革路線と同じ方向を走ってきた民主は、突然、方向転換した かのように「子ども手当」や「戸別所得補償制度」など「大きな政府」政策をマニフェストの前面に掲げ、小泉・安倍路線に「付いていけない」と感じた有権者 をさらい取った。

この民主の勝利を見た福田政権は、これまでの方向を突き進めば民意は離れると判断したのか、「ダウンズ均衡」をめざして改革にブレーキをかける。その表れが、小泉時代からの継続事項であった独立行政法人改革や公務員制度改革に対する福田政権の冷たい態度である。

根回し御免の渡辺喜美行革担当大臣の手法に対する批判もあるが、彼が示した改革プランを閣僚たちはほとんど無視。それをそのままにしている福田首相は思考 停止か、「改革派」と「守旧派」の均衡点にはまって身動きがとれないか。暫定税率を復活させ、10年間の道路特定財源法案を通しながら、閣議で一般財源化 を約束したのも同じこと。福田政権は結果的に何もしていないとの印象が強い。

結局、民主のポピュリズム中毒と政府与党の自家撞着で政治はダッチロール現象を引き起こし、到達したところが政治全体への不信ではないか。福田内閣の支持率はすでに10%台に突入、対する民主の支持率はたしかに伸びてはいるが、風が吹くというほどのものでもない。

活発化する超党派の動き

こうした膠着状態を打開しようという動きがないわけではない。与野党超党派の議員連盟や勉強会が新しく発足したり、活動を再開したり、その動きを活発化させているのである。

3月に発足した「せんたく議連」には、自民、民主、公明、国民新党など100名を超える議員が参加しており、分科会がいくつも設置されている。ねじれで法案審議が停滞しがちななかで、与野党横串の連携で風通しをよくし、政策の実現を図るというのが狙いのようである。

個別イシューごとに円滑な政策の実現を目的とした超党派のグループもある。たとえば「医療現場の危機打開と再建を目指す議連」「京都議定書目標達成議連」 「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」「多重債務問題対策議連」「量刑制度を考える会」「地方政府IT推進議連」などがこの2月ごろから次々と 設立され、活動を展開している。

政治的な信条によるグループなどもできている。自民党の中川昭一元政調会長が会長を務める「真・保守政策研究会」は自民党内の研究会だが、無所属から平沼 赳夫元経済産業相が参加していたり、また民主の保守系議員とも近い関係にある。こうした保守勢力から一線を画すリベラル派の勉強会として自民党の加藤紘一 元幹事長を中心として「ラーの会」が設立され、ここには民主、公明、社民、国民新党などからの参加もある。

さらにいえば、自民党内には与謝野馨前官房長官、園田博之政調会長代理という、いわゆる「財政タカ派」による勉強会や、小泉―竹中路線を継承する中川秀直 元幹事長が中心の「上げ潮派」による研究会もできている。民主にも同様に、その立場や政策論でさまざまな勉強会ができている。

こうした動きは、たしかに与野党の対話の模索ともいえるが、政界再編への備えとみることもできる。ただ、有権者として困るのは、このようなグループがいく つもできると、いったいどの政党がどのような立場でどのような政策を進めようとしているのか分からなくなり、混乱してしまうということだ。

もっとも、こんなことはいまに始まったわけでもない。自民党はもともと社会主義勢力に対抗するために保守政治家が合同してできた政党だが、全国の多様な支 持母体に実質的な利益をもたらそうとするプラグマティックな共同体として成長してきた。自民党がキャッチオールパーティと呼ばれるゆえんである。

民主党は、1996年の総選挙から導入された小選挙区において、自民という巨人に対抗すべく小勢力が結集してできた政党といってよい。そのDNAは、55年体制の自民党、民社党、社会党までじつに多様だ。民主党の右左のウィングは自民党より広いといわれるゆえんである。

そもそも小選挙区導入の狙いは、A党候補者かB党候補者かそのどちらか1人を選ぶことになれば、それぞれの政党は政策によってその違いを示さねばならず、 投票行動はそのまま政策選び、政権選びになるということである。利益誘導から政策中心の政治、政権交代が起こりやすい政治への転換を図ろうとしたのであ る。

実際、2003年の総選挙あたりから、各党はマニフェストを有権者に示すようになった。マニフェストとは、その政党のビジョンや、それを達成するための諸 政策と具体的な数値目標や方法、実施期限などを示す「政策パッケージ」であり、有権者と候補者の委任関係を明確にする「契約」である。

こうした「契約」を選挙前に提示することは、選挙制度改革の狙いどおりであり、選挙を重ねるたびに、その内容は洗練されつつあるのは確かだ。しかしなが ら、その中身を読み込んでいくと、同じ政党内のさまざまな思惑がモザイクのようにちりばめられており、まだまだ体系性の希薄な政策リストから脱してはいな い。この状態を、党の性格がそうなのだから仕方ない、それにマニフェストをそんなに真剣に読む人はいない、といって放っておいていいものではない。

商品に合わせて政党を再編せよ

いま有権者は政治に何を求めているのか。もちろん、個別的には、職業、住んでいる地域、性別、世代など、それぞれの置かれている状況で異なるだろう。

だが共通するのは、国際的にはグローバル化が進展し、国内的には少子高齢化というデモグラフィーの変化が財政に構造的な変化をもたらしつつあるなかで、日 本が将来的にいかにサバイバルしていくのか、そのために国のあり方をどのようにしていくのかという5年・10年先のビジョンと、その実現に向けた戦略的か つ、整合性のある具体策の提示ではないか。しかも、耳触りのいい話だけでなく、正味の話をしてくれということである。

国力はさまざまな側面で落ちてきているように見える。自分たちの生活がどうなるかも不安である。これにどう対応していけばよいのか、どのような覚悟が必要なのか、それを見通せるようにしてほしいということである。

総選挙はいつになるのか。自民の支持率が上がれば、なにも解散総選挙をする必要はない。逆に下がったら、議席は確実に減るので解散総選挙のモチベーション は下がる。民主の支持率が上がろうが下がろうが同じこと。論理的に考えれば、支持率回復のために総理が代わっても、来年の任期満了まで総選挙はない。

そのあいだにお願いしたいのが、自民、民主ともに、いまのばらばらになっている状況を整理し、自らの旗印を鮮明にしてほしいということである。すなわち繰 り返していうが、国内外の現状認識をしっかり行ない、5年・10年のビジョンを掲げ、それに向けた戦略的かつ、整合性のある具体策をメリット・デメリット も含めて提示してほしいということだ。

そうでなければ有権者は困るのである。自民の旗印がわからない。民主の旗印がわからない。いったいどちらを選んだらいいのか。どっちを選んでも同じではな いのか。仮に選んだとしても、何の説明もなく中身が変わってしまうのではないのか。そんな状況で選挙をしても意味がない。

さもなければ、それぞれの政治信条や政策を軸として、政界を再編してほしいということだ。くくり方が容易でないのは理解できる。外交・安保で一致しても、 社会保障では一致しない。その逆もある。さらに政策分野を増やせば、もはやグループ分けは無理かもしれない。松下政経塾出身者ですらまとまれないのであ る。

冷戦も右肩上がりも終わった。多様な価値観が存在し、政策も複数の問題に同時に解を出さねばならない複雑な連立方程式となった。政党が政治信条や政策でま とまるのは、事実上不可能かもしれないし、有権者も政策のパッケージではなく、アラカルトで選びたい。だが、選挙でそうした選び方はできない。既存の政党 政治はもはや限界に直面している。

これを解決するには、国が膨大な政策分野を抱え込む現在の中央集権体制を道州制などによって変える必要がある。つまり、地方が決定する守備範囲を拡大する ことで国政のディメンションの数を減らすという制度的イノベーションを待たねばならないが、それにしても、現在の政党の状況はあまりにもいびつである。

自民と民主の「保守派」、あるいはそれぞれの「リベラル派」は政治信条的にも政策的にも非常に近いものがあるように見える。縦で割るより、横で割ったほう がすっきりするではないか。また外交・安保についていえば、違いはあっても55年体制時代よりは幅は狭い。とすれば、社会保障や行財政など国内問題へのア プローチの違いで分ければよいではないか。

自民のある政治家は「新党なんて、信条や政策なんかでまとまるものではない。しがらみや馬が合うとか合わないとか、いろんな要素で集まるのであって、簡単 に割り切れるものではない」という。また、民主のある政治家は「やっとここまできたのに、政権奪取が目前にみえるのに、新党結成なんてありえない」とい う。たしかにそれはそうかもしれない。だが、いずれも政党のカスタマーである有権者を無視した話ではないか。いや、国の将来を考えていないということでは ないか。

有権者にとって、政治家同士のしがらみなど知ったことではないし、民主が政権奪取に王手をかけていることなどどうでもよい。重要なのは、どの政党が何を売 ろうとしているのかである。各党がはっきりとした商品のラインアップができないなら、商品に合わせて政党を再編してくれということである。商品が分からな ければ買えないではないか。

郵政造反組で無所属となった平沼赳夫元経済産業相が「新党侍」を選挙前に立ち上げるとか、高知一区から出馬表明している橋本大二郎前高知県知事があえてド ン・キホーテになって新党を結成するとか、いろいろな話がある。彼らにどの程度の求心力があるかは分からない。行き場のない「浪人」だけが集まるか、サン チョ・パンサがついてくるだけになってしまうかもしれない。だが、こうした動きが、ねじれ国会で蓄積された政界再編のエネルギーの起爆剤にならぬともかぎ らない。それに期待したいものである。

」

さてさて