木曜日, 11月 27, 2008

第二次補正予算案を先送りする日本が、世界から見捨てられる日【週刊 上杉隆】

ダイヤモンド・オンライン2008年11月27日(木)12:20
 おととい(11月24日)、英国政府は、景気刺激策として、VAT(付加価値税)の減税を発表した。総額200億ポンド(約2兆9000億円)、深刻な金融危機を受けて、英国経済を下支えするのが狙いだ。
 VAT(Value Added Tax)は日本の消費税に相当する。内容は、現行の17.5%から15%に税率を下げるというものだけあって、先月の銀行への公的資金注入と同様、国民からの反応は概ね良好だ。

 特筆すべきは、こうした政策の発表に当たって、首相自らが直接国民に訴えかける手法を用いていることだ。
 前日(23日)、ブラウン首相は、英大衆紙「ニュース・オブ・ザ・ワールド」に寄稿して、事前に減税案を示している。
〈必要とあらば、手を差し伸べる〉(”I'll give help when you need it”)
 こう題された手記は、低所得者層に向けて直接訴えかけるものとして、あえてタブロイド紙が選ばれたという背景がある。

「現在、家計で困難に直面しているすべての世帯に対して、私たちは手を差し伸べる用意があります。そして、政府はつねに皆さんの味方であることをわかってほしい」
 こうした発表方法は、日本では考えられないことだ。これは、政府のメディア戦術の一環であり、前政権のスピンドクター、アラステア・キャンベルがタブロイド紙の記者であったように、英政府の常套手段なのである。

 さて、話を戻そう。ブラウン首相は、24日の記者会見の中で、過去の日本の金融対策を引き合いに出し、名指しでこう批判している。
「わが英国は、日本のような悪い手本と同じ轍を踏んではならない。時間はない。少しの猶予もないのだ」
 ニューヨークでの金融サミットを終えて、参加各国は、早速、「内需拡大」に励んでいる。
 各々の国が、国内の景気を刺激すれば、それが全世界的な不況の“止血”となり、未曾有の金融危機を救う“国際協調路線”となりうる、これがサミットでの“合意”事項のひとつだ。つまり英国はその先頭を切ったというわけだ。


◇ オバマ氏をはじめ景気対策を急ぐ海外首脳たち
 同じ日(24日)、大西洋を隔てた米国でも、バラク・オバマ次期大統領が、新しい経済チームのメンバーを発表した。就任まで約2ヵ月、この時期の閣僚名簿発表は“歴史的な早さ”(CNN)である。
 その背景には、金融危機を引き起こした米国の焦りと、正式な政権移行まで待っていては、米国経済が本当に沈没してしまうという危機感があるのは想像に難くない。
 焦点の財務長官には、ニューヨーク連邦準備銀行のティモシー・ガイトナー総裁が起用され、国家経済会議(NEC)委員長にはガイトナーのかつてのボスでもあったローレンス・サマーズ元財務長官の就任が決まった。
 ふたりは共にクリントン政権時代のルービン財務長官の“愛弟子”でもあり、当時の好況を思い起こさせる心理的な戦略も見え隠れする。だが、経済政策自体は当時とまったく逆になると見られている。
 オバマ氏の“経済チーム”は、早速、大規模な雇用創出などを含む「経済再生計画」(新ニューディール政策)を発表した。オバマ氏自身も、景気回復には「1分の猶予もない」と述べて、さらなる追加対策を匂わせている。
 このように、金融サミット後、各国首脳は何かに追われるように、国内の景気対策を急いでいる。すでに中国は、サミット直前、総額4兆元(約57兆1360億円)の史上最大規模の景気対策を発表して、世界中から好評を得ていた。
 こうした中、なぜか日本だけが違う方向を向いている。それは、きのう(11月25日)はっきりとわかった。
 記者会見の中で、麻生首相は、第二次補正予算案の年度内提出を行わないことを明言したのだ。
 これには野党・民主党のみならず、自民党内からも批判の声が上がった。
 中川秀直元幹事長、塩崎恭久元官房長官、山本一太元外務副大臣などの“改革派”が、公然と麻生首相を批判し、それは党内抗争に発展する気配すらみせている。
 とくに山本議員は、自民党総務会のヒラバで麻生総裁を追及し、二次補正予算の提出を迫った。総務会での突き上げといえば、福田政権時の末期、また森政権時の最後を彷彿とさせる。

◇ 「政局よりも政策」では無かったのか?
 そもそも、「政局より政策」といって、追加の景気対策を優先するため、総選挙は見送ると断言したのは麻生首相ではないか。

 国際的な金融危機への対応こそが、日本に求められた責務だとして、金融サミットの成果を誇ったのは麻生首相自身ではないか。
 また、10月末の記者会見で、景気対策こそすべてに優先し、そのポイントは「スピードだ」と明言したのは他ならぬ麻生首相本人ではないか。
 金融サミットに出席したはずの麻生首相、いったい彼は何をしにニューヨークまで行ったのだろうか。

 得意の英語で、世界的な“合意”を確認してきたはずだが、どうも通じていないようだ。

 そもそもサミット直後、日本のメディアは「麻生首相、存在感示す」(読売新聞)と書いた。だが、筆者はいったいどこにそうした「存在感」を示したのか、ずっと疑問を抱いていた。(前回コラム参照)

 だが、今になってようやく氷解した。世界的な金融危機に直面して、共同歩調をとっている各国政府、その動きに逆行することで、麻生首相は日本の「存在感」を示していたのだ。


 世界が日本を見捨てないことを祈る。


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強烈な皮肉だけど、坊ちゃんにとっちゃ、馬耳東風ってトコなんじゃないかな。 とは言え、日本にとってこの危機感は、100年に1度の経済危機を超えちゃった気がする....。

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