新大統領が引き継ぐ難題
本誌が店頭に並ぶころには、米国の次期大統領は決まっているのだろう。金融危機やイラク問題など、新大統領はブッシュ政権から多くの難題を引き継ぐことになるが、その1つは、イラク戦争に代表される単独主義的行動で傷ついた米国の対外イメージを再建することである。
9・11テロは、全世界、とくにイスラム世界での反米感情を印象づけ、以後、米国では「なぜアメリカはこれほど憎まれるのか」が盛んに論議された。その結 果、米国では、広報活動や教育文化交流、対外放送を通じて他国民に働き掛ける「パブリック・ディプロマシー」に期待が寄せられる。
ブッシュ政権は、とくにイスラム圏へのパブリック・ディプロマシーにテコ入れし、民間のマーケティング手法の活用を奨励した。だが、成果は芳しいものではない。各種世論調査は、とくにイラク戦争後、イスラム圏をはじめ、多くの国で対米感情が悪化したことを示している。
だが、新大統領の登場は、米国のイメージを回復する好機になる。国家イメージは、多くの場合、政治指導者個人と不可分であり、いまの反米感情も、相当程度 反ブッシュ感情に結晶化している。ブッシュ大統領が大胆に政策変更しても米国イメージの好転は期し難い。対して、オバマ氏ならもちろん、マケイン氏であっ ても、外交姿勢の転換を印象づけられれば、対外イメージは改善できよう。ただ、新大統領にとっては、むしろ金融危機による「衰退」イメージを打ち消すこと が重要になりそうだ。
対外イメージを気にしている国は、米国だけではない。対テロ戦争で米国と行動を共にした英国は、イスラム社会との相互理解を強調するなど、米国から独立し た対外イメージを確立しようと必死である。中国は、孔子学院を通じた中国語教育や国際テレビ放送を大々的に展開しているが、北京五輪の対外アピール力は、 チベット問題や中国製品の安全問題で減殺されてしまった。
なぜ国家は対外イメージを気にするのか。まず、現代の国家は、グローバル市場のなかで競争力を高めるため、他国とは違う自国の魅力をアピールし、グローバ ルなヒト、モノ、カネ、情報を自国に引き寄せねばならない。加えて、情報化や民主化が相まって、対外政策決定における世論の比重が高まっており、対外的に 影響を及ぼすうえで、その背後にある他国民の支持や評価、信頼を得ることが不可欠になっている。
好感度より存在感を高めよ
こうしたなか、日本の対外イメージはまずまずである。グローバル市場のなかでの差別化の面では、先端的なモノづくりの強さに加えて、近年では、漫画やゲー ム、ファッションなど、ポップカルチャーが、「ジャパン・クール」として海外で受け入れられている。政治的評判についても、BBCの国際世論調査で、日本 は、世界に肯定的な影響を及ぼすとみられる度合いで例年1、2位を競っている。中韓を除けば、概して日本に対する好感度は高い。これらは民間の活発な活動 や穏当な対外政策の帰結だろう。
しからば、これでよいかといえばそうでもない。いまの日本にとっては好感度より存在感を高めることが必要だ。日本の国際的パワーの最大の源だった経済は伸 び悩み、少子高齢化が日本の国力基盤を侵食している。そうでなくとも、新興国、とくに中国の台頭で、放っておけば日本の存在感は埋没しがちである。
政府も手をこまねいてきたわけではない。外務省の報道担当に民間出身者を起用し、国際放送やポップカルチャーの利用を図るなど、新しい試みも見られた。小 泉政権期、歴史問題をめぐって中国や韓国などとの関係が紛糾した際も、従来以上に国際社会に日本の立場を主張する姿勢を見せた。
だが、政治の現状は、こうした営為を無にしかねない。国際舞台や報道を通じて海外でも露出が高い首相は、日本最大のコミュニケーションシンボルである。そ の首相がクルクル代わるようでは、いかにコミュニケーション手法を洗練させても、日本の姿は明瞭な像を結び難い。国内では、不人気な首相をすげ替えて支持 率を回復できても、対外イメージはピンボケになる。
日本が世界のなかでどう生きるか、適切な国家ビジョンなくして何のための存在感か、という反論もあろう。そのとおりなのだが、いくら優れた国家ビジョンで も1年やそこらで模様替えされるビジョンなど誰が覚えていようか。そもそも対外発信の前提たるべき国家ビジョンは、一定期間持続しなければ絵に描いた餅で ある。政権が相当期間続くことは、対外的な存在感確保の、十分条件でなくとも必要条件なのである。政権の安定性を高める制度設計上の創意が求められる。
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まどろっこしいけど、まぁ言いたいことは分かるかな。
どの道坊ちゃんも長くはないぞ....
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