水曜日, 8月 30, 2006

【FT】「危険」な愛国主義の波が日本を席巻

田母神の伏線って、この辺りにも潜んでるんだね....。
フィナンシャル・タイムズ  2006年8月30日(水)09:34


(フィナンシャル・タイムズ 2006年8月28日初出 翻訳gooニュース) デビッド・ピリング

加藤紘一は憤慨している。当然だ。

今月半ば、包丁と大量の油で武装した男が山形県にある加藤氏の実家を全焼させ、現場で「切腹」しようとした。この家に住む加藤氏の97歳の母親が散歩に出かけていたのは、本当にたまたまのことだった。

加藤氏宅への攻撃は、過激な右翼関係者によるものとされている。事件に至るまで、自由民主党ベテラン議員の加藤氏は、首相は靖国神社を参拝すべきでないと 繰り返し苦言していた。靖国神社は戦死者250万人を奉るだけでなく、東京裁判で戦争犯罪人として有罪になった東條英機元首相など戦時中の指導者数人も合 祀されている。小泉純一郎首相の靖国参拝は中国や韓国の怒りを買い、日本は戦時中の歴史に向き合うことを拒否していると批判されるに至った。

火傷のほか、腹部や手首への傷を治療中の容疑者はまだ供述していない。しかし警察は、日本で最も大切な愛国的象徴をボイコットすべきと加藤氏が主張したことに、男が激怒したものと見て捜査している。

加藤氏はかつて小泉氏の右腕だったが、首相は同氏の提言を退けて、8月15日の終戦記念日に靖国神社を参拝した。かつて日本と戦った国々にとっては、参拝が最も腹立たしく感じられる日だ。

加藤氏にとって一連の出来事は、日本が不健康な愛国主義に傾斜している証拠に見えるという。「非常に強い反中かつ反韓、時には反米的でもある愛国主義が日本に広がっていることが、心配だ」と加藤氏は言う。

1930年代から1940年代にかけて日本が戦ったのは、果たして正当な戦争だったのかどうか。米国の策略で開戦に追い込まれたのか。この議論を再燃させ てしまったのは、安倍晋三を含む政治家のせいだと加藤氏は批判する。「この手の愛国心は、指導者がいったん火をつけたが最後、鎮めるのがとても難しい。と ても危険な愛国心だ。政治家が利用すべきものではない」と加藤氏は言う。

大方の予想している通り、9月の自民党総裁選で安倍氏が小泉首相の後継者となった場合、事態は悪化するかもしれないと加藤氏。「小泉首相は東條たちが戦犯だと認めていた。しかし安倍氏はその考えを受け入れていない」

加藤氏の説では、安倍氏は祖父・岸信介元首相の考え方に強く影響されている。戦後に首相となった岸氏は、戦犯に指定されて拘束されたが訴追はされなかった。

安倍氏の側近たちなら、こう説明するだろう。次期首相候補は単に、60年にわたる日本の「自虐」史観から一線を画そうとしているに過ぎないのだと。戦争中 の日本はほかに類を見ないほど悪い国だったと、戦後の日本人に学校で教え続けた「自虐」史観の代わりに、安倍氏は「健全な愛国心」を復活させようとしてい るのだと。健全な愛国心とは、自分の国の文化や業績に誇りをもつことだと。

安倍氏はさらに、日本の自衛権とは何を意味するのか明確化しようとしている。安倍氏にとってそれは、戦力保持を禁止する今の平和憲法を改正し、日本が半世紀にわたり放棄してきた集団自衛権を明確に主張することを意味する。

現状では、もし日本が攻撃されれば米国には日本を守る義務がある。しかしもし日本周辺で米国が攻撃されても、日本は米国を支援できない。安倍氏のブレーン のひとり、岡崎久彦氏は「愛国心には良い愛国心と悪い愛国心がある。国旗を掲揚して国歌を斉唱することは良い愛国心。よその国の旗を引きずり降ろすのは、 悪い愛国心だ」と説明。安倍氏が後押ししているのは、良い愛国心の方なのだという。

しかし加藤氏はこうした動きについて、政治家が不健康な領域に国民を連れ込もうとしている、歴史に対する記憶喪失を積極的に後押ししていると批判する。

加藤氏はさらに、こうした危険な愛国心を本や映画が助長していると非難。たとえば、同氏実家に放火した男は犯行直前まで、右翼的な内容のマンガを読んでいたとされている。

ベストセラー「国家の品格」の著者で、日本の保守層の看板男ともいえる藤原正彦氏は「A級戦犯という概念は無意味だ。勝者には敗者をさばく権利はないからだ。東京裁判だけでなく、ニュルンベルク裁判も同様だ」と主張する。

「東條がA級戦犯だというなら、ルーズベルトもチャーチルもスターリンも毛沢東もそうだ。日本に原爆を落としたトルーマンもそうだ」

しかし加藤氏に言わせると、こうした考えは危険だ。それよりも、日本は自分たちが戦前に抱いていた傲慢や、植民地主義的な野心を正面から見据えるべきだが、そうではない「過去の間違いを全て帳消しにしたい人たちがいる」のだと加藤氏は言うのだ。

関連リンク ( 国を愛するとは.... )