火曜日, 12月 11, 2007

道路特定財源-一般財源化を断固阻止する“抵抗勢力”

ダイヤモンド・オンライン

 道路特定財源とは、自動車の利用者等が負担する揮発油税(基本的にガソリンに課される税金)や自動車重量税など、あらかじめ道路の建設や維持のた めに使われることが決められている税金のことを指す。この制度の基本には、当該施設を利用する受益者が、それを作ったり、維持するために必要なコストを負 担する、受益者負担の考え方がある。

 戦後の1950年代以降、道路という社会インフラの整備が遅れていたわが国は、道路特定財源の制度を使うことによって道路整備を進めた。その後、 道路網の整備が進んでも道路特定財源の制度が残り、その財源は、しだいに“道路族”と呼ばれる政治家が、自分の裁量に基づいて使うことの出来る一種の“資 金源”になっていたとの指摘もある。

 こうした状況を改革し財政の建て直しに貢献するため、特定使途の縛りをはずして、他の目的の支出にも使うことができる、いわゆる“一般財源化”が検討されている。

◇ 日本の道路整備の歴史は税金制度創出の歴史

 戦後の復興期、わが国の道路整備は遅れていた。道路を整備したくても、財源=資金がなかったことが最も大きな制約になっていた。その財源を捻出す るために、後の総理大臣・田中角栄議員(当時)が議員立法として作ったのが、「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」であった。

 翌年、揮発油税が道路特定財源化され、第1次道路整備5ヵ年計画がスタートした。58年には、臨時措置法が「道路整備緊急措置法」に改訂され、第 2次道路整備5ヵ年計画が策定されると同時に道路整備特別会計が創設された。このころから、わが国の本格的な道路整備が開始されたと考えてよいだろう。そ れに伴い、財源確保のために、66年に石油ガス税、68年に自動車取得税、71年に自動車重量税が相次いで創設された。

 こうした流れを振り返ると、わが国の道路整備の歴史は、新しい税金制度創出の歴史とも考えられる。しかも、74年以降、ほとんどの税金に関する税 率で、租税特別措置法によって、本来の約2倍近い税率が適用されている。揮発油税の本来の税率は1リットル当たり24.3円に対して、現行は同48.6円 になっている。この特別措置は、2007年度末に期限切れとなる。今後の国会の審議が注目される。

 積極的な道路整備の結果、わが国の道路整備はかなり進展したといわれている。その一方、数十年前に作られた道路に関する特定財源制度が残っており、「郵政の民営化と同じように、道路関係の特定財源制度を改革することが必要」との指摘が出てきた。

 この背景には、いわゆる“道路族”議員が、既得権益として、道路予算を支配しているとの批判が出ていることもある。そうした状況を改革するために は、族議員や一部地方の反対を押しきり、財源を“一般財源化”することによって、財政の効率化を図ることが必要になると見られる。

◇ 官僚と族議員の抵抗で“一般財源化”の議論は後退

 一応、郵政民営化の結果を出した小泉政権は、次の課題として道路特定財源問題を安倍政権にバトンタッチした。安倍政権下で様々な議論が戦わされた 後、2006年12月7日、政府・与党は、2008年の通常国会で、特定財源制度を全面的に見直す方針で合意した。具体的には、「道路歳出を上回る税収を 一般財源化する」ことが決められた。

 元々、道路特定財源の制度は、インフラ整備が遅れていた時期に、道路を作る財源を確保することを目的に作られた仕組みであり、整備の進んだ現在の 状況には適合しない部分が多い。その制度が残っているため、既得権益に固執する“道路族”や官僚などが上手く利用しているという面もある。そうしたデメ リットを改善するためには、制度自体の改革の必要性が生じることは避けられない。2006年末の合意は、相応の意義を持つものと考えられる。

 ところが、最近、そうした改革の動きが怪しくなってきた。

 まず、経済格差が進む地方や族議員から反対意見が出された。また、今年7月の参院選挙で、地方中心に安倍政権に対する批判が高まり、安倍首相率いる自民党が惨敗したこともあって、このところ、反対勢力の声が勢いを取り戻している。

◇ 不要不急の道路建設は続き増税も避けられない

 国土交通省も、今後10年間の道路建設に関わる中期計画の中で、税収をすべて道路建設等に使うことを素案としている。それが現実のものになると、一般財源化する対象がゼロということになってしまう。国土交通省は、道路特定財源の既得権を守る姿を鮮明化しているのである。

 さらに、一般財源から道路建設費用を捻出している地方公共団体や道路族議員の反対もあり、福田首相も、一般財源化には消極的といわれている。“一般財源化”の議論が大きく後退することは避けられないと見られる。

 そうした状況が続くと、これからも不要不急の道路建設が続き、道路族議員やそれに関連するファミリー企業等の既得権益が手厚く保護されることになるだろう。それでは、財政の効率化を図ることは難しい。

 その結果、増え続ける社会保障費負担を賄うため、消費税の引き上げが避けられなくなるのは明らかだ。友人の一人は、「最近、海外投資家が日本の改革に期待を抱かない理由がよく分かる」と指摘していた。残念だが、その通りだろう。