木曜日, 1月 17, 2008

ねじれ異常国会閉会で思う、福田長期政権の予感 【週刊・上杉隆】


ダイヤモンド・オンライン

 今週(1月15日)、第165回国会が閉会した。

 振り返れば、なんと、まぁ、騒々しい臨時国会であったことだろうか。福田首相自身も、一昨日(火曜日)の記者会見で、その異常性について言及している。冒頭から、騒動続きの国会であったことは確かだ。

 昨年9月12日、取材を通じてある程度の予測はついていたものの、安倍前首相のあの突然の辞任には、筆者も驚きを禁じえなかった。『官邸崩壊』は免れないとは思っていたもの、新テロ特措法の成立を宣言した所信表明演説の直後の辞任など、いったい誰が想像できただろうか。

 すでに、遠い過去の話のようになっているが、じつは、あの前首相の「辞任劇」は、今回の臨時国会の中で起きた出来事だ。忘れそうになるのは、それほど、この国会がその後もドタバタ続きだったからであろう。

 臨時国会の終了によって、福田政権はとりあえず一つ目の関門を抜けたようだ。今後の政局を分析する上でも、この「未常識の世界」(中川秀直元幹事長)は重要だ。最初にこの越年国会を軽く振り返ってみる。

◇ 新テロ特措法のための国会

 辞任直後の自民党総裁選では、本命の麻生太郎候補が、「麻生クーデター」によって消えた。実際は、8派閥の談合による福田支持が麻生支持を上回っただけなのだが、陳腐な「陰謀論」が政治闘争に花を添えた。

 福田政権の誕生は、自民党の延命措置であったが、いざ国会が再会すると、やはり7月の参院選敗北の後遺症が大きく響く。

 参議院で野党が過半数を占めるという「ねじれ現象」によって、審議は事実上ストップした。福田政権は、11月までの法案通過がゼロという異常事態を余儀なくされる。

 その状況を打破するため、「福田=小沢」による党首会談が開かれた。しかし、唐突な「大連立」構想が持ち上がったため、与野党の関係はかえって膠 着化した。会談自体が否定されたうえに、小沢代表の辞任表明などの「茶番」もあり、「大連立」構想が陽の目をみることはなかった。

 窮した福田内閣は、再々延長による「越年国会」を決断、結局、憲法59条に基づく衆議院の3分の2による再議決を経て、懸案の新テロ特措法を成立させたのだ。

 このようにこの臨時国会は、まさしく新テロ特措法のための国会だったといっても過言ではないだろう。だが、もちろんそればかりではなく、他にも成果はあった。

◇ 小泉・安倍とは異質の「自ら旗を挙げない」政治手法

「薬害C型肝炎救済法」は、計26本通過した法律の中でも特記すべきものだ。12月25日に「議員立法」での成立を指示してから、わずか2週間での法制化は、福田首相が世論の動向を意識したからだといわれる。

 実際、他の通過法案も、たぶんに世論の動向に影響を受けた痕跡がうかがえる。

 たとえば、「振り込め詐欺救済法案」では、高齢者など裁判に訴える余裕のない被害者を速やかに救済するため、預金などを補償させる仕組みを創った。もちろん、多発するこの種の事件を反映して成立させた法案だ。

「改正温泉法」、「改正銃刀法」も、それぞれ、東京・渋谷の温泉施設での爆発事故、長崎・佐世保などでの銃乱射事件を意識して、成立を急いだ。

 さらに、国会議員の政治団体への原則1円以上の領収証公開を義務付けた「改正政治資金規正法」や、永住帰国した中国残留邦人への基礎年金の満額支給などを決めた「改正中国残留邦人支援法」は、薬害肝炎と同じく、世論に押されて成立したものだ。

 このように、前政権のKYぶりを「他山の石」としたのか、福田政権は、あくまで世論の動向を見極めながら、低姿勢の政権運営を選択しているように思われる。

 いわば、小泉=安倍政権が、「自ら旗を立てて、参集した賛同者とともに政治を行なう手法」であるとするならば、福田首相は「周囲の賛同者にそれぞれ旗を揚げさせて、その中から最善のものを選んで政権運営を行う手法」といった違いだろうか。

 こうして傾向は、福田首相の目指すものを見極めるうえで取材の格好の指針となる。

◇ マスコミは内閣改造断念と報じたが…

 たとえば、昨年末の訪中以来、各メディアが報じていた「年明けの内閣改造」も、福田首相のそうした政治手法を考えれば、そもそもが「誤報」だった可能性が高い。

 福田首相は、中国での内政懇(外遊中の首相が同行記者団に内政について懇談するもの)で、「内閣改造については白紙で、年明けにするかしないか、考える」としか語っていない。

 臨時国会閉会直後の17日には自民党大会が控え、18日には通常国会が始まる。さらに、本予算や日切れ法案(租税特別措置法改正案など)を抱えて 政治日程に余裕はない。そうした状況で、内閣改造などありえるだろうか。状況を十分見極めてからでしか決断しない福田首相が、支持率をさらに悪化させる可 能性のある内閣改造という賭けに出ることはあるのだろうか。

 筆者はきわめて懐疑的であった。じつは、訪中前、福田は閣僚の一人にこう語っている。

「内閣改造をすると、またしてもマスコミが『事務所費用だ』『身体検査だ』と書きます。そうすると、政権は無用な混乱をきたします。ここは、身綺麗な皆さんに、是非とも夏のサミットまで辛抱していただきたい」

 こうして筆者は年末に、「内閣改造はサミット後」という記事を『週刊文春』に寄せた。果たして、年明けの内閣改造はなかった。たまたま当たった結果を誇っているわけではない。福田首相の性格を考えれば、この時期の改造を見送るのは当然の帰結であったのだ。

 だが、各メディアは「福田首相 内閣改造を断念」と報じた。そもそも考えていないことを「断念」とされるのだから、首相もたまったものではないだ ろう。だからこそ、年頭の記者会見で、福田首相は「勝手にマスコミが(内閣改造に意欲と)書いただけです」とわざわざ苦言を呈したのだ。

「少なくとも、内閣改造や総選挙ということを、福田総理が考えたということはないと思います」

 昨日、福田首相の最側近で、毎日のように携帯電話で連絡を取り合っている衛藤征士郎衆議院議員も、筆者にこう述べた。

 じつは、内閣改造についてのメディアの「誤報」の例をあえて述べたのには理由がある。

 なぜなら、いま各マスコミはまたしても、今年中の「解散・総選挙は避けられない」といった報道を盛んに流しているからだ。

 本当にそうだろうか。福田首相の性格と、臨時国会での政権運営の方針を見ずして、そう語り、再び同じ過ちを繰り返そうとしている気がしてならない。

 あす(金曜日)から始まる通常国会の最大の関心事は、解散・総選挙の是非と「日切れ法案」等の成立の可否となっている。

 ねじれ国会によって、道路特定財源の暫定税率維持のための租税特別措置法改正は、年度内の日切れまでの成立は不可能だというのが大方のメディアの見方だ。その上で、追い詰められた福田首相は、解散を余儀なくされるといったストーリーを作っている。

 だが、筆者は、自ら旗を掲げない福田首相が、果断な決断を要する解散総選挙に踏み込むとはどうしても思えない。

◇ 福田首相は長期政権を視野に入れている?

 伊吹文明幹事長は、火曜日の記者会見で、通常国会の早い段階で予算関連法案を、本予算と同時に衆議院に提出する方針を明言している。ということ は、再び憲法59条を使って60日ルールに基づく3分の2議決による年度内成立が可能となるということだ。本予算は言うまでもなく、衆議院に先議権があ り、30日ルールが適用される。そしてこの難局を乗り切れば、当面、福田政権への大きな障害は消える。

 その場合、7月の洞爺湖サミットを控える福田首相が、衆議院の解散に打って出る可能性は極めて低いだろう。父・福田赳夫首相は東京サミットを決め たものの、「第2次角福戦争」に敗れて東京サミットにOBとしてしか出席できなかった。外交好きの福田首相が、国際会議の議長を目前で手放したくないとい う理由の他にも、こうした福田家の因縁が政治決断を左右させるかもしれない。

 付け加えるならば、通常国会の終盤の5月末には、第4回アフリカ開発会議が横浜で開かれる。火曜日の記者会見で、福田首相はその会議の成功にも並々ならぬ意欲を示している。

 このように、臨時国会を丁寧に振り返り、政権の政治手法を検証すれば、福田首相の慎重な方針が、通常国会で突然変わることはないと思われる。

 前出の衛藤議員は、約2年前に福田首相が彼に述べた次の言葉を教えてくれた。

「首相は、4年間できないような人ならば、ならないほうがいいでしょう。1年間全力投球なんていう人はだめですね。政策は予算を1回組めば済むも のではなく、3回、4回と予算を組んで初めて実行できるものです。首相になったら、予算を通し、きちんと執行されるかも監視しなければならない。それに付 随するさまざまな法律も通さなければならない。そうすれば、4年なんてあっという間です」

 メディアの報道とは違って、案外、福田首相は、すでに長期政権を視野に入れているのかもしれない。



残念ながら....