金曜日, 2月 15, 2008

空港外資規制は「外為法改正」で対応するのが国際ルール 【町田徹の“眼”】

ダイヤモンド・オンライン

 成田や羽田といった空港に対する外資規制の導入問題が、渡辺喜美内閣府特命担当大臣ら3人の閣僚の反対に遭い、「閣内不一致」騒ぎに発展した。

  筆者は3閣僚に肩入れする気など毛頭ないが、国家安全保障の観点から言うと、この外資規制には非常に大きな落とし穴が隠されている。あえて強行すれば、国 際社会で物笑いのタネになるどころか、バッシングの対象になりかねない代物なのだ。もし、冬柴国土交通大臣の主張が事実であり、本当に外資規制が安全保障 のために必要だとすれば、長年、財務省が抜本改正要求を黙殺してきた外為法の強化という手法こそ、国際社会に通用する標準方式であることが見落とされてい る。

「関係各省で事務的調整が終わったものについて、閣僚が違うことを言うのは、組織としてどうか。(伊吹文明自民党幹事長からも苦言があったので)私から注意した」――。
  町村信孝官房長官は8日、こう述べて、成田、羽田といった空港運営会社への外資規制を盛り込んだ空港整備法改正案に反対を表明し「閣内不一致」問題を起こ していた渡辺喜美金融担当相、岸田文雄規制改革担当相、大田弘子経済財政担当相の3大臣に緘口令を布いたことを明らかにした。この日に予定していた空港整 備法改正案の閣議決定を見送らざるを得なかったことが緘口令の背景だった。

 問題の外資規制は、国土交通省が「安全保障・危機管理という 点から見て最低限必要なもの」(冬柴鉄三国土交通相)と導入を目指していたものだ。しかし、渡辺担当相ら3人は「資本規制という、鎖国的・閉鎖的な手段を とるのは間違いだ。外国からの投資を促進しようと、首相を先頭にダボス会議にまで行ってきた。ダボス会議から帰ってきたらいきなり外資規制とは、日本がど ちらの方向を向いているのか疑われる」「空港会社に緊急時に国への協力を義務づけるといった手段があり得る」(いずれも渡辺大臣)などと反対、議論が暗礁 に乗り上げていた。

 つまり、閣内では「安全保障」か「投資促進」かの2者択一議論が発生し、自民・公明の両与党も巻き込み、当の与党幹部が「閣内不一致の印象を与えるのはよくない」と嘆く事態を招いていた。

 だが、こうした2者択一論は、資本取引を巡る現在の国際的な常識に反するものだ。というのは、この2つは相反するものではなくて、両立するものであり、そのための国内ルールの整備手法にも国際標準と呼ぶべき方式がすでに確立されているからである。

 その方式は、原則的に、どのような分野であれ、安全保障上のリスクがある外国からの投資については、あらかじめ横串的に網羅する法律を設けて規制することを明確にしておくというものだ。

◇ 米エクソン・フロリオ条項に相当するのは外為法だが

 その代表例を挙げるとすれば、一番に挙げるべきが、米国の「1988年包括通商法」の「エクソン・フロリオ条項」だろう。同項は、必要に応じて、 米財務省、国防総省、連邦捜査局(FBI)など7つ程度の省庁を集めた特別組織を召集し、この組織に広範な判断を委ねることによって、外国企業による米国 企業に対するM&A(企業の合併・買収)を機動的に差し止める仕組みとなっている。

 過去に日本企業の米ハイテク企業買収が難航したり断念したりを得なかったケースがいくつもある。さらに、最近でも、2005年夏に同条項が抑止力になって中国海洋石油(CNOOC)が米石油大手のユノカル買収を断念した例などは有名だ。

 米国では、このエクソン・フロリオ条項が存在し、安全保障の観点からの外資規制が行われているものの、外資導入の妨げになっているといった批判はほとんどない。

 さらに、「先進国クラブ」と呼ばれるOECD(経済協力開発機構)加盟国の間では、そうした横串のルールに関する基本的な考え方が確立されてい る。そして、「この考え方を具現化した日本版のルールとして存在するのが外為法(外国為替及び外国貿易法)」(経済産業省幹部)なのだ。

 外為法は、様々な国際的な資本取引を監視・規制する法律だ。この中で、一般の外資による日本企業への投資については、発行済み株式の10%以上を 取得しようとする場合、1ヵ月以上の余裕を持って財務省や所管官庁に届け出ることを義務付けている。財務省や所管官庁は、このM&Aの審査に最大数ヵ月程 度を費やすことができるだけでなく、安全保障の観点から必要と判断すれば、M&A計画の修正やとりやめを命ずることもできることになっている。

 ちなみに、経済産業省と財務省が現在、英国の民間投資ファンドザ・チルドレンズ・インベストメント・マスターファンド(TCI)による電力卸大手Jパワー(電源開発)の株買い増しの届け出を受けて審査しているのも、この外為法の規定が根拠である。

 TCIは、現在、Jパワー株の9.9%を保有しており、20%まで買い増したい意向という。Jパワーは、2004年に完全民営化されたものの、今 なお「旧国策会社」だ。電力大手10社に電力を供給する卸の最大手であるだけでなく、送電線網や周波数変換所など多数の基幹電力設備を保有している。さら に、青森県には、プルトニウムを使う大間原発の建設を計画中。こうしたことから、経産省は「国の安全保障の網の中にある。原子力計画や電力安定供給の観点 からも重要なケース」と関心を払っているという。

◇ 空港外資規制の本当の理由は安保よりも天下り先確保?

 こうした外為法による規制と違い、今回、国土交通省が目指した空港整備法のような特定の産業を律する「業法」で外資規制を行うという手法は、国際 社会では極めて特殊なケースとして限定されている。例外の代表選手的な存在が、WTO(世界貿易機関)の基本電気通信交渉で、自由化が進められて来た通 信・放送分野だろう。この分野では、やはり「安全保障上、必要なケース」に限定されているものの、業法による外資規制が存続を認められている。この結果、 NTT法でNTT、放送法でNHK、TBSといった放送局がそれぞれ外資規制の対象となっているのだ。

 残された問題として注目されるのが、JAL、ANAといったエアラインの外資規制を認められている航空業法だろう。一見すると、今回、焦点の空港運営会社と業態が近いからである。

 ただ、エアラインの法律では、空港運営会社まで拡大解釈できないことから、今回の空港整備法改正案が持ち出された経緯があるという。それならば、 本来、空港運営会社を特例であるべき「業法」で外資規制の対象とすることは国際的な標準方式に馴染まない。あえて、外資規制を行うならば、外為法の対象に 加えるのが筋なのだ。現在、政府内部には、より広範な有事法制を整備し、その中で対応すべきだとの議論もあると聞くが、機動的にそのような法制ができると は考えにくい。やるならば、外為法が筋だろう。

 とはいえ、今回、問題になっている空港運営会社が保有しているのは、売店、飲食店が入っている空港ビルや駐車場だけらしい。滑走路や管制といった 重要な資産・機能は国の所管で、空港運営会社は関係ないという。本当に、安全保障上の観点があるのかどうか、「単なる天下り先確保のために外資を阻んでい る」(内閣府幹部)との見方も根強いだけに、この検証は欠かせない。

 仮に検証の結果、空港運営会社を外為法の規制対象に加える必要がないという結果が出たとしても、外為法の見直しが不必要ということにはならないという問題も重要だ。

◇ 現行の外為法では被買収企業を取り戻せない

 というのは、外為法は“ザル法”状態であり、改正が必要だとの議論が長年、放置されてきたからである。

 実際、外為法は、トヨタ自動車系の照明機器会社の小糸製作所がテキサスの石油資本の買収に直面した際に効力をなさなかったばかりか、その効力への疑問から特殊会社法であるNTT法を廃止しようとする際の妨げになってきたからだ。

 昨年夏にも、粗鋼生産量で世界最大のミッタル・スチール(オランダ)が同2位のアルセロール(ルクセンブルグ)との経営統合を実現。新会社が、一 段の拡大を狙っており、同じく3位の新日鉄(日本)、4位のポスコ(韓国)、5位のJFEスチール(日本)などの吸収を検討していると伝えられたことか ら、経済産業省が「鉄鋼業は、軍事転用が容易な技術が多いだけでなく、関連企業でイージス艦など兵器そのものを製造しているところもある。現行法の尻抜け 状態を早急に解消する必要がある」(中堅幹部)と主張。ようやく、保護が必要な産業の具体名を列挙する形をとっている現行法令に、一部の素材産業を書き加 えることに漕ぎ着けたが、まだ不十分な部分が多いとの見方は根強い。

 特に、気掛かりなのは、現行の外為法には、事前届け出義務を怠り、外資が日本企業の買収を強行した際に、その投資を無効とする法的な手立てが用意 されていないことだ。現行の罰金制度では、買収された企業を取り戻すのにまったく無力で、いつもは犬猿の仲の経済産業省と総務省が珍しく「早期の抜本策が 求められる」と強い危機感を共有しているのが実情だ。所管の財務省はいつまでもサボタージュせず、重い腰をあげるべきときに直面しているのではないか。

 福田康夫内閣も、2者択一の必要がないことや、閣内不一致ではなく強力なリーダーシップが求められていることを肝に銘じるべきだろう。



色々勉強になります。