金曜日, 1月 18, 2008

官僚の埋蔵金隠匿を容認する福田政権の杜撰な予算編成

ダイヤモンド・オンライン

 昨年来の株式相場の急落が一向に収まらず、景況感が厳しく冷え込む中で、18日、春の通常国会が召集され、年末にまとまった政府原案を軸にした予 算審議が始まることになった。ここで問題なのは、政府・与党が、この政府原案で、巨額の“埋蔵金”、つまり特別会計に秘匿されている剰余金の存在を有耶無耶にしたまま、一段と景気の足を引っ張る予算を押し通そうとしていることである。いったい、どこまで“官製不況”を増幅するつもりなのか。福田康夫内閣に 速やかな再考を求めたい。

 まず、霞が関の官僚たちが全容を明かそうとせず、福田首相が行政の長としての使命を果さずに、その“隠蔽”を黙認している埋蔵金の実体を推測して みたい。前回のこのコラムでも触れたデータだが、手掛かりとなるのは、2005年4月の経済財政諮問会議(当時の議長は小泉純一郎元首相)に提出された 「各特別会計の改革案」である。この改革案には、主要な31の特別会計の資産・負債状況がどうなるか、2005年度、2009年度、2014年度の3時点 について「現状維持ケース」と「改革ケース」に分けて6つの試算が明記されている。

◇ 特別会計の事業終了時には埋蔵金68兆円が見込まれる

 この中で、すでに完了した2005年度(現状維持ケース)について、資産から負債を引いた差額(剰余金)に着目。これを官僚たちが過去に溜め込ん できた埋蔵金と考えると、その金額が最も大きいのは、財務省所管の「財政融資資金特別会計」で、その剰余金額は実に26兆7291億円に達している。次い で、同じく財務省所管の「外国為替資金特別会計」に6兆2804億円、農林水産省の「国有林野事業特別会計」に5兆7120億円、厚生労働省所管の「労働 保険特別会計」に2兆5634億円、国土交通省所管の「空港整備特別会計」に2兆1400億円の剰余金が存在するという。これら5つの特別会計の合計だけ ですでに43兆4249億円の埋蔵金が溜まっている計算だ。

 そして、それぞれの特別会計で終了時点は異なるが、将来、事業を終了する際に、それぞれの特別会計が巨額の資産・負債差額を生むと見込まれてい る。この5つの特別会計でみると、その差額は、「財政融資資金特別会計」が2037年度に53兆4045億円、「外国為替資金特別会計」が2005年度に 4兆2803億円、「国有林野事業特別会計」が2006年度に4兆4961億円、「労働保険特別会計」が2014年度に4兆1523億円、「空港整備特別 会計」が2012年度に2兆3077億円といった具合である。これらを単純合計すると、実に68兆6409億円の埋蔵金が発生すると見込まれている計算だ。

◇ 政府原案の埋蔵金取崩額はたった10兆円足らず

 さて、そこで最も問題なのは、こうした43兆円とか68兆円といった規模の埋蔵金の蓄積や発生が2005年4月の段階で見込まれていたにもかかわらず、その実体の把握・公表がまったく行われないまま、今回も昨年末の政府原案が作成されてしまったことである。

 もちろん2005年度末段階の剰余金は、それぞれの特別会計が抱える様々なリスクを勘案すれば、直ちに全額を一般会計に戻してよいものとは言えま い。しかし、これほど巨額の剰余金をそっくりそのまま残しておく必要があるはずもない。むしろ、一般会計に比べて監視の眼が行き届かない特別会計に、これ ほどの剰余金があるとすれば、壮大な無駄遣いの温床となっても不思議はない。

 ちなみに、今通常国会で審議される2008年度予算の一般会計の歳入歳出規模は、83兆0613億円。第2の予算である特別会計で、43兆円とか68兆円といった埋蔵金が蓄積・発生しているならば、これを一般会計に戻すだけで、どれほど財政再建が進むかわからない。

 実は、今回の政府原案では、あの巨額の剰余金を抱える「財政投融資特別会計」から9兆8000億円の準備金を取り崩し、国債の償還に充当して国債 発行残高を圧縮することになっている。しかし、その金額はこの特別会計が2005年度末にかかえていたはずの剰余金(26兆7291億円)の4割にも満た ない。果たして、これで取崩額として妥当なのか。なぜ、他の特別会計からは一般会計への繰り入れをしないのか、まったくアカウンタビリティ(説明責任)が 果されていない。

◇ 埋蔵金を使えば消費税増税も不要

 補足しておくと、新規国債の発行額だが、過去3年間についてみると、2005年度に2兆2000億円、2006年度に4兆4000億円、そして 2007年度に4兆6000億円の削減を実現してきた。ところが、2008年度予算では、その削減額がわずか1000億円に縮小してしまった。

 さらに言えば、政府・与党は、今夏にも総選挙を終わらせたうえで、来年度に消費税を引き上げる構えを見せてきた。具体的には、政府は2009年度 に、基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げる方針を決定済みだ。そして、その財源として有力なのが消費税の税率引き上げである。政府は、現行5%の 消費税率を1%程度引き上げて、必要な財源の2兆3000億円あまりを補う腹とされている。だが、溜め込まれた巨額の埋蔵金を取り崩せるのならば、こうし た増税は必要が無いことになる。

 また、埋蔵金を有効活用することによって余裕が出てくるとすれば、企業の国際競争力に直結する課題とされながら、財源不足から先送りされてきた法 人税の引き下げ余地も出てくる。この問題では、日本経団連の御手洗冨士夫会長がかねて「現在の40%(程度の法人税実効税率)を30%に引き下げるべき だ」と要求してきた。実際に、ドイツや英国など欧州諸国で現在、法人税の28~29%程度への引き下げ競争も起きており、大きな懸案とされていた。が、や はり、歳入不足に陥ることが懸念されて、手付かずだったのである。

 ここで埋蔵金問題に対する姿勢が甘いという点で、政府だけでなく、 野党・民主党にも苦言を呈しておきたい。同党は16日の党大会で、今国会を「ガソリン値下げ国会」と名付けて、近く期限を迎えるガソリン税の上乗せ暫定税 率の延長を阻止することに全力をあげる構えを見せている。1リットルあたり155円前後に上昇してきたレギュラーガソリンを25円程度引き下げる効果があ るからだ。だが、道路特定財源全体としてみれば、この暫定税率の延長阻止は、国・地方をあわせて2兆6000億円程度の減税措置に過ぎない。

 ガソリン値下げ要求は、政権交代を目指す小沢一郎代表の肝煎りの戦略と言い、筆者は、そのことをかかげること自体にあえて異を唱える気はない。しかし、規模・効果から見て、もっと重要なのは埋蔵金論議であり、これを避けてよいとも思えない。

◇ 支持率下落を食い止めるには埋蔵金は避けて通れない課題

 昨年、日経平均株価が11%下落するなど、世界の主要市場で唯一2桁マイナスの“独り負け”市場となった東京株式市場。この東京市場では、今年に 入ってからも、日経平均株価がわずか8日間で昨年末より1800円以上も下げる急落が続いている。長年、低成長を放置してきた日本政府に対する市場の不信 感は非常に強いと言わざるを得ない。

 その一方、懸案の補給支援特措法が可決・成立したにもかかわらず、年初からの各種の世論調査における福田内閣の支持率が下がり、逆に、不支持率が 上がる傾向がどんどん強まっている。この傾向にも、通常国会に向けて、福田政権の経済運営手腕への不信感を強める大衆意識が見て取れるのが実情だ。

 まず、有耶無耶になりつつある埋蔵金論議にメスを入れ、個人消費、企業の設備投資、輸出と並ぶ4大経済主体の1つである政府部門の予算を正常化することが経済運営で避けて通れない大きな課題となっている。



なめられっぱなし....