金曜日, 3月 21, 2008

求む、日銀総裁

フィナンシャル・タイムズ

(フィナンシャル・タイムズ 2008年3月19日初出 翻訳gooニュース)

国際的な金融危機というささやかな問題に対応する必要があるのだから、日本銀行の総裁探しは急務だと思われるかもしれない。しかし野党・民主党が『この人 は強大な財務省に近すぎる』とみなす候補に次々と反対するのは、正しいことだ。市場は脆弱だし、妥協可能な候補を早急に見つける必要があるが、しかし理想 の候補は「マクロエコノミスト」として優れた実績をもつアウトサイダーであるべきだ。

日本の福田康夫首相は、同じことをただ繰り返しても違う結果が出ると考えているようだ。野党が、東大法学部卒で財務省(旧大蔵省)キャリア出身の武藤敏郎 前副総裁に否決した後、福田総理はやはり東大法学部卒で財務省(旧大蔵省)キャリア出身の田波耕治国際協力銀行総裁を候補提示した。そして民主党はやは り、田波氏も否決したのだ。

武藤氏をどういう政治的理由から候補に提示したのかは、不可解だ。野党は参議院をコントロールしているのだから、わざわざ野党にケンカをふっかけにいくの はリスクが高い。どうしても対決するなら、国民の支持が広く得られている問題についてのみ挑戦するべきだ。にもかかわらず、わざわざケンカを仕掛けていっ て、負けて、そしてまた同じケンカをふっかけるというのは、荒唐無稽だ。ただでさえ弱い福田政権は、これでますます弱体化したように見える。

福田氏の選択はほかでもない、お役所的な伝統に従うという理屈に動かされていたようだ。一定の役職レベルで財務省を退官する官僚は、日本銀行などの組織で ポストを得るのがこれまでの常だったからだ。確かに、中央銀行向けの人材は財務省で見つけやすいだろうし、その逆もまた真理だろう。しかし、財務官僚を半 ば公式に日銀へ天下りさせるという仕組みは、金融政策の独立性を損なってしまう。

このため、もっと強力な日銀総裁が必要だと民主党が力説するのは正しいことだ。それに、民主党が適任だと名前を挙げる、黒田東彦・アジア開発銀行 (ADB)総裁や、(武藤・田波両氏よりはやや若い)渡辺博史前財務官にしても、「非・主流派」というほどではない。総裁空席の穴を急ぎ埋めなくてはなら ないという緊急性を思えば、どちらの候補もあり得るだろう。

しかしもっとラディカルな選択だって、あり得る。中央銀行を取り仕切るという仕事は、ほかにはない独特のものだ。パーフェクトな候補とは、素晴らしいマク ロエコノミストであって、市場心理を読み取れる心理学者で、公の場できちんと話せる手堅いパブリック・スピーカー。かつ国際的な外交官で、優れた最高経営 責任者(CEO)の資質も欲しい。外交官やCEOとしての能力をもつエコノミストを見つけるのは難しいが、一方で、スタッフの言いなりになるのではなくス タッフを問いただすことができるだけの深い経済の経験をもつ官僚を見つけるのも大変なことだ。オーソドックスなものの見方に挑戦できるだけの総裁が得られ れば、日銀にとって大きなメリットとなる。

総裁不在でも、あまり支障はないという意見もあるだろう。総裁がいなくても日銀は機能するし、近く金利を変える可能性も低いし、そもそも多くの重要な政策 決定は財務省が行っているのだから。しかし毎日のように新しい経済危機が出来する今、市場の信頼性はもろく、日本経済の展望も陰りつつある今、トップ不在 は間違ったメッセージを発してしまう。政府と民主党は急ぎ、総裁候補で合意すべきだ。その過程で、日本のなれ合い的な公職人事システムが一新されるのな ら、それはなお良し、だ。



結果庶民レベルでものを言うと、具体的に国民が困らんのなら、どーでもイイって話に、落ちていってしまう悲しさはあるなぁ....。