金曜日, 8月 22, 2008

首相・財務相らと補正予算に向け作業することで一致=与謝野担当相


[東京 22日 ロイター] 与謝野馨経済財政担当相は22日、午前の閣議後会見で、閣議前後に福田康夫首相、伊吹文明財務相、二階俊博経済産業相、町村信孝官房長官と総合経済対策について議論し、補正予算に向け作業することで一致したことを明らかにした。

ただ、会議では具体的な規模や財源についての言及はなかったという。

きょ うまでに取りまとめる予定だった政府案については「政策のラインアップはできた」としながらも、「予算上の措置をどうするか、その他の税制など政策手段を どうするかの問題が残っている」として、さらに検討を続ける考えを表明。来週以降は与党との調整も行い、予定通り月内に総合経済対策を取りまとめる考えを 明らかにした。

<伊吹財務相が補正予算に言及>首相や経済関係閣僚らとの会議では、総合経済対策に伴う2008年度補正 予算編成について「伊吹財務相が内容や規模など具体的なことはいわないが、補正予算の話を『補正予算』という言葉を使って話をした」と説明。「そういうも のに向かって作業を進めることについて意見が一致した」と述べ、関係閣僚間で補正予算の編成で合意したことをにじませた。伊吹財務相からは「国債発行」に ついての言及はなかったという。

<赤字国債発行の是非は財政当局や党が判断>一方、自民党の園田博之政調会長代理が21 日夜、総合経済対策の財源について赤字国債の発行もやむを得ないとの認識を示したことに関しては評価を避け、赤字国債発行の是非については「私自身は何の 意見もない。これは財政当局や党に考えていただくことで、いえるのは、ばらまきにしないことだ」と述べるにとどめた。

<追加国 債発行と財政規律の両立>そのうえで与謝野担当相は、追加国債発行は財政健全化の後退にならないかとの質問に対して「財政規律というのは非常に難し い言葉で、原点は『入を計って出を制す』ということ。その意味では小泉内閣の後半になんとか国債発行を30兆円以下に抑えようとしたのは、財政規律の第一 歩であった。それは財政規律そのもの、そのものというのは財政規律の原点ではなく、それに向かっての歩みだ」と説明。

続けて「大変緊 急を要する事態に直面した時に、緊急事態に対応するような行動・予算が必要か、財政規律が必要か、二者択一になることはあり得る。その時にどちらかを取る 話ではなく、両方を少しずつ取るという話ではないかと私は思っている」と述べ、国債の追加発行と財政規律が両立し得るとの認識を示唆した。

ただ、これは「重要な政治判断だ」と繰り返し、「大事なのはばらまきに至らない。そういう経済対策でなければならない。単に有効需要を創出するということだけを目的にしたカネの使い方であってはならない」点を強調した。

(ロイター日本語ニュース 吉川 裕子記者)

総合経済対策での赤字国債発行は否定できない=自民政調会長代理


[東京 21日 ロイター] 自民党の園田博之政調会長代理は21日、民放テレビで、政府・与党が検討中の総合経済対策の財源について「年内に出せる財源は8000億円から9000億 円程度で、多分それ以上のものが必要になると思う。その場合は新たに国債を発行することは否定できない」と述べ、赤字国債発行もやむを得ないとの認識を示 した。対策の規模については明言を避けたが、新たな借金を背負うことになるのだからバラマキはしないと強調した。

経済対策に充当でき る財源は、2008年度当初予算に予測できない事態に備えて計上している予備費約3300億円や2007年度決算の剰余金6300億円がある。ただ、剰余 金は財政法で約半分を国債の償還に充てることが決まっている。さらに、今年度予算の想定長期金利に比べ市場実勢が低位なため、国債利払い費の余裕が追加財 源として期待できる。こうしたものを足し上げると、園田政調会長代理が指摘する8000億円─9000億円となる。

一方、公明党の山 口那津男政調会長は対策の規模については「兆円規模」とし、予備費など今みえている財源では不十分で1兆─10兆円の範囲で検討中と語った。財源は「単純 に赤字国債はまずい。むしろ、特別会計を見直し、これを活用するか考える必要がある」と述べ、特別会計の活用による財源のねん出を主張した。

木曜日, 8月 21, 2008

ばらまき型の景気対策必要との考え方、今政府にはない=官房長官


[東京 21日 ロイター] 町村信孝官房長官は21日午前の会見で、政府が検討している総合経済対策について「需要不足で景気が下振れしているわけではないので、大規模な需要を公的支出で求められているのかどうか、考えなければならない問題」と指摘した。

その上で「ばらまき型の景気対策が必要だという考え方は、今政府にはない」として、大規模な対策には否定的な考え方を示した。

町 村長官は必要となる対策について「たとえば低炭素社会に移行する、あるいは高いエネルギー・食料価格にいかに対応していくのか、それに資する対策というよ うな構造的な視点、そうはいっても急激な価格上昇にうまく対応できない人々への手当ては、今回の総合対策で考えていくということはある」との方向性を示し た。

所得税減税については「税制の抜本改革は党でも議論を始めているところだし、自民党税調も来週再開されると聞いている。そうした 場で、どういう趣旨の、何を目的にした減税をするのかというところからしっかりした議論をしてほしい」とした上で、大きな税制改正については年末に向けて の抜本的な税制改革の中で議論されるとの認識を示した。

(ロイター日本語ニュース 中川泉記者)

火曜日, 8月 19, 2008

臨時国会の9月中旬召集で合意、来週総合経済対策を決定=政府・与党


[東京 19日 ロイター] 政府・与党は19日正午に連絡会議を開催し、焦点となっていた臨時国会の召集時期を9月中旬とすることで合意した。

会議で福田康夫首相は、原油・食料価格高騰や景気悪化懸念に対応した総合経済対策を来週にもとりまとめる意向を表明したが、2008年度の補正予算編成について言及することはなかった。

複 数の与党幹部によると、連絡会議の席上、福田首相は臨時国会の召集時期について「9月中旬に開きたい」と発言。臨時国会召集のタイミングでは、新テロ対策 特別措置法の延長・衆院再可決をにらんで9月上旬をめざしていた政府側に対し、再可決に慎重な意向を示していた公明党側は9月下旬を主張。福田首相の提案 は公明党に配慮した格好で、公明党の太田昭宏代表は会議終了後、記者団に対して「(中旬開催に)了承した」と語った。

その上で、太田代表は中旬開催の理由について、会議で福田首相が臨時国会で解決すべき課題を挙げたことを明らかにした上で、「(課題解決に)ある程度の時間は必要と判断したのだろう」と述べた。

太 田代表によると、福田首相は課題として、総合経済対策、国際協力、消費者対策(消費者庁関連法案含む)、前通常国会からの継続案件の4点を指摘。太田代表 は会議において、これらの課題の解決に向けて「与野党間の協議が極めて重要。党首間の話し合いを含めて与野党の協議を進めてほしい」と民主党の小沢一郎代 表との党首会談を要請したことを明らかにした。

自民党の細田博之幹事長代理によると、臨時国会のポイントとなる総合経済対策について福田首相は会議で「来週中には決定したい」ととりまとめを急ぐよう指示。麻生太郎幹事長は「税制面の政策を含めて思い切った対策をお願いしたい」と発言したという。

政 府は11日に対策の骨格を公表しているが、麻生幹事長や公明党が主張する税制面の措置の取り扱いを含めて規模や財源は依然として不透明。次期衆院選をにら んで規模拡大を求める与党と財政再建を重視する政府との溝が存在しており、複数の与党幹部によると連絡会議において補正予算編成に対する言及はなかったと いう。

(ロイター日本語ニュース 伊藤 純夫、吉川 裕子)

今の段階で赤字国債を出す出さないという話ではない=麻生幹事長


[東京 19日 ロイター] 麻生太郎自民党幹事長は19日、自民党役員会・役員連絡会終了後の会見で、総合経済対策に伴う財源に関して「最初に額が決まっているわけではない。何が必 要か積み上げた結果だ」とし、「今の段階で赤字国債を出す出さないという話ではない」と語った。

赤字国債の発行は回避する形で対策の検討を進めるかどうかについての明言を避けた。

具 体策に関しても麻生幹事長は明言を避けたが、「企業の設備投資が動く。個人の投資意欲が高まるようなことが、中長期的にみても、短期的にみてもよいのでは ないか」と指摘。税制関連のメニューについては「税制は間違いなく今回の対策で中長期的に考えるべき政策」としたが、具体的には自民党税調会長らと話しを していかなければならないと語った。

一方、麻生幹事長によると、午前の会合で福田康夫首相が経済対策に関し「政府としては、今週中に 各省庁からの考え方をまとめ、来週早々には党と詰めていきたい」と発言。幹部からは「緊急事態を念頭において思い切ったものをお願いしたい」(笹川堯総務 会長)、「若年層の雇用所得関連を考えてもらいたい」(古賀誠選挙対策委員長)などの意見が出た。

自民・公明党間で調整が難航してき た臨時国会召集日について、福田首相が昼の政府・与党連絡会議で基本的な考えを示すことを明らかにした。臨時国会で審議されるテーマは1)経済対策、2) 国際協力、3)消費者庁設置などに関する消費者行政、4)前国会の積み残し──など。会期幅は、これら審議すべき課題を踏まえて詰めることになるという。

(ロイター日本語ニュース 吉川 裕子記者)

水曜日, 8月 13, 2008

原油高と“ばらまき”の誘惑

「竹中平蔵(慶応義塾大学教授)
Voice2008年8月13日(水)14:51
原油高、一次産品高騰、サブプライム問題……。世界の経済環境は1年前と大きく変化した。このようななかで、新たな 政策課題が多数生じている。スタグフレーションにどのように対処するか、原油高で苦しむ業界をどうするか、原油高そのものを抑える方策はあるのか……。政 策を担当する政府の責任は重大である。

そんななかで、政府の政策のあり方に関する基本的な方針が公表された。今年の骨太方針と、いわゆる第二前川レポート(経済財政諮問会議の「構造変化と日本 経済」専門調査会報告)である。しかし残念なことに、今日の厳しい経済環境の変化にどのような基本スタンスで臨もうとしているのか、メッセージを読み取る ことができないのである。骨太方針についていうならば、全体で41ページの報告のなかで、マクロ経済運営についての記述は0.5ページしかない。かつ、そ の内容は、昨年の記述とほとんど変わらないものだ。さすがに第二前川レポートにおいては、こうした問題意識に基づく現状の解説は行なわれている。ただ、そ れに対する処方箋は「開放されたプラットフォーム」をつくるという一般論に終始している。

原油価格上昇、一次産品高騰に関連して、今後政治の場で多くの政策論議が出されるだろう。選挙が近いことを意識した「ばらまき」型の政策に走る傾向も懸念される。われわれは、以下の点に十分な留意が必要だ。

まず認識する必要があるのは、輸入財の価格上昇すなわち「交易条件の悪化」が生じる際には、国民の生活水準は低下せざるをえないという厳しい現実である。 これまで100円で手に入っていたものが、200円さらには300円支払わねばならないわけだから、購買力は確実に海外に移転する。石油燃料を多く使用す る輸送業や漁業の業績が悪化したり、消費者の家計が苦しくなるのは、程度の差はあれ避けられない現象なのである。もちろん、だからそれをすべて放置してよ いということではない。価格形成に圧力がかかって(たとえば大手業者が買い叩いて)零細業者が不当に苦しむような事態は修正されなければならない。しか し、交易条件が悪化している以上、結果的に当面は国民全体としての生活水準が下がるということは甘受しなければならないのである。

しかし現実問題として、ポピュリスト的な政治勢力(与野党を問わず……)とメディアの一部は、影響の大きい業界の救済を強力に求めるだろう。このような動 きはすでに始まっており、補正予算で補助金や無利子・低利貸付の活用を求める声が強まっている。政策を考えるに当たっては、ばらまきを避けてきわめて限定 的な対応を行なうことが求められる。具体的に、政策の項目は次の3点に絞られなければならない。

第1は、当面の生活さえも危ぶまれる人たちに対するセーフティネット的な対応である。もっとも、こうした場合も、本来は生活保護で対応すべきものである。 ただ、価格の変化があまりに急激であり対応が不可能なケースに限って、限定的な政策対応を行なうことはありうるだろう。ただし期間を限定するなど、しっか りとしたルールに基づいた政策としなければならない。

第2は、価格変化に対応した新たな技術への移行を助ける場合などに、必要な資金を低利で提供するという政策だ。最近しばしばイカ釣り漁船の問題が取り上げ られるが、極端な例でいえば、石油燃料に依存しない新しい漁法への移行(それがどのようなものかチェックが必要だが……)などを推し進めるのは意味があ る。そうした投資が困難な中小業者に一定の範囲で政策融資を行なうことは、考えられてよい。

その際、あらためて確認すべきなのは、相対価格の変化を歪めるような安易な救済措置は避けなければならないことである。たとえば、原油高で苦しんでいるか らといって原油の価格を補填するような財政措置をとってはならない。価格の高騰は厳しい事実ではあるが、高い価格によってこそ省エネと代替エネルギー開発 が進む。安易に一時的な価格補填を行なうことは、省エネのインセンティブを抑え込むことにほかならない。じつは第一次石油危機の際、日本は安易な価格補填 をとらない国であった。石炭などの代替エネルギーも存在しなかったために、世界のなかでも、もっとも厳しい石油価格上昇に直面した国となった。しかし、だ からこそ今日、日本は世界でもっとも省エネが進み、エネルギー効率の高い国となったのである。

じつは第二前川レポートでは、こうした点についての一般的考え方はかなり明快に書かれている。「価格のシグナルの活用を」という項目を立てて議論する姿勢 は、そのかぎりにおいて正しいものである。たとえば、「重要なことは……短期的に痛みを緩和する政策への誘惑を極力排除すること」「相対的な価格の変化 は、何が不足し、何が過剰かを示すシグナルでもある」といった指摘は適切なものである。

第3は、長期的な国家戦略としての代替エネルギー開発、省エネの促進である。原油価格の今後の動向については、専門家のあいだでもさまざまな見方がある。 筆者はあえて、中長期的に原油の値上がりが続くという見方を提示したい。しばしば指摘されるように、現状の原油価格には投機による行きすぎた部分が含まれ ている。しかし、もしバブル的な要素だけが問題であるのなら、事態はそれほど深刻ではない。バブルはいつか必ず崩壊し、結果的に原油価格の上昇は抑えられ るからである。しかし現実には、原油の(さらには精製の)供給サイドに構造的な問題があり、いったん価格は下がっても、その後、中長期的に原油価格が上昇 する可能性が高い。その最大の理由は、第一次石油危機当時は供給の40%を占めていた国営企業のウエイトが、いまや65%を占めるようになっていること だ。一般には、価格が上昇すれば供給が増える、という当然のメカニズムが働くはずだ。しかし、国営企業のウエイトが高まるなかでこうしたメカニズムが働き 難くなっている。

選挙が近づくなかで、政治の世界では原油高に苦しむ業界への露骨な救済策が議論されてこよう。また、なかには、インド洋での自衛隊の給油に掛かるコストを 削減し、その分、国民の価格負担を補えといった議論さえあるという。しかし繰り返しいうが、第一次石油危機の当時、日本はそうした安易な救済措置をあまり とらなかったからこそ、今日の省エネ・環境大国と呼ばれる状況が出現した。政策における短期と長期の“インコンシステンシー(矛盾)”にどのように対処す るか、経済政策の軸足が問われる。

この程度なら、誰でも何とでも、対策打てたんだろね....。

土曜日, 8月 02, 2008

日本の政局、膠着状態に直面

ちょっと楽しめる読み物だったんで、全文引用させてもらっちまいましょうか....

フィナンシャル・タイムズ 2007年8月2日(木)14:00

(フィナンシャル・タイムズ 2007年7月30日初出 翻訳gooニュース) FT東京支局長デビッド・ピリング

安倍晋三首相の初めての、そしてもしかして最後の、国政選挙で最も印象的だった姿は、首相のものではなかった。それよりもはるかに記憶に残ったのは、四面 楚歌状 態にある赤城徳彦農水相の姿。巨大なバンソウコウを顔中に貼って登場して、その異様な様子で記者団を仰天させた時の、あの姿だ。

安倍政権の信頼性を次から次へと侵食した政治とカネのスキャンダル。その最新版の中心にいた赤城氏は、どうしてバンソウコウを貼っているのか、顔をどうし たのか、 説明しようとしなかった。そもそも何か困ったことがあったのか、そのこと自体を認めようとしなかった。そしてひたすら、「何でもありません」と繰り返し た。

「満身創痍(まんしんそうい)」といったこのイメージは、29日の参院選で惨敗した安倍首相に実にふさわしい。一説によると今回の選 挙は、 1955年の自民党結党以来、最悪の敗北なのだそうだ。指導力に対する信頼がボロボロに失墜した安倍首相も(赤城氏同様)、「何でもありません」というフ リをするしかないところまで追い込まれた。首相は有権者の厳しい判断について「反省していかないといけない」と認める一方で、「基本的な政策は間違ってい なかったと思うし、国民のご理解をいただいている」と繰り返した。

しかし選挙結果をざっと見渡した限り、そういう風には全く見えない。選 挙結果によると自民党は、浮動層の多い東京、名古屋、大阪など大都市部で大きく敗退。それに加えて、自民党にとってさらに深刻なのは、農村部でも散々に敗 れていることだ。自民党があたかも永遠に選挙で勝ち続けるかのように見えていたのは、あくまでも農村部の支持基盤に下支えされていたからだというのに。

自民党は6年前、29ある1人区のうち25選挙区で圧勝したものだが、今回はわずか6勝。民主党は今回、農村地域の23県で勝利した。これはアメリカ政治 で言うなら、(ブッシュ大統領地元の)テキサス州で民主党が地滑り勝利を収めるようなもの。日本の民主党は、それと同じくらいありえない大勝を収めたの だ。

米コロンビア大学の日本専門家ジェラルド・カーティス教授は、安倍首相惨敗という今回の選挙結果から、3つの大きな疑問点が浮かび上がったと指摘する。 (1) 有権者はなぜ安倍首相にこれほどきつい罰を与えたのか。(2) 短期的そして中期的に、日本政治はどうなるのか。そして、(3) 政策への影響は何かあるのか——の3つだ。

有権者が怒った理由はいくつか推測できる。安倍内閣は発足当初から相次ぐスキャンダルまみれだった。閣僚2人が辞任し(訳注・8月2日現在で3人が辞 任)、1人はあろうことか汚職で追及された挙げ句に自殺した(この人の後任が、例のバンソウコウ だらけの赤城農水相だった)。これに加えて、年金記録問題が発覚。安倍首相の責任ではないことは明らかだが、役人の怠慢のせいで年金記録5千万件が行方不 明になり、何百万人もの老後の生活に影響が出るかもしれないと発覚した時、国民は怒ったのだ。

しかし、有権者が安倍政権に圧倒的な 「ノー」をつきつけた背景には、もっと深い理由がある。それはつまり前任者からの移行が、うまくいかなかったのだ。あの抜け目のないカリスマ的な小泉純一 郎氏から、比べてしまうと政治的な洞察力に乏しい安倍氏への引き継ぎが1年前、うまくいかなかったのだ。自民党の加藤紘一元幹事長は、今回の大敗の原因 は、小泉政治の負の遺産にあると話す。今回の選挙で起きたのは、小泉時代の経済改革に反発する国民の本格的な復讐であって、それに自民党がここまで痛めつ けられたのだと加藤氏は言う。

一見したところでは、加藤氏の分析は間違っているように見える。わずか2年前、小泉氏率いる自民党は総選挙で圧勝したのだし、昨年9月に首相を辞めた時、 小泉氏はまだまだとてつもなく高い支持率を獲得していたではないか。小泉氏が総理大臣だった5年間、日本経済は成長し続け、いわゆる「失われた10年間」 についに終止符を打つことができた。加えて小泉氏は、経済や社会に改革が必要だと訴え続けたし、少なくとも当時は多くの人が小泉氏による改革の呼び声をエ キサイティングなものだと受け止めていた。

それはどれもその通りだと、加藤氏は言う。しかし小泉氏がいなくなった今、小泉政治の遺産のあちこちが色あせて見え始めたと言うのだ。小泉改革の様々な施 策は農村部を痛めつけた。だからこそ今回の選挙で農村部が、自民党をとことん痛めつけたのだと加藤氏は言う。小泉改革は諸々の予算を削った。特に、産業の ない地方において貴重な雇用機会を提供していた公共工事の予算を大きく削った。地方交付税も削り、おかげで地方自治体は自分たちで独自に地元で税収をまか なうしかなくなった。この地方交付税削減に関係して(訳注・「三位一体改革」で税源が国から地方に移譲され)各地の住民税が引き上げられたわけだが、皮肉 なことに、有権者の多くは投票日の直前になっていきなり、自分たちの税金がはねあがっている事態に気づく羽目になった。


小泉氏は日本の経済危機を利用し、改革の必要性を国民に訴えた。とりわけドラマチックだったのは2005年の政局。あのとき小泉氏は、郵政民営化をめぐっ て有権者の圧倒的信任を自民党に取りつけることに成功した。「小泉改革には光と影の両側面があった」と加藤氏は言う。「小泉さんがそこにいれば、出し物と してずいぶんと面白かったが、小泉さんがいなくなった今、多くの人が小泉劇場の暗部に気づくようになった」

低所得地域の厳しい実情を、安倍首相はきちんと認識していなかったと加藤氏は批判する。たとえばかつては自民党の強固な牙城だった高知県が今回、民主党の 手に落ちた。日本全体で見ると有効求人倍率は1.06倍。つまり求職者100人に対して106件の求人がある計算だ。しかし日本列島4大島で最小の四国島 にある高知県では、求人倍率は0.48倍。つまり100人に対して仕事は48件しかないのだ。農村部の多くがそうだが、高知も人口に占める高齢者の比率が 非常に高い。若者たちはほとんどが仕事を求めて都市部に移住してしまっている。「こうした人たちの不満や苦しみを理解しようという姿勢が、安倍さんには見 られない」と加藤氏は言う。(訳注・加藤氏の日本語は全てgooニュースが英語から翻訳したもの)

コロンビア大学のカーティス教授もこの分析に同意する。「多くの人が小泉氏を支持したのは、その政策が好きだったからではない。日本人は小泉さんが好き だったから小泉さんを支持したのだ。小泉流の魔法が消えてしまった今、たくさんの不満や悲しみが残された。今回の選挙で農村部の有権者は、小泉改革に仕返 ししたのだ」

安倍首相は、国民にとって最も関心が深い日常の生活の問題を無視して、「美しい国、日本」という自分にとって大事なテーマを追求した。カーティス教授はこ う言う。第2次世界大戦後もっとも若い52歳の総理大臣は、「戦後体制からの脱却」を訴え、平和憲法を書き換え、教育内容を今よりも愛国的なものに変えよ うとしてきた。しかし本当にこれが優先事項なのだと、国民を説得できずにいる。「一国の首相が自分の国で体制変換をしようとしている。そんな国がほかにあ るだろうか」とカーティス教授は言う。

社会民主党の福島瑞穂党首は、安倍氏が一般国民の気持ちが分からない貴族なのだと批判する(安倍氏は祖父と大叔父が総理大臣)。アメリカのリンカーン大統領をもじって福島氏はこう言う。「安倍さんは、お坊ちゃんの、お坊ちゃんによる、お坊ちゃんのための政府の代表だ」

安倍氏は国民感情が分かっていないのなら、ではこれからどうなるのだろう。首相を続投できるという判断は、間違っているのだろうか? 答えはおそらく「イ エス」だ。「ここで逃げてはならない。政治の空白は許されない」と繰り返した安倍首相だが、このまま政権を担い続けるのは無理だろう。

首相続投を言明した安倍首相を、民主党はただちに反論。たとえば1998年の参院選で44議席(今回の37議席より7議席多い)と大敗した橋本龍太郎元首 相をはじめ、これまで選挙で大敗した自民党総裁はいずれも引責辞任というまともな対応をしていると、安倍氏を非難している。民主党の菅直人代表代行は「国 民の審判がはっきり下ったわけだから、その審判の結果と全く矛盾する行動を取ることは理解できない」と批判した。

しかし民主党には、首相を無理やり退陣させるだけの力はない。参議院で第1党にはなったが、内閣総理大臣の指名に関しては衆議院が優越する。そして衆議院 では(小泉氏のおかげで)自民党が圧倒多数を占めているし、衆院選の予定は2009年までないからだ。さらに言えば、5つの政党が合流してできた民主党 も、自民党に負けず劣らず、党内は分裂している。7月29日の選挙結果は、安倍首相に対する反対票であって、小沢一郎・民主党代表への支持票では決してな い——というのが、大方の政治評論家の見方だ。

10年以上前に自民党を離党した小沢氏は、新しい時代の改革派というよりは、「小泉以前」の昔ながらの政治スタイルが得意な、豪腕・辣腕(らつわん)な策 略家——というイメージが強い。自ら表舞台に立つよりも、水面下で動く方が得意な政治家だ。民主党の代表ではあるが、自分自身が総理大臣になりたいかとい うと、あまり意欲的ではない。29日夜の小沢氏は、政治的勝利を国民の前で堂々と祝うよりも、「遊説中の疲れ」を理由に世間の前から姿を消した。

少なくとも現時点では、安倍氏を本当に脅かすものは、野党ではなく自民党内だ。表面的には自民党実力者たちは揃って、首相続投表明を支持。中川秀直幹事長と青木幹夫参議院議員会長は、大敗の責任をとって辞任すると表明している。

それで安倍批判の風は少し和らぐのかもしれない。首相はすでに「人心を一新せよというのが国民の声だ」として、近く内閣改造するつもりだと言明している。

しかし30日の時点ですでに、自民党支持者の間では不満がふつふつと表面化していた。首相以外のみんなが責任をかぶる羽目になっているのに、なぜ首相だけは……と。

安倍氏はあと数カ月は首相の座に留まろうとするだろう。カーティス教授はそう見ている。小泉氏がすでに党内派閥の力をボロボロに打ち砕いてあるので、後任 の座をねらえるだけの実力者が党内にあまりいないのだ。麻生太郎外相は、首相になりたいと願っている。しかし彼もいわゆる政界のサラブレッドで、安倍氏の 考え方とかなり近いだけに、今のところは安倍支持の姿勢を保っている。ほかに候補として考えられるのは、昨年9月の総裁選で安倍氏と争った谷垣禎一前財務 相だ。しかし谷垣氏は、現行5%の消費税を引き上げようと一貫して主張してきた。選挙で消費税引き上げを訴えることは自殺行為に等しいと考える、党中枢に してみれば、谷垣氏も安倍氏と同じくらい厄介な存在ということになりかねない。

何がどうなるにせよ、総選挙が行われるまで、日本政局ははっきりしない状態が続くだろう。そのせいでこれから何カ月にもわたって政局が膠着し、政策が迷走 する恐れがあると、一部の政治評論家は指摘する。今回の選挙結果がもたらした新しい政界地図が、実際の政策決定にどう影響するか、そのきざしがすでに見え 始めているのだ。民主党は早くも30日、インド洋に展開する米艦隊を自衛隊が後方支援するためのテロ対策特措法の延長に、反対を表明したのだ。

自衛隊による米艦艇の給油支援。そして、イラク復興支援のための自衛隊550人派遣。これはいずれも、国際情勢にもっと積極的な役割を担っていくという日 本政府の覚悟を示すものだとして、米政府は大いに歓迎していたものだ。しかし参院選の結果を受けて、こうした動きは全て失速していくかもしれない。

しかし経済については、大きな揺り戻しはなさそうだと、専門家たちは見ている。参院選の結果は、小泉流の自由市場主義の流れに反発したものだという見方もできるが、方向性がすぐに大きく変わることはなさそうだ。

というのも民主党は、たとえそうしたくても、財政支出拡大を要求できる立場にないからだ。予算関連の決定権は衆議院にある。そして小泉改革によって日本に 新しくやってきた弱肉強食の経済に不満はたくさんあっても、国の借金を増やして増税しようと主張できる政治家はそうはいない。それどころかむしろ、消費税 率引き上げ議論はさらに先送りされる可能性が出てきた。とすると、仮に引き上げが決まったとしても、実施されるのは2010年以降ということになる。

衆参ねじれ現象で国会議決が滞ることになれば、新しい政策づくりはほとんど何もできなくなる。しかしだからといって、大した影響はないのかもしれない。地 方との格差は確かに問題だが、日本経済全体は堅調で、あと数年はこのまま拡大成長を続けるだろう。こうした状況なら、日本の政治家がお互いを罵り合うのに 忙しくて大胆な決断をする余裕がないというのは、そうそう悪くはないのかもしれない。