水曜日, 10月 22, 2008

日・印共同記者会見 平成20年10月22日


【麻生総理冒頭発言】
 シン氏をお迎えして、日本とインドの間の幅広い分野について、有意義な意見交換を行いました。まず、基本的な価値と利益を共有する日・印両国の協力関係が、着実に進展してきていることを確認しております。
 また、両国の戦略的なグローバル・パートナーシップを前進させるために、さまざまな取り組みを進めることに合意し、ただいま共同声明に署名をしたところです。
具体的成果は次のとおりです。
 1.両国の安全保障協力の促進のため、安全保障協力に関する共同宣言に署名をしました。
 2.経済面では、両国の民間部門において、経済交流の更なる拡大への期待が極めて高いとの認識を共有したところです。これは、本日、両国のビジ ネス・リーダーが提出した報告書にも表れていると存じます。この関係で、経済連携協定交渉の実質的な進展を歓迎し、早期締結に向けて取り組んでいくことを 確認したところです。
 3.重要な段階にありますインドのインフラストラクチャー、社会基盤の整備を支援すべく、両国の協力の新たなシンボルとして、日本の政府はデ リーとムンバイを結びます貨物鉄道計画への円借款開始を決定しております。同時に、インドに対する約1,000億円の円借款供与について、交換公文が署名 されております。また、デリーとムンバイの間の産業大動脈構想に関する協力についても確認をしたところです。
 4.幅広い分野での人的交流や学術交流の促進です。私が外務大臣時代に構想しましたプログラムによりまして、これまで技術者や留学生、青少年 が約3,700人来日をしております。この計画を継続します。また、インド工科大学ハイデラバード校設立に向け、日・印両国の産学官の協力を確認しまし た。
 地域や国際社会の課題については、東アジアの地域協力、国連安全保障理事会の改革、エネルギー、気候変動、その他緊密な協力を確認したところです。
 世界経済情勢につきましても、地域の主要経済国である、日本・インド両国の連携の重要性について一致したところでもあります。
 また、シン首相から、来年のインド訪問の御招待をいただき、今後調整することとしました。
 本日の会談を通じて、日・印両国の協力には、大きな潜在性があることを改めて確認したところでもあります。今後もシン首相と両国間の協力を力強く進めていきたいと考えております。

【シン首相冒頭発言】
 麻生総理大臣、御列席の皆様、ただいま大変生産的で、実り多い会談を麻生首相と終了いたしました。麻生総理は、インドにとって大変尊敬される昔 からの友人であり、麻生総理大臣、また日本の皆様に対し、改めてお礼を申し上げたいと思います。今回の訪日に当たって、私及び政府代表団を受け入れていた だきまして、ありがとうございました。
 これが、私の2年前に就任した首相としての2回目の日・印首脳会談となります。これはまさにインドが日・印関係をいかに重要視しているかの証 であります。できるだけ頻回に首脳が会談をするということは、やはりインドにとって日本が非常に重要な相手国であり、関係を緊密化したいという思いの表れ でございます。この4年の間に、私どもの二国間の関係は大幅に強化されてまいりました。麻生総理と私が署名をした共同声明は、まさに両国が戦略的グローバ ル・パートナーシップを日・印間で2006年12月に締結して以来の大きな取り組みの前進を示しております。インドにとって日本は重要な経済のパートナー であり、日本から提供していただいた経済協力を大変感謝しております。
 インドは、現在、日本のODAの最大の受入国であります。麻生総理と私は、両国の経済的な交流というものを更に拡大し、それを深めていく必要があるとお話をさせていただきました。
 総理に申し上げました日本のインドに対しての投資の限度というのは、空しかない。事実上限度はないということであり、日本の業界がインドに投資 をしていただくことを大いに歓迎したいと思います。継続的に日本がインドに投資をしていただく環境を整備していく所存でございます。できるだけ早期に、質 の高い、そして両国に恩恵をもたらす包括的経済連携協定の締結を目指していきたいと思います。両国の協調は、産業大動脈構想という形で近々進むわけですけ れども、これがまさに私どもの経済的なパートナーシップの成果を示しております。
 また、安全保障協力に関しても、私どもは更に協力を緊密化することにいたしました。これは平和、繁栄、そして安定に貢献するものであり、アジア全域及び世界の平和、安定、繁栄に貢献するものと考えております。
 また、両国が協力をし、デリー・ムンバイ産業大動脈構想に関する協力も確認いたしました。覚書を交わし、この非常に野心的な、積極的なプロジェクトに関しての取決めを交わしております。
 また、地域・国際社会の課題については、やはり現在の世界の金融市場の混乱を受け、両国が協力・協調をすることによって、この非常に重要な課題に対応していく必要があると合意いたしました。
 日本、インド両国は、新しい成長の中心として、世界の経済的な景気後退の問題に対応していくことができると考えています。両国が共通の関心分野 として、エネルギー、安全保障、気候変動、東アジアサミット、国連安保理の改革など、共同に対応していくことができます。また、多国間の問題として、 WTO交渉も両国間で協調していく余地があります。首相との間で意見交換をさせていただき、更に人の交流を促進していく必要があると合意いたしました。麻 生プログラムという総理のプログラム、青年の交流を更に拡大していくことを私も大いに支援したいと思います。こういった人的交流のために、総理が導入して いただいたプログラムを、私自身も後押ししていきたいと思います。
 また、インド工科大学ハイデラバード校の設立、また、ジャイプールにおける情報技術大学の推進に関しても、是非御協力をいただきたいと考えて おりますし、来年、是非総理にインドを御訪問していただき、更に対話を深めていきたいと考えています。大変すばらしい会談を持たせていだくことができ、改 めて麻生総理に感謝を申し上げます。
 この首脳会談を成功裏に導いていただきまして、麻生総理大臣、大変どうもありがとうございました。

【質疑応答】
(問)
 麻生総理にお伺いいたします。
 両国はEPAを合意したいという意思はお持ちのようですけれども、今回の首脳会談では、大筋合意のところまでも至りませんでした。年内合意を目 指している両国として、今、何が問題になっているのか、また問題を打開するためには、どのような方策を取っていくべきなのか、総理のお考えをお聞かせくだ さい。

【麻生総理】
 それぞれアジアの中において、第1位と第3位の経済規模を有する日本とインド。そういう両国の経済関係を更に深めるということは、自然の流れだ と思います。その中でも、日・印のEPAは、両国の経済関係を更に緊密にし、新たな段階に築き上げていくためにも必要と思っております。
 協定は、今、引き続き交渉中でありまして、その具体的内容につきましては、今、まさに交渉中でありますので、内容につきましては、発言を差し控えさせていただきます。
 しかし、日本としては、これまでの交渉で実質的な進展がいろいろ得られたことに関し、我々も歓迎をします。今日の会談でも、拡大傾向にあります 日・印の経済関係というものを更に後押ししていくためにも、このEPAの早期妥結、締結を引き続き目指すということで一致をいたしております。

(問)
 核供給グループNSGがインドに対する核物質の売却の禁止を撤廃しました。日本政府としては、日本企業に対して原子炉部品等をインドに売ることを奨励することになるんでしょうか。それとも、他にいろいろと法律上の制限あるいはその他の困難があるんでしょうか。
 安全保障共同宣言ですけれども、ちなみに、総理が外相の時代、熱心に三国間安全保障協力対話、日・米・印の対話ということに非常に積極的でいらっしゃいました。
 今日の共同宣言というのは、終局的に、日・米とインドの三国間、あるいは中国が特別の対象として、その方向に向かっての一歩なのでしょうか。

【麻生総理】
 御質問ですけれども、今回の原子力の協定につきましては、日・印の原子力協定に関する議論を行っているわけではありません。ただ、将来の日本との原子力協力というものを進めたいという御発言は、シン首相の方からありました。
 これに対して、私はインドが核実験のモラトリアム、継続を含めて約束と行動をしっかりと実施してほしい。日・印の将来の原子力協定については、さまざまな要素がありますので、考慮する必要があるということを申し上げました。
 もう一つの安全保障の協力に関しては、日・印間の協力というのは、日本の安全、ひいては東アジア、南西アジアを含めまして、非常に幅広い地域の平和と安定を確保するためにも大変重要であるとの観点から、インドとの安全保障協力を進めたいと考えております。
 したがって、これがしかるべき第三国、今、チャイナという名前が挙がっていましたけれども、チャイナというものを目標とかターゲットにするというようなことではありません。

(問)
 シン首相にお伺いいたします。今の質問にも関連するんですけれども、アメリカとインドの原子力協定に関連して、今、麻生総理からもあったよう に、インドは進めたいということで日本との協定に前向きですけれども、日本政府は時期尚早という立場だと伺っております。インド側は日本に対して何を期待 しているのか、お聞かせ願いますでしょうか。

【シン首相】
 皆さん、私どもは日本国政府に対して、民生原子力協力の分野では、国際原子力機関の場で支持をしてくださっていること、また、原子力供給グループを通して支持を下さっていることに対して心から感謝しています。
 さて、日本との協力を、この民生原子力の分野で進めたいという希望を持っているわけですが、この問題が日本においては非常にセンシティブな問題 だろうということも認識しています。ですから、麻生総理に対して申し上げたのは、私どもとしては、日本政府並びに国民が安心できるペースで進めていきたい と申し上げました。

(問)
 麻生総理に伺いますが、ビジネスのリーダーシップ、あるいは麻生総理は戦略的なインドとの経済パートナーシップ、経済連携の必要性を訴えてい らっしゃいますが、日本の企業はインドとの貿易、あるいはインドの投資に対して、なぜ、躊躇の姿勢を示しているんでしょうか。また、日本の政府は、インド の企業が日本の市場にアクセスすることをどうも規制しているように思います。
 そして、シン首相は、中国に行き、アジア、ヨーロッパのASEMのミーティングに出席をする予定でおりますが、日本とインドの間の経済的な パートナーシップが結ばれれば、中国、また、その他のアジアの地域において、こういった経済的な秩序が確立できたと言えるんでしょうか。

【麻生総理】
 質問ですけれども、是非、この数字だけを頭に入れておいていただきたいと思います。この5年間で、日本からインドに対する投資は過去の10倍。 それから、会社の数、進出企業の数からいけば、2倍になっています。また、ニューデリーにおいて進出した企業の数で言えば、50年間で100社と思います が、200社になるのにこの3年です。だから、数字は急激に変わっていますので、是非、その数字は知っておいていただければと思っています。猛烈な勢いで 変わりつつあるというのが、このところの日本からインドに関するビジネスマンの意識だと思っています。
 したがって、今のEPAの話につきましても、現実はいろいろなところの難しさを乗り越えて、前に進みつつあると理解をしていただければと思います。

【シン首相】
 御参会の皆様、プレスの皆様、経済連携協定、また、安全保障協定を日印両国間で締結をすることは、第三国を犠牲にしてはいけません。これは中国 を含めて申し上げております。インド、中国、また、海外において、私は再三申し上げておりますが、私は心から、インドと中国が決して競争をしているわけで はない。世界は、中国、インド、両国が開発の目標を達成することを十分可能にする余地を持っています。
 したがって、日本と経済連携協定を締結することが、決して第三国、特に中国の犠牲の上で立脚してはいけないと考えています。



いつやってたの?ってのが、正直な印象なんですが....。

小沢の不誠実、麻生の構想力

面白がって全部引用しちゃう!!

2008年10月21日(火)21:10
福田政権を総括する

自民党総裁選は下馬評どおり、麻生太郎の勝利で決着した。候補者5人の全国ツアーは自民の一体感をアピールしたが、対立軸を乱して争点を喪失させた観もあ る。自民党の狙いは総裁選の余勢を駆って解散総選挙に打って出ることだった。目論見どおりになったかは別として、日本国民は、あらためて総理大臣を自民党 総裁の麻生太郎に委ねるのか、民主党代表の小沢一郎に任せるのか、という選択に迫られる。

選択の前にやるべきは、福田政権の総括である。閣僚の不祥事で足元をすくわれ、過去の年金未記録で叩かれ、どこからか浮上した格差問題で責任を問われ、参 院選で大敗北、KY扱いされた安倍総理の突然の辞任を受けて、福田政権は誕生した。自称「背水の陣」内閣の滑り出しは60%前後の支持率。支持理由の大半 は「安定感がある」だった。国民的人気を背景に颯爽と登場した橋本内閣の成立時とほぼ同じ数字を獲得したのは、逆風が吹き荒れるなかでは上出来だった。

「安定感」が小泉・安倍の改革路線にブレーキを踏むことだとすれば、福田政権は期待どおりの活躍をした。公務員制度改革、地方分権改革、独立行政法人改革 など引き継いだ改革は、角を削られたり、先送りされた。三位一体改革は中途半端でもともと高く評価できないが、「格差是正」が至上命題となり、「地方法人 特別譲与税」や「地方再生対策費」など政策的逆戻りもみられた。

小泉・安倍路線と大筋では同じ方向に走ってきた民主が、突然方向転換して「子ども手当」や「戸別所得補償制度」など「大きな政府」政策を掲げて参院選に勝利したのだから、自民がそれを追いかけるのは自然である。

だが、民意に従ったはずの福田政権を民意は評価しなかった。支持率は墜落寸前の低空飛行を続ける。国際的には福田総理のリーダーシップが高く評価された洞爺湖サミットも、福田色を出したといわれる内閣改造も支持率回復にはつながらず、解散総選挙の大合唱が湧き上がる。

ここで福田総理はキャパが一杯となり、少しでもましな状況で総選挙を闘うために、マウンドを国民的人気者に譲ることを最後の仕事と決める。参議院で少数派 である以上「ねじれ」は解消されぬし、「郵政選挙」で膨張した議席数も維持できぬが、自公合わせて過半数を取れば、地に落ちた正統性は回復できる。「私は ね、自分自身を客観的に見る事ができるんです。あなたとは違うんです」といって辞任した判断は、言葉どおり客観的であり、理性的といえる。

福田政権は民意に翻弄されたのである。「ねじれ」のなかでめざす方向を失い、動けなくなった。安定ではなく停滞、それが福田政権であった。

民意は政治の基盤である。民意に逆らった政治を行なってはならぬし、逆らっても長続きはしない。また、民意におもねっては政治は合成の誤謬に陥ってしま う。民意を無視する政治も、民意に従うだけの政治も機能不全を起こす。民意の「罠」にはまった福田政権ののちに求められるのは、日本が繁栄を続けるビジョ ンを示すとともに、国民合意の醸成に全力で取り組み、その実現に向けた政策を確実に実施することにほかならない。

企業で例えれば、経営者と従業員がビジョンを共有し、一丸となって事業に取り組む姿である。明治維新と戦後復興、日本はこれまで2回は経験したはずだ。ど ちらも日本は危機的状況にあり、指導者は日本の生存を懸けたビジョンを描かねばならなかったし、国民は生きるために必死で働いた。それがこの国を豊かにし た。対立がなかったわけではない。むしろ血を流すほどの激しい争いがあった。みな真剣だった証しである。

豊かになった日本はかつての姿を失った。ベンチャー企業が大企業になったようなものだ。安泰なら、それもよかろう。だが、現在の日本もまた内外ともに大転 換期を迎えている。皆気づいてはいるが、誰も本気にならない。危機に気づかず死を迎える茹で蛙になぞらえられた日本は、ジワジワだが確実に訪れる危機を知 りながら対応できないでいる。

「糖尿病」にかかっている日本

危機とは何か。日本は「糖尿病」にかかっているということだ。

日本の貿易収支は1990年代から一貫して黒字であった。2000年前後、安い労働力を武器にした中国の著しい経済発展とともに、日本の産業は空洞化する と思われたが、それは一時的な懸念に終わった。日本の高度技術によって製造される部品や素材を中国が必要としたからである。世界市場は中国製品で溢れてい るが、そのじつは「ジャパン・インサイド」であり、中国の輸出が増えれば日本の輸出も増える、という構造が形成された。

近年の貿易黒字はほぼ10兆円。多くは米国やアジア諸国などへの海外投資となっている。リスクを恐れる企業は投資にも個人所得としても分配せず、内部留保 を決め込んでいる。恩恵を受けるのは公債を連発する政府だけだ。国内企業への投資が進まず、家計も潤わず、もっともおカネの使い方が下手なところにおカネ が回る。だから経済成長は頭打ちとなる。せっかくの栄養を血肉に変えられぬ糖尿病と同じではないか。

生み出した利益を民間投資と個人消費に回るように制度的・慣習的障害を徹底的に排除すると同時に、非効率な国のあり方そのものをリストラする。「糖尿病」からの脱却こそが、わが国の根本的課題なのである。

この問題を一層深刻にしているのが、少子高齢化、すなわち、労働力人口の減少、貯蓄率の減少、社会保障負担の増加である。高齢者・女性に働いてもらうのは 言うに及ばず、移民も視野に入れねばなるまい。長期的には子供を増やせればいいのだが、大人になるまでその分負担は増える。「糖尿病」からの脱却は並大抵 の努力ではできない。

中国が儲かれば日本も儲かる構造を支えるのは、中国の主な輸出先となる米国だ。その米国は、9.11以降、テロと大量破壊兵器の結合を安全保障上の最大の 懸念と捉え、アフガン、イラクに対して軍事行動を展開するなど、攻撃的な側面をあらわしている。反米感情が国際的に広まる一方で、グローバル化によって中 国やインドが台頭し、資源国の中東諸国やロシアに富が集中するようになった。欧州もまた世界的規範づくりやユーロ高を通じて、存在感を高めている。米国の 相対的な優位性は軍事的にも経済的にも失われないにしても、米国以外の国が力を付け、多極化が一段と進んでいる。

日本は、米国の変化に合わせて「世界の中の日米同盟」という地平を開いたが、多極化の世界では複雑な力関係の均衡が求められる。「世界の中の日米同盟」を 維持すべきか、それとは異なった戦略をとるべきか、国内の体質改善を進める傍らで、国益を守る基本戦略の再確認に迫られている。ポスト福田には、そうした 認識をもって日本のあるべき姿を考え、具体的な政策を示し、国民ときっちり合意形成をしたうえで、確実に実行してもらいたいのである。

麻生太郎の道州制論

こうした観点から、麻生太郎か、小沢一郎か、を問われれば、彼らのこれまでの著述や発言を追うかぎり、麻生のほうに軍配を上げざるをえない。

麻生にはユーラシア大陸に沿って自由の輪を広げ、豊かで安定した開かれたアジアを形成することをめざす「自由と繁栄の弧」という構想がある。明らかに米国 支持の表明であり、相対的に力を弱めかつ孤立感を高める米国にとって歓迎すべきものとなっているが、価値を共有する欧州を排除するものではない。また一方 では、中国に対する期待と牽制にもなっている。米国を国際秩序の中心に位置づけながら欧州をも排除せず、中国の安定的発展を促すという多極対応で、安全保 障と経済という国益を確保する基本戦略を麻生は示している。少なくともそこには国際的大局観がうかがえる。

国内について麻生は、霞が関を中心とする中央集権システムを解体し、道州制を導入しようと主張している。中央集権は、明治維新や敗戦後の復興には大きな効 果があった。だが、ナショナルミニマムがほぼ達成され、豊かになった現在の日本にとっては中央集権では無理がある。その結果が、地方の衰退である。

日本の発展のためには道州制を導入し、公共事業、産業振興、社会福祉などの権限やそのための税源を移すことによって地域の経済的自立を図るとともに、中央 政府を小規模にして外交、国防、司法などに特化する。これが彼の道州制論である。細部にわたる議論はないが、「糖尿病」からの脱却をめざす基本戦略と読み 取れる。

麻生のもっとも大きな特性の1つが、小泉総理に勝るとも劣らない国民とのコミュニケーション能力だ。「失言」も懸念されるが、飾らない言葉、明るい表情、 マンガやアニメを好む大衆性が若者やオタクをも惹きつけている。小泉総理は「郵政選挙」を圧倒的な支持で勝利した。ポピュリズムと非難もされたが、国民と の合意形成がうまかったともいえる。民意に翻弄されることなく、難しい国の体質改善を進めるには、こうした国民とのコミュニケーション能力は不可欠であ る。

立派なアイディアがあっても、国民との合意形成ができなければ、何もできない。アイディアは借りてくることもできるが、コミュニケーション能力はそうはいかない。麻生には国の指導者として欠かせない能力があるようにみえる。

一方の小沢の議論は説得力に欠ける。国際社会に対しては、国連中心主義である。国連が認めない活動は行なってはならない、国連が決めたことなら「平和維持 活動や国連平和維持軍はもとより、多国籍軍にも日本は積極的に参加すべき」「危険地域であっても血を流す覚悟をもって行くべき」という立場だ。

そもそも国連は国際的な「主体」ではなく、国益を背負った加盟国による競争の「場」という性格をもつ。その「場」の意思に従うだけでは、日本が国際社会の なかで何を重視し、何を守ろうとしているか、誰にも伝わらない。会議で何も発言しないが、決まったことにはひたすら汗を流すお人よしのようなものだ。小沢 の国連中心主義は、一見、多極化の時代にふさわしい戦略に見えるし、日本的美学の匂いもするが、これでは複雑な力関係を背景に各国の駆け引きが行なわれる 国際社会において、国益を維持していくことは困難だ。長年マキャベリズムの世界に生きてきたはずの小沢にしてはナイーブすぎる。

小沢には『日本改造計画』という日本のあり方を示す代表的著作がある。基本理念は「自己責任」、前書きはその象徴となっている。いわく、グランドキャニオ ンには転落防止用の柵がない。断崖絶壁の向こうに落ちるも落ちないも自己責任である。実際に年に何人も転落して死亡しているが、誰も柵を付けろとはいわな い。日本をこうした自己責任の社会に変えなくてはならない……。

つまり、何でもかんでも国に依存する日本社会の体質を「自分でできることは自分でする」という理念で作り変えろということであり、麻生の道州制の議論と考え方は変わらない。「糖尿病」対策の基本思想として理解できる。

だが、昨年の参院選で「国民の生活が第一。」というスローガンの下に「子ども手当」の支給や農業の「戸別所得補償制度」の創設など、自己責任とは逆方向の 政策を示して以来、それを持論としている。状況が変われば政策も変わってしかるべきだが、現在のほうが『日本改造計画』当時より、国には余裕はない。自己 責任の追求というなら、自民党がめざしてきた方向性も同じであり、批判するなら、それが中途半端になっていることだろう。

「なにしろ私の生涯の政治目標は政権を代えることだから。それさえできれば何でもします」といって、小泉・安倍と続いた改革に疲れた有権者をさらい取るの は、選挙戦術としては合理的であっても、自ら描いたビジョンに誠実ではない。政権獲得後にさらにもう1度方向転換すると期待する向きもあるが、それでは有 権者に対する裏切りとなる。

自民を変えるといって自民を出奔し15年、政権交代の鬼と化した小沢は破壊者ではあっても創造者には見えない。いま必要なのは破壊と創造である。小沢の本 心はよくわからない。説明もよくわからない。わからないことがカリスマ性と同時に信用が置けないという雰囲気を醸し出している。愛想はずいぶんよくなった し、メディア露出も増えたにせよ、そうした小沢に小泉総理がやったような国民的合意形成ができるとは考えにくい。

総選挙後こそが正念場だ

政策の実行力については2人とも未知数だが、何をするにも、チーム力が必要である。チーム麻生とチーム小沢のどちらが優秀かわからないが、いずれも二大政 党のトップに上り詰めた政治家なのだから、性質は異なってもリーダーシップがないはずがない。重要なのは、彼らのチームが一体感を維持しながら困難な仕事 に突き進むためには、しっかりとしたサポーターが必要だということ、すなわち世論に訴えかけ、国民から直接的な支持を得なければならない。その重要性は小 泉政権で実証されている。この点でもやはり、コミュニケーション能力に長けた麻生のほうが分が良さそうだ。

もっとも総選挙に突入すれば、麻生もこれまで説いてきたビジョンや政策の方向性とは反する耳ざわりのよいことを訴えてくるかもしれない。事実、彼の財政出動の議論には、小沢の「子ども手当」や農業の「戸別所得補償制度」のような選挙対策の影が見える。

一方、「バラマキ」と批判された小沢のほうは、財源確保のための具体策を示し、筋を通そうという努力が窺える。いずれ両党はマニフェストを発表するだろうが、それぞれの理念とビジョンに基づいた体系性のある政策を示してもらいたいものである。

有権者は理性だけでは動かない。だが、政党がきっちりとしたマニフェストを示すならば、それを理性的に判断して選択するのが日本の民主主義の発展には重要である。そうしないかぎり、マニフェストは意味のないものになってしまい、有権者は政権選択の重要な指針を喪失する。

選挙の結果は、麻生になるか小沢になるかはわからない。明らかなのは、いずれになっても総選挙後こそがわが国の正念場、ということだ。

麻生が勝てば、与党としての正統性をアップデートできるが、「ねじれ」がある以上、世論の「罠」で停滞した福田政権とは異なるにせよ、そのビジョンと政策 を推し進めるにはそうとうの抵抗が予想される。小沢が勝てば「ねじれ」はなくなるが、彼のビジョンと政策がそのまま実行されることにはまだ不安がある。

どちらになっても日本丸の進路は険しいわけだが、それに業を煮やした勢力が自民と民主のバランスを崩す行動に出るかもしれない。政界再編などやっている時間的余裕はないようにも思えるが、それが日本を危機的状況から救う近道のようにもみえる。(文中敬称略)





常務取締役・国家経営研究本部長

永久 寿夫 (ながひさ・としお)

専門分野 【 政治問題 】

日本の政治行政制度、政治プロセス、公共政策、国政・地方選挙などの分析・研究を通じ、問題提起や政策提言を行なっている。


常務取締役・国家経営研究本部長 永久寿夫

経歴

  1982年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同年PHP総合研究所入社。88年、スタンフォード大学にてロシア・東欧学修士号(A.M.)取得。94 年、カリフォルニア大学(UCLA)にて政治学博士号(Ph.D.)取得。国家経営研究部長などを経て、現在に至る。杉並区行政評価検討委員会委員、神奈 川県「21世紀の県政を考える懇談会」委員、内閣府国際青年育成事業ハンガリー派遣団団長、東京外国語大学非常勤講師、熱海市行財政改革会議委員などを歴 任。NPO法人パンゲア理事、PHPマニフェスト検証委員会事務局長、「世界を考える京都座会」事務局長、「次代を考える東京座会」メンバーを務める。メ ルマガ『PHPリサーチニュース』でコラムを連載中。

【 主な著書 】

『二十一世紀日本国憲法私案 新しい時代にあった国づくりのために』(江口克彦・永久寿夫編著 PHP研究所)

『こんなのはじめて!スラスラ読める「日本政治原論」』(永久寿夫著 PHP研究所)

『世界はこうして財政を立て直した-9カ国の成功事例を徹底研究-』(林宏昭・永久寿夫編著 PHP研究所)

・ 『いま「首相公選」を考える』(弘文堂編集部編)

・ 『地方分権への道標』(静岡県編)

・ 『日本の安全保障と憲法』(加藤秀治郎編 南窓社)

・ 『国際政治学の基礎知識』(加藤秀治郎・渡辺啓貴編 芦書房)

『ゲーム理論の政治経済学――選挙制度と防衛政策』(PHP研究所)

【 近年の雑誌論文 】

・ 「もはや自民も民主も不要!」『Voice』(PHP研究所)2008年7月号

・ 「北海道道州制特区の悲惨」『Voice』(PHP研究所)2008年2月号

・ 「安倍政権へ『15の提言』」『Voice』(PHP研究所)2006年12月号

・ 「日本外交の新基軸は何か」 『改革者』(政策研究フォーラム)2005年3月号

・ 「二十一世紀日本国憲法私案」『Voice』(PHP研究所)2004年12月号

【 その他 】

・NEWS23、サンデー・モーニング、ブロードキャスター(TBS)、スーパーニュース(フジテレビ)、報道ステーション(テレビ朝日)、Channel News Asia(シンガポールTV)、夜エクスプレス(日経CNBC)など。



ちくちくやりながら、結論出さない辺りは、流石だおね。

「解散ないなら方針転換」民主・輿石氏、対決路線を示唆

手詰まり感ありあり

2008年10月22日(水)20:04

 民主党の輿石東参院議員会長は22日の参院議員総会で、政府が提出予定の金融機能強化法案などについて「何もかもどさくさに紛れて一気に民主党が 容認するだろうという姿勢は絶対に許せない。解散先送りという事態がくれば、基本方針を変えることは十分あり得る」と明言した。

 月内の補給支援特措法改正案の成立直後に首相が解散しなければ、対決路線に転換する考えを示したものだ。

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やっぱり自民の方が一枚上手か?
つーか、与党が主導権握るのは自然な話だよね....。