水曜日, 11月 21, 2007

福田首相に聞く

フィナンシャル・タイムズ

(フィナンシャル・タイムズ 2007年11月12日初出 翻訳gooニュース) FT東京支局長デビッド・ピリング

福田康夫首相は11月12日、首相官邸でフィナンシャル・タイムズの単独インタビューに応じた。以下はその一問一答 (gooニュース訳注:以下は英語記事からの翻訳です。福田首相自身が使った日本語表現ではありません)。

フィナンシャル・タイムズ(FT):
 最近の政局の動きについておうかがいする前に、今日の経済の動きに ついて質問させてください。今日、円が対ドルで110円をつけました。ずいぶん円が強くなってきています。町村内閣官房長官によると、円高は日本にとって 特に問題ではなく、むしろ「国の価値を上げることで良いこと」とおっしゃいました。首相もそう思われますか?

福田首相(以下、福田): 短期的には、円高は確かに問題となります。為替レートの急激な変化は、どういう形でも好ましくない。しかし長期的な視点に立つと、必ずしも円高に拒否反応を示すこともない。しかしこれはあくまでも、長期的な話です。

FT: でも今回の円高はかなり急激にやってきました。私が先週に日本を離れたときは対ドル115円だったのに、帰国したら110円になっていました。これは急すぎますか?

福田: はい、急すぎます。

FT: それについて、日本は何ができるでしょうか。

福田: 実際には、ただ日本経済の問題ではなく、米国経済の状況が反映されているわけです。私たちにできることは限られています。ただし、投機的な動きは抑える必要があると思います。

FT: どう抑えるのでしょうか。日本は介入に踏み切ることができますか。

福田: 私は「慎重に」と言っているのです。

FT:  しかし危機的な状況になれば、介入のおそれもあるということですか?

福田: 私が言っているのは、そういうことにならないよう、慎重に、ということです。

FT: ほかの話題に移る前に、経済についてもうひとつだけお聞かせください。ご承知の通り、米国では今サブプライ ムローン問題が起きていて、これが日本にも波及しつつあると一部で指摘されています。輸出の問題があるし、穏やかではあるけれどもデフレは続いているし、 GDP(国内総生産)の数字もあまり良くない。このサブプライム問題のせいで日本のとても長い景気拡大が打撃を受けて、拡大がついに終ってしまうかもしれ ないという懸念が、外国では起きています。その点について心配なさっていますか。

福田:
 米国や欧州ほど、サブプライム問題の影響は日本にはないだろうと考えています。もちろん、一部の企業は打撃を受けるでしょうが、全体的な影響は限定的なものにとどまると思っています。

もちろん、世界経済がこれからどう展開するだろうという疑問はあります。世界経済が下振れする可能性はもちろんあって、国際貿易と金融に日本がこれだけ深 く関わっている以上、日本が影響を受けるのは必至です。しかしほかの国と比べれば、日本への影響はそれほどひどくならないだろうと思います。

FT: それでは政治の話に移ります。先週の東京の動きを私はロンドンから見ていたのですが、周りからはさかんに 「これは昔への逆戻りなのか?」と言われました。日本は統治不可能なように見えます。このこう着状態はどうやって打開できるのでしょう? 早めに選挙に踏 み切って有権者からの支持基盤を固めるのか。衆院の3分の2議席を押さえている、その数の力を使うのか(それで法律を通していくのか)。あるいは民主党に 歩み寄って、大連立ではないにせよ、何らかの形で時には協力していくのでしょうか。

福田: ご承知の通り、衆院と参院ではねじれ現象がおきています。衆院では与党が過半数を占めるが、参院では野党が過半数です。こういう状況は私たちの予想外のことで、しかもしばらくは続く見通しです。これは戦後日本で初めてのことです。

なので私たちは今、かつてない経験をしているわけで、これからどうやって進むべきかまだ検討中」と首相はFTに語った。「連立を組む試みにはすでに失敗したので、当面できることは、個別案件ごとの政策協調くらいです」

なので私たちは今、前例のない経験をしているわけで、これからどうやって進むべきかまだ検討中です。個別の政策ごとに野党と協力することは、あり得るでしょう。いずれは、ドイツのような連立が生まれるかもしれません。

私たちはすでに一度、連立づくりに失敗しているので、当面は政策ごとの協力を模索するしか方策はない。法案ごとひとつひとつ、野党の合意をとりつけて政策を施行するのが、政権与党の役割です。

FT: 次の選挙のタイミングというのは、重要な秘密事項です。もしかしたら当の総理ご自身、まだ決めていないのか もしれません。しかし、主要8カ国(G8)の国の間には、これだけ政治が混乱している状態では、一体どの政府が来年の洞爺湖サミットを主催するのか予測も つかない、と懸念する声があがっています。洞爺湖サミットの時点でご自分がまだ政権を率いている、あるいは洞爺湖サミットが終るまで総選挙は行わないと保 証できますか? それを世界に約束できますでしょうか。

福田: ええ、かなりの確度で保証できますよ。総選挙の時期を決める権限は、私がもっているからです。言い換えると、衆院解散がない限り、G8サミットを主催するのは私たちだということです。

FT: おっしゃることはつまり、総理は早い選挙よりも遅い選挙の方がいいと考えていらっしゃると、そうはっきり示唆されたように聞こえますが。

福田: 全ては、野党がどう行動し、どう考えるかによります。もし野党が普通に行動すれば、あなたが今おっしゃったような展開になるでしょう。しかしいずれにしても、選挙がいつになろうと、私たちが勝てばいい。それが大事なポイントです。

FT: 総理は今週末にワシントンに行らっしゃいます。いざとなれば衆院の3分の2議席を使って対テロ法案を可決させる用意があると、ブッシュ大統領に言うことができますか。

福田: それは国内の政治問題なので、話題にするつもりはありません。言う必要があるのは、新法可決のために努力していくということだけでしょう。

FT: 民主党の小沢一郎代表は、日本は国際情勢に積極的な役割を果たすべきだが、それは米国流の善か悪かという枠組みによってではなく、国連の枠組みの中でやるべきだという立場です。総理はこれに共感なさいますか?

福田: 小沢さんは国連決議、あるいは国連決議に容認された活動という意味で、話をされています。これについて日本 国内ではさかんに議論されており、小沢さんの主張が大きな支持を集めているというわけでは、必ずしもない。それに、国連決議の下で果たして日本がどれだけ 活動できるのだろうか、という問題もあります。

ご承知の通り、日本には(平和)憲法がありますから、国連がどんな活動を認めたとしても、それが日本国憲法上どうか、という問題がある。また小沢さんはどうも、日本の憲法よりも国連決議が優先すると言いたいような、そんな印象を受けています。

日米安保で定められた色々な取り決めが、実際に速やかに実行できるのかという問題もあります。ですから私たちは、小沢さんが本当に何を考えているのか詳細に把握しない限り、彼の提案に同意することはできません。

FT: 今回の訪米では当然、北朝鮮について議論することになります。首相の訪米期間中にも、ブッシュ大統領が米国は北朝鮮をテロ支援国家リストから外すと言う可能性もあります。これは北朝鮮の核武装解除という大きな合意の利益を考慮して、日本が容認できることでしょうか。

福田: もちろん私たちは、米国が核武装解除を巡って北朝鮮と手緩い交渉をしているとは考えていません。北朝鮮の核 兵器は明らかに日本にとって大きな脅威であり、我々は米朝交渉の方向性を支持しています。我々はこうした交渉ができる限り完全な形で成立することを強く期 待しています。

FT: 拉致問題という観点から、日本が反対し、「交渉はやめるべきだ。我々は気に入らない」と言うことはないのでしょうか。日本が立場を後退させ、拉致問題が完全に解決されないままでも、交渉プロセスの続行を認めることはあり得ませんか。

福田: もちろん、北朝鮮の核開発計画が破棄されるのは望ましいことだし、我々は北朝鮮のミサイルの脅威が取り除か れることも非常に重視しています。そして拉致問題も解決する必要があります。我々としては、日本はこうした3つの問題をほぼ同時期に解決すべく、北朝鮮と 交渉する必要があると考えています。

FT: 選挙がいつになるかというのは極秘事項です。実際、総理ご自身もまだ分からないのかもしれません。しかし、主 要8カ国(G8)のメンバーの中には、これだけ政治が混乱する中で、一体どの政府が北海道のG8首脳会談(来年7月の洞爺湖サミット)を主催するのか分か らないという懸念があります。

あなたがその時点でまだ政権を率いている、あるいは洞爺湖サミット後まで総選挙は行わないと保証できますか?これは世界に向けて確約できることでしょうか。

福田: ええ、かなりの確度で保証できますよ。総選挙を行う権限は私にあるからです。言い換えると、衆院解散がなければ、我々がG8サミットを主催するということです。

FT: 選挙の時期は早いよりも遅い方が望ましいという、かなり強いヒントのように聞こえますが。

福田: 野党の動きと考え方次第です。もし野党が自然に振る舞えば、あなたが今おっしゃったような展開になるでしょうね。しかし、いずれにせよ、問題の核心は、選挙がいつになろうと、我々が勝てばいいということです。

FT: 総理は今週末、ワシントンを訪問されます。状況が差し迫れば、衆院の3分の2議席を使って対テロ法案を可決させるとブッシュ大統領に言うことができますか。

福田: これは国内の政治問題なので、話題にするつもりはありません。私が言わねばならないのは、我々は新法を可決するために最大限の努力をするということだけでしょう。

FT: 民主党の小沢一郎代表は、日本は国際問題に積極的な役割を果たすべきだが、それは米国の是か非かという枠組みではなく、国連の枠組みの中でやるべきだと主張しています。小沢氏のそうした立場に共感できますか。

福田: 小沢さんは国連決議、あるいは国連決議に容認された活動という観点で話されている。これについては日本で大きな議論があり、必ずしも彼の立場が大きな支持を得ているわけではありません。そして、国連決議の下で日本がどれだけの活動を行えるのか、という問題もあります。

ご承知の通り、日本には(平和)憲法がありますから、国連がどんな活動を認めようとも、それが日本国憲法にどう関係してくるかという問題がある。また、私が受けている印象では、小沢さんはどうも国連決議が日本国憲法より上であると言いたいようです。

日米安保で定められた様々な条項が実際スムーズに実行できるかどうかという問題もあります。ですから我々としては、小沢さんが本当に何を考えているのか具体的な内容が分からない限り、彼の言っていることに同意することはできません。
日米首脳会談で議論する北朝鮮問題

FT: 言うまでもなく、今回の訪米では北朝鮮について議論なさるでしょう。総理の訪米中にブッシュ大統領が、米国は 北朝鮮の「テロ支援国家」指定を解除する方向で動いていると発言する可能性もあります。北朝鮮の核武装解除という大きな合意実現のためになら、日本として も容認できることでしょうか。

福田: 北朝鮮の核武装解除について、米国が手緩い交渉をしているとはもちろん思っていません。北朝鮮の核兵器はもちろん日本にとって大きな脅威です。私たちは米朝交渉の方向性を支持しています。この交渉が、できるだけ完全な形で合意にたどりつくよう、強く期待しています。

FT: ということは、拉致問題を抱える立場から日本が米朝交渉について、「これはよくない。やめるべきだ」と反対したりしないということですか? 拉致問題への十分な対応がなくても、米朝交渉の継続を容認するということですか? 譲歩するというほどではなくても。

福田: もちろん、北朝鮮の核開発計画が廃棄されるのは望ましいことだし、北朝鮮のミサイルの脅威が排除されることも 重視しています。さらに、拉致問題は解決されなくてはならない。この3つの問題をほぼ同時に解決するためにも、日本は北朝鮮と交渉しなくてはならないと考 えています。

FT: 国内の問題に移ります。総理は小泉政権で大きな役割を果たされました。小泉時代に何が根本的に変わったとお考 えですか。そして後悔していることは何ですか。悪化したことは何だと思いますか? 総理はここ最近の演説で、小泉時代の悪影響に言及していらっしゃいま す。何が悪影響だったと考えていらっしゃるのか、そしてどうやって対処できるとお考えか、お聞きしたいです。

福田: 小泉改革と呼ばれているものは、日本でそれまで普通だった物事のやりかたを変えた。それ自体は、私はいいこと だったと思っています。当時、「官から民へ」や「中央から地方へ」というキャッチフレーズをよく聞いた。内容について言えば、方向性は間違っていなかっ た。しかし時によっては、(小泉元首相は)急ぎすぎたかもしれない、それによるマイナス影響がいくらかあったかもしれないと、私は思っているます。

日本はここ数年、大きく変化しています。人口が減っている。ご承知の通り、第2次世界大戦が終わってからの60年間、日本の人口は年々増え続けましたが、数年前にその流れが変わりました。

高齢者人口が急増する一方で、労働力人口はこれから減っていく。こうした変化に対応するために、やらなくてはならないことがたくさんあります。小泉改革は、こうした問題を念頭に行われたものです。

私たちは、いや、あなたもそうです。今生きている者は皆、環境とエネルギーの問題において、大きな変化に直面している。挑戦に打ち勝つため、私たちは自分たちを変えていかなくてはならない。そういう大きな変化が必要とされる時代に、私たちは生きているのです。

改革は進める必要がある。もしかしたら、もっと大規模な改革が必要になるかもしれません。

FT: どういう改革でしょうか。改革というのは、かなり曖昧な言葉です。具体的に何を想定されていますか。

福田: 日本人を見ると、今言ったように労働力人口が減っていきます。それはつまり、女性と高齢者を労働力人口に取り込んでいく必要があるということ。労働力が減るに従い、内需も減る恐れがある。とすると経済の規模も恐らくは縮小する。

その一方で私たちは、返済が必要な巨額の公的債務を抱えています。もし経済が縮小し続けたら、債務返済は簡単にはできなくなる。ですから私たちは経済を拡大し、国民の生活水準を向上させるという目的を維持しなくてはならない。そのためには、諸外国との絆を深めるしかない。

つまり私たちは、日本経済の国際化を今後も推進していく必要がある。これは基本的に、日本からの対外投資と、海外からの対日投資の両方をもっと促すという ことです。そして海外からの対日投資を促すためには、日本市場をもっと開かれたものにするため、大いに努力をする必要がある。大きな障害がいくつもありま す。障害を取り除くため、私たちは戦わなければなりません。

FT: 質問があと1つしかできないので、何をお聞きするのがいいか。そうですね、参院選で怒りをもって行動した有権 者をなだめるために、総理がやろうと考えていることには、お金がかかるものがあるかもしれません。そうなると、今はいったん棚上げされている、消費税の増 税問題が出てきます。数週間前と比べて野党が弱まっている今、増税への動きを加速させられるでしょうか? 必要だと考えていらっしゃる消費税引き上げにつ いて、発言しはじめられますか? タイミングの問題だと思うのです。以前よりも、議論開始を前倒しできる状態になったと思いますか?

福田: 日本国民は、消費税率引き上げの必要性を感じているし、理解しています。とは言っても、政府の無駄遣いに不満ですし、自由競争入札ではない随意契約が多すぎると不満満を抱いています。現時点で私たちが消費税の問題を持ち出したら、国民は激怒するはずです。

今しなければならないことは、まず私たちが、政府支出の削減にできる限り努力し、その後に、消費税引き上げを認めてもいいかなと国民が思ってくれる、そういう雰囲気作りを目指すことです。

そしてもう1点。高齢化社会において、社会保障に必要な出費が増え続けますから、今後どれだけの追加コストが必要になるのか計算しなければなりません。日 本国民は、個人個人が将来どれだけの社会保障を必要とするのか、議論をしなければならない。そして政府は、国民に選択肢を示す必要があります。

FT: 総理はすでに決まっていた歳出削減措置を一部撤回しました。いや、今はまだダメだとおっしゃったわけです。歳出削減策の中には、行きすぎたものもあったということですか。

福田: 政府が歳出削減を強調すると、どうしても横断的な削減案になってしまった。それを実行すると、すでに苦しんでいる人たちがいっそう苦しむことになる。なので、歳出削減には限度があると思っています。



ぼっちゃんよりは、まともでしょ?

土曜日, 11月 17, 2007

日本の新首相、国と党の進む道を見据える

フィナンシャル・タイムズ

(フィナンシャル・タイムズ 2007年11月13日初出 翻訳gooニュース) FT東京支局長デビッド・ピリング

日本の安倍晋三前首相が今年9月にいきなり辞意を表明して世間を驚かせた後、自民党は大急ぎで後任として、福田康夫氏を首相官邸に押し込んだ。そのとき新首相は、トレードマークのドライな調子で「貧乏くじをひいた」とコメントしたものだ。

福田氏は実際、危機的状況の最中に首相となった。戦後初めて参院が野党に支配され、自民党の評判は7月の参院選以来どん底にあった。有権者は参院選で、所得格差の拡大と農村部を置き去りにする政策は、自民党のせいだと批判票を投じたのだ。

就任から1カ月半、福田新首相はテロ特措法をめぐる政局の膠着への対応にひたすら追われた。米国主導の「対テロ戦争」への日本式貢献としてのインド洋での 補給活動の継続に野党が反対したため、新首相は、海上自衛隊の撤退を命令せざるを得ないという、屈辱的な立場に立たされた。この給油活動を部分的に継続す るための新法案が衆院委員会で認められたが(訳注・13日には衆院本会議も通過し、参院送付された)、参院では否決される見通しだ。

その一方で先週には、びっくりするような大展開があった(結局は茶番で終わったのだが)。その中で福田首相は、国を治められるようにするためにと、対立する民主党に大連立をもちかけたのだ。

この申し出は結局、拒絶された。その過程において民主党の小沢一郎代表は、一時でも連立を検討したことの責任をとるためとして、いったんは辞意を表明し、そして撤回。民主党はほとんど内部崩壊しかかった。

この展開は、福田氏による見事な一手のなせる技だったのか、それとも単に運が良かったのか。いずれにしても野党の半崩壊状態によって、首相の立場は強化さ れた。それでもなお、福田首相は依然として、野党が(今回のことで勢力は弱まったが)あと6年は参院を支配するという問題を何とかしていかなくてはならな いのだ。

フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで福田首相は12日、今のこの困難な状況の中でどうやって首相として国を導くつもりか、そして自民党の支持を回復するために何ができるか、見通しを語り始めた。

「かつてない経験が始まっていて、どうやって進むべきかまだ検討中」と首相はFTに語った。「連立を組む試みにはすでに失敗したので、当面できることは、個別案件ごとの政策協調くらいです」

もっと長期的な話としては(たとえば衆院選の後に。衆院選は2009年までには必ず行われるが、来年実施の可能性が強い)、大連立を再度提案してみるかもしれないという、その可能性は否定しなかった。

福田氏は一部では、急場しのぎの一時的な総理大臣と言われている。しかしもし、自分はそれ以上の存在だと示すことができたとしても、福田氏は今や非常に不 人気になってしまった小泉改革の諸策について、国民の怒りを鎮めなくてはならない。福田氏は小泉政権の内閣官房長官として、小泉純一郎元首相の右腕だった のだから、なおさらだ。

「小泉改革と呼ばれているものは、日本でそれまで普通だった物事のやりかたを変えた。それ自体は、私はいいことだったと思っています。当時、『官から民 へ』や『中央から地方へ』というキャッチフレーズをよく聞いた。内容について言えば、方向性は間違っていなかった。しかし時によっては、(小泉元首相は) 急ぎすぎたかもしれない、それによるマイナス影響がいくらかあったかもしれないと、私は思っている」と福田首相は話した。

福田氏は、公共投資の拡大路線には戻らないと約束しているが、その一方で、計画されていた高齢者や身体障害者への給付削減は一部見送ると強調もしている。 高齢者社会で就労人口が減少していく中で日本は、規制緩和を進めて生産性を拡大する方向を、追及して行かなくてはならない。首相はこう言う。「改革は進め る必要がある。もしかしたら、もっとずっと大規模な改革が必要になるかもしれない」

福田首相は、日本をさらに外国投資に開く計画を追及するかもしれないと、示唆した。これはこれまで長いこと話題には上りつつも実現になかなか結びつかずにきたテーマだ。「大きな障害はいくつかある。障害物を除くために努力しなくてはならない」と首相は話した。

やはり前々から提案されては先送りされてきた、消費税引き上げについては(これは財政改革に必要な政策だという意見が多 い)、首相は、公共事業の不正入札に関する政府関与の疑惑に国民が怒っている今、そんなことを持ち出したら国民を「激怒させる」と説明。その上で首相は、 歳出拡大が必要だということは国民にも理解されているとの見解を示した。

「まず私たちが、政府支出の削減にできる限り努力し、その後に、消費税引き上げを認めてもいいかなと国民が思ってくれる、そういう雰囲気作りを目指す必要がある」と首相は話した。

志半ば...ってのも、強ち外れてないかもね。 この人のスマートな雰囲気は、悪くなかったのに....。

木曜日, 11月 01, 2007

守屋氏退職金返納よりも公務員を解雇できる制度を

ダイヤモンド・オンライン

 守屋前防衛事務次官の問題で、政府が守屋氏に、給与と退職金の一部について自主返納を求める方針を決めたという報道が、少し前の新聞に載っていた。

 確かにゴルフ接待を200回以上も受ける神経は度し難く、懲戒に相当する不祥事とは思うので、自主返納を求めること自体は理解できる。しかし、そもそも自主返納という形式であることがおかしいのではないだろうか。

 現行の仕組みでは自主返納しか無理だというのなら、規定を一から作り直したほうがよい。一旦払った退職金は絶対に取り返せないという今の制度は、明らかに公務員法の不備であろう。

 守屋氏に返納を求めた今回のケースは、確かに納得できないこともないが、世間から批判を浴びたから返納を求めるというのは、いかがかと思う。その 時の世論のムードや政治家の気分によって、公務員の経済的条件が左右されるのは、中立忠誠を求める公務員法の精神にも反する。やはりこの際、懲戒規定を しっかりと作って、何年でも遡って懲戒を適用できるように法改正すべきだろう。

 規定の不備を正すことは、罰則を厳しくする方向でも必要であるし、公務員の権利を守るという意味でも必要である。

◇ 事務次官の生涯賃金5億円は高すぎるか

 また先日、夕刊紙に「守屋、生涯賃金5億円」という見出しが躍っていた。守屋氏が公務員として支給を受けた生涯給与・賞与の合計が5億円ほどにな るらしい。ちなみに記事によると、退官前までの事務次官の月給は136万8000円、ボーナスが年間651万5000円、年間給与が2293万5000円 ということだ。

 果たして公務員の5億円の生涯賃金は、高いのか安いのか。

 まあまあ出世した大企業のサラリーマンと比較すると、それほどは高くはない。仮に、30歳で年収1000万円、35歳で1500万円、40歳以降 60歳まで毎年2000万円稼いだサラリーマンの生涯賃金は30歳以降で5億2500万円になる。その程度の額は、大手商社で順調に出世したり、テレビ局 のキー局に勤めていれば、そう難しくなく確保される。そう考えると、公務員として出世のトップを走ってきてこれくらいなら、そう高くもないのかとも思え る。

 ただ、守屋氏の場合、50歳過ぎまで官舎に住んでいたらしい(その後、新宿区内に家を建てたそうだが)。官舎は公務員としてのフリンジベネフィッ ト(給与所得者が受ける経済的利益)でもあるし、おそらく接待漬けで飲食代が掛かりにくいこともあっただろう。その意味では、給料をそれほど生活費に回さ なくてもよい。つまり"丸貰い"だったにちがいない。

 通常だと、退職後も天下りがある。役人時代の最後の給与に近い額が確保され、3、4年に1度の割で退職金を2000~3000万円も、ほぼ無税で受け取れることをカウントすると、あと2、3億円は楽に稼げる計算になる。生涯収入で考えると、やっぱり"厚遇"に違いない。

◇ 倒産もクビもないでは民間とのリスクは桁違い

 しかし、キャリア官僚というのは結構忙しい仕事であるし、もう少し給料を貰ってもよいのではないか、という言い分が当事者の側にはあるらしい。こ れはキャリア官僚全員に話を聞いたわけではないが、民間企業の役員クラスの条件がないと、なかなかいい人材が集まらないではないかと、キャリアたちは主張 する。

 筆者は、この主張はいかがなものかと思う。大前提として、官僚には「倒産」がない。言ってみれば、国債と社債の利回りを比べるようなもので、民間のサラリーマンとはそもそもリスクが違うのだ。

 さらに、もう一歩突っ込んで考えると、キャリア公務員に原則的に「クビ」がないのも大いに問題である。政府は最近、ようやく公務員の給与に成果主義を反映させるようなことを不器用にやり始めてはいる(安倍内閣時代に始めた政策なので今は頓挫している感じだが)。

 ちなみに成果主義には、いわゆる“陽気な成果主義”と“陰気な成果主義”がある。日本の成果主義は、配分するパイが決まっていて、人事評価で差を つける陰気な成果主義だ。本来の成果主義というのは、たくさん働いたら、それは会社にとっても喜ばしいことだから、1億円でも2億円でも払ってあげようと いうものだ。陰気な成果主義をやっても、組織の空気が重くなるだけだ。

 もう一つ、公務員の弊害として、長く勤めようというインセンティブが強烈に生じることがある。長いこと勤めれば高額の退職金を受け取ることができ るし、天下りもある。退職金で貰うと税金が安くなり、さらに年金も貰えるわけで、定年まで勤めたほうが圧倒的に有利だ。勤務が長期化するおかげで保守的に もなるし、ごく短期間しか関わらない大臣との関係は、むしろ官僚側が強くなる。

◇ 官僚人事を自由化する仕組みが必要だ

 キャリア官僚の採用や解雇は、本来は自由であるべきではないだろうか。そして、そのとき払いの支給にして適材適所を常に図るべきだし、クビもあるというのでなければ、ボスである政治家の言うことを聞かないだろう。

 もちろん、言ってみればモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスに勤めるような解雇リスクが生じるわけだから、それなりの高給を支払い、個別に評価し個別に雇用していく。

 官民の人事交流ができる制度も作るべきだろう。現在の制度だと、片方をやめてもう片方にいくと、そこで退職金や年金を相当程度無駄にしないといけないが、短期間にその時々の働きに対する適正な賃金が支払われる形とし、人事交流しやすい制度を確立すべきだ。

 アメリカ式の、民間から公務員、公務員から民間という、回転ドアのような制度をやっていくと、日本とは別の形で官民の癒着は出てくるだろう。それ はそれで厳しく規制を設けないといけないとは思う。ただ、メンバーが固定していても入れ替わっても癒着は生じる。何れにせよ、公務員の不正に対する処罰は もっと厳罰であっていい。これは、人事制度の変更以前に必要なことだ。

 少なくとも政策の意思決定に関わる集団である以上、キャリア公務員人事の自由化は必要ではないだろうか。

◇ 実権を握り身分も安泰官僚は政治家より強し

 人材長期固定型の現行の人事制度では、仮に今、民主党が政権を取っても、官僚のトップを変えることはできない。

 今の政治の実態というのは、公務員が政治を動かし、あるいは政治が変わることに公務員が抵抗するという、公務員の意思が強固に反映されたものだ。身分が退職後まで確保され、かつ情報も権限も持っているとなると、明らかに集団としての公務員は政治家よりも強くなる。

 本来であれば、キャリア官僚は、政治的判断によって取り替える必要があるし、要職にあるべきトップ官僚はよほどの能力が必要なのだから、適材適所で人材を配置しないといけない。

 会社の経営に置き換えて考えてみると、管理職の人事をまったく自由にできない状況で経営者が交代していっても、会社の実質を変えることはできな い。つまり政権が変わろうと総理大臣が変わろうと何の意味もないわけで、生涯所得5億円うんぬんよりも、キャリア公務員がクビもなければ入れ替えもないと いう形で管理されていることが最大の問題ではないだろうか。

 守屋氏の国会証人喚問を見ながら、そんなことをしばし考えてみた。

◇ マスコミは接待疑惑をなぜ今まで報じなかったか

 それにしても、守屋氏のような“ガードの甘い”人がわが国の防衛を担う背広組のトップだったとは、冗談みたいな話である。相手が、たとえば敵国の工作員でなかったのは幸いというべきだろう。

 ところで、もう一点、本論とは関係ない話を付け加えたい。守屋次官の200回以上に及ぶ接待ゴルフを防衛省(かつては防衛庁)に出入りしていたメ ディアの記者が知らなかったということは、あり得そうにない。取材先の組織のトップが日々何をしているかを、見てないはずがない。例の偽名にごまかされた というのでは、素人同然で、記者落第だ。

 彼らの多くは、公務員の懲戒規定に十分引っ掛かりそうな防衛次官の行ないを知りながら、今まで報じないでいたのではないか。これは、たぶん、次官へのゴルフ接待を報じると、防衛省向けの取材がやりにくくなるだろうという配慮に基づくものだろうが、不適切な配慮だ。

 メディアのチェック機能というものは、しょせんこの程度のものだ、ということを心に留めておきたい。



ごもっとも