土曜日, 10月 18, 2008

民主党〝生活が第一〟の盲点

論文載っけるのは抵抗あるかな。
けど、全文引用したいな。


2008年10月18日(土)14:23
経済政策の効果のほどは


現在、政権交代をめざしている民主党の経済政策は、日本の置かれた経済環境のなかでどの程度、効果を発揮するだろうか。

本稿執筆時点で民主党の新しいマニフェストは発表されていないが、経済政策のベースとして今年9月8日、小沢一郎氏が代表選立候補時に出した基本政策と、今年4月14日、民主党が国民新党と共同で発表した「緊急経済・生活対策」を挙げることができる。

ここでは具体的な記述の多い後者をもとに、民主党の経済政策について論じてみたい。

冒頭の「日本経済の現状認識」を見てみよう。民主党は、現状認識として第1に「内需低迷」を挙げており、「原油価格高騰などにより、消費者物価が前年比 1.0%と上昇し始めているほか、企業物価は過去数年間続いている上昇傾向が加速しつつあり、内需低迷に一層拍車がかかる蓋然性が高い」と記している。

現在は消費者物価指数が2%を超え、エンゲル係数(家計の消費に占める飲食費)の高い消費者にとっては、スーパーの食料品の値上げなどで、この数字以上の物価上昇を実感していることだろう。

一方、労働者の平均給与の支払い額は伸びておらず、有効求人倍率も低下気味である。いま勤め先のある人はよいが、今後、就職や転職をしようとする人には苦しい環境である。

景気の減速は福田前政権も認めていたことであり、政府の景気認識も下方修正された。

次に、現状の問題として「外需減速」を挙げている。「サブプライムローン問題の影響が拡大、長期化する様相を呈しており、米国経済が腰折れするリスクが高まっている」とある。

この認識も正しい。アメリカのサブプライムローン問題は、9月時点で収束の兆しがまったく見えない。かつての日本の山一證券倒産を思わせるようなリーマン・ブラザーズの倒産やメリルリンチの救済合併、AIGの公的資金投入による救済のような事態は、今後も続くだろう。

今回の金融危機の根本は、アメリカの不動産価格の下落にある。今年9月のリーマン・ブラザーズ破綻の際、アメリカのポールソン財務長官は不動産価格について、長期的には底打ちするはずだというものの「2、3カ月で片づく問題ではない」と率直に述べた。

たとえ金融機関に公的資金を投じようと、不動産のオーナーであるアメリカ国民は、従来のように旺盛な消費をすることはない。外需依存の日本経済にとっては痛手である。

中小企業対策への疑問

こうした現状への対策として、民主党案は「緊急経済・生活対策の5本柱」を掲げている。その筆頭にあったのが「2・6兆円減税」である。

この減税は、道路特定財源の暫定税率を廃止し、そのぶんを減税しようというものであり、この時点のアイデアとしては悪くなかったと思う。

地方の暮らしを考えれば、食料価格やガソリン価格が上がる一方、生活に車を使うことが多く、ガソリン使用をすぐには減らせない。

さらに、原料の仕入れ価格上昇が末端価格を押し上げている現状において、ガソリン価格の低下は輸送コストを下げ、末端の物価に好影響を与える。

もちろん、長期的に見てガソリン価格を下げることは、環境などの面から問題が大きいことは否めない。環境のコスト、将来の資源確保のリスクを反映させたう えで、環境税として位置づけ直すべきだろう。ただ、こと今年に関しては、効果的な場所に効く経済対策だったのではないか。

また産業政策については、5本柱の「地域活性化」のなかで「中小企業いじめ防止」として「大企業による下請・協力企業(中小企業)への一方的なコスト引き下げ要求、不当な押しつけ販売、サービス強要などの不公正取引を抑止する」と記している。

さらに「中小企業負担軽減・育成対策」の柱のなかで「中小企業減税」を挙げている。

だが、これらの「中小企業対策」には率直にいって疑問を感じる。

たとえば中小企業減税を行なうとして、「なぜ中小企業なのか」という疑問は拭えない。企業規模が小さければ税率が優遇されるならば、規模が拡大しつつある会社は自社を2つに分割して「中小企業になる」だろう。

所得の再分配をしたいなら、たとえば定額減税のような手法であれば、均等に配分ができ、低所得者へのインパクトも大きい。

もちろん高所得者の側もひたすらお金を取られるのは納得できないので、どの程度の所得移転がフェアかという議論は残る。しかし特定の産業を優遇するより、はるかにましだ。

農業や漁業を優遇するという政策は、あるいは国土の保全や文化の保存を念頭に置いているのかもしれない。だが農業に就いている人が、必ずしも国土や文化を 守るとはかぎらない。農地は未耕作のまま放置し、減反政策で補助金を貰い、実際は都会へ出稼ぎに行っているという農家も少なくない。

一方、政治的に見れば「票を買う」手段として特定の産業に対する保護を行なうのは分かりやすい話である。これは従来の自民党政権がやってきたことでもある。だが、特定産業の保護は所得配分の歪みをさらに増し、産業間のフェアネスを毀損する結果にしかならない。

金融・投資政策がない

では、現在のように物価高騰が日本の交易条件を悪化させ、景気の足を引っ張るなかで、日本経済を活性化させる政策は何だろうか。最も速効性があるのは、外国人に投資してもらうことである。

外国から投資を呼び込むと、投資したお金を日本人が使うから、さらなる設備投資につながり、かつ需要の喚起になる。

民主党は「【参考】『経済政策』10のメニュー」の9番目で、証券の配当に対する軽減税率の維持を謳っている。日本人自身の意識を「貯蓄から投資へ」と変えることも必要だが、実現性を考えた場合、外国からお金を入れる政策のほうが、景気対策としては効果が高いはずだ。

その際に障害となるのは、投資に伴う税制や配当の問題、それに株式取得に伴う経営権の問題である。

税制については、現在の証券取引をめぐる税制は複雑化しており、証券業界の人間でも即答できないほどだ。そのため、高齢者の資産家の申告漏れや、複数の証券口座をもつ人への対応が懸念されている。これは投資にとって大いにマイナスだ。

また、配当税率の軽減や撤廃、法人税の引き下げは、株式の価値を高めることにつながる。

さらに日本の課題として、株式取得による経営権の取得の制限に関して、外資による買収のアレルギーを取り除かなければならない。

日本にはライブドアショックに対する「過剰反応」の後遺症が残っている。今年1月にも、英国系投資ファンドによるJパワー(電源開発株式会社)の株式保有増が問題となった。

Jパワーの問題は、国防や国の資源政策に関わる部分を適切に規制監督すればよいだけのことだった。企業のオーナーシップを外国人が握ること自体は、何ら問 題ではない。日本人の株主だからといって安心できるという根拠もない。「外国人による日本企業の乗っ取り」という批判や「日本株を買っても、内実は経営を コントロールできない」という現実は、明らかに合理性を欠いている。

「日本を代表する企業がハゲタカの餌食になってもいいのか」という非難があるが、彼らが日本企業を買い取ろうとするのは、多少なりとも企業に魅力があるからだ。ハゲタカ呼ばわりされる彼らにしても、「腐った肉」は食べたがらない。買ってくれるうちが花ではないだろうか。

外国の投資を呼び込む政策は、いわば発展途上国型のビジネスモデルであり、日本としては格好のよいものではない。だが、かつては高度成長を遂げた国が、こ れほど長く停滞している現実を考えれば、再び発展途上国的な意気込みをもって、ドラスティックに挑戦する好機と捉えることもできる。

日本の将来を考えるうえで、外国の投資を呼び込む明確な投資政策と金融政策は不可欠である。その観点で民主党の経済政策を見ると、株式市場を中心とした資 金循環への認識、「資本市場をどうすべきか」という視点が見えない。現状認識でサブプライムローン問題を重大視しているにもかかわらず、明確な金融政策を 示していないのは致命的だ。

金融に関して「中小企業金融円滑化」の施策があるが、いくら中小企業への融資枠を拡充せよといっても、銀行の立場からすれば、返せない相手にお金は貸せない。審査能力を超えた融資の末路は、たとえば「石原銀行」を見ると明らかだ。

一方、金融政策の実行は主として日銀に委ねられており、その独立性は保たれるべきだ。だが、金融政策のあるべき姿については、民主党も明確に語るべきだ。

たとえば、日銀が総裁人事で武藤敏郎副総裁を就任させようとした際、民主党の仙谷由人議員は「日銀が低金利を続けたことで、国民の預金利子という所得を奪いつづけた責任をどう考えているのか」といって武藤氏就任に反発した。

だが、デフレの時代に政策金利を引き上げていたとしたら、日本経済はもっとひどいことになっていただろう。民主党が不景気の際に金利を上げる政策を望んでいるのだとしたら、これは危ない。

民主党に政権を渡すにあたっては、金融政策に関する素人同然の国会質問や、与党と喧嘩をするだけの議論では心もとない。民主党に金融に対する正しい認識と問題意識があることを形で示さないかぎり、政権への不安は消えない。

前述のように、現在の日本に必要なのは、外国から投資しやすい環境が経済成長にとってプラスという認識である。経済的ナショナリズムを排した経済を運営する覚悟が問われている。

しかし、その点でも民主党の政策には疑問符が付くものがある。たとえば「【参考】『経済政策』10のメニュー」の8番目に「農林漁業・農産漁村の再生」を掲げ、食料自給率を向上させるという。

だが、単純な国内保護で食料自給率を上げようとすれば、安価な輸入品が途絶えることになり、経済理論的には国民が貧しくなる。“国民の生活が第一”という のであれば、まずグローバル経済のなかで日本経済を位置づけ、国民が将来にわたり豊かに暮らすための方策を考えてほしい。

財源の心配は要らない

また、民主党の政策についてよく聞かれるのは「内容は良いが、財源をどうするのか」という点である。

小沢代表は9月8日の記者会見で「財源がないという議論は官僚の言い分そのまま。政治・行政を精査すれば財源は十分ある」と述べた。これは半ば正論でもあるし、現時点では「結果オーライ」をもたらす可能性が大きいのではないかと思う。

私は、必ずしも当面の財源に固執する必要はないと考えている。

そもそも財政とは、個々の支出に対して個々の財源を逐一結びつけなければならない類のものではない。最終的に問われるのは「お金が有効に使われているか」「国民から富を移転するに際してフェアかどうか」であり、3番目には財政収支を含めた資金繰りの問題だ。

われわれは未来永劫、財政を黒字化させなければいけないと思いがちだが、国家を大きな事業会社と見なせば、現在のファイナンス(資金調達)を考えればよい。その意味で民主党の掲げる、減税や補助金で地方の景気を良くするという「目先の」需要対策は間違っていない。

近年、自民党内で論じられてきたのは「2011年度にプライマリーバランスの黒字化をめざす」という話である。しかし端的にいって、この目標は先送りして 構わないと思う。プライマリーバランスの黒字化は2006年の「骨太の方針」に記されたものだが、当時は景気拡大局面だったし、現在のようにサブプライム 問題もなければ、資源価格の高騰も表面化していなかった。まったく異なる環境で立てた財政目標に固執するのは、賢明でない。

そもそも、現在の日本は財政再建を急がなければならない状況だろうか。私はそこに「常識の嘘」があると思う。

たとえば、現在の消費者物価指数は2.3%(今年7月、総合)の上昇だが、国債の利回りは1.4%台という低さである。金融機関も投資家も低利回りなのに 喜んで国債を求めている。つまり、日本の経済主体のポートフォリオ選択行動として、国債あるいは政府の債務は大いに選好されているということだ。素直に考 えると、政府の債務供給は過大ではなく、むしろ過小かもしれない、ということだ。

一方、生産者にとっての物価環境は「仕入れがインフレ、販売がデフレ」である。すなわち、日本は巷間いわれるようなインフレ経済ではなく、むしろデフレ的な環境にある。

経済がデフレということは、通貨(円)のモノに対する価値が高まっているということである。換言すれば、これは政府の債務に対する信認過剰の状態といえる。政府への信認が高いならば、日本の債務縮小を無理やり進める政策は、優先度が低いことになる。

むろん日本がインフレになり、金利が大きく上がった場合は、国の債務縮小が最優先課題になる。だが、いまの日本はインフレというより「デフレを抜けそこなった」状態である。

この現状認識から見て、増税による財政再建は喫緊の課題ではない。そして、財政再建を掲げた増税によって霞が関のファイナンス基盤を大きくして、既得権の拡大を望む官僚を変えるには、自民党政権を維持したままでは難しかろう。

いま多くの国民は「民主党を支持している」というより「政権交代を支持している」のだと思う。自民党政権は終わってほしいが、民主党の支持を決めたわけではない。

今回見たように、民主党の経済政策にはセンスに欠けるものも多いが、減税重視で官僚機構を縮小しようとする点は悪くない。民主党が政権を取った場合、当面 の財政赤字が拡大するかもしれないという点も含めて、自民党政権の経済政策よりもかなり良いのではないかと思われる。総合的に見て、経済政策の面からも、 筆者は1度民主党に政権を任せてもいいと考えている。




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