水曜日, 11月 21, 2007

福田首相に聞く

フィナンシャル・タイムズ

(フィナンシャル・タイムズ 2007年11月12日初出 翻訳gooニュース) FT東京支局長デビッド・ピリング

福田康夫首相は11月12日、首相官邸でフィナンシャル・タイムズの単独インタビューに応じた。以下はその一問一答 (gooニュース訳注:以下は英語記事からの翻訳です。福田首相自身が使った日本語表現ではありません)。

フィナンシャル・タイムズ(FT):
 最近の政局の動きについておうかがいする前に、今日の経済の動きに ついて質問させてください。今日、円が対ドルで110円をつけました。ずいぶん円が強くなってきています。町村内閣官房長官によると、円高は日本にとって 特に問題ではなく、むしろ「国の価値を上げることで良いこと」とおっしゃいました。首相もそう思われますか?

福田首相(以下、福田): 短期的には、円高は確かに問題となります。為替レートの急激な変化は、どういう形でも好ましくない。しかし長期的な視点に立つと、必ずしも円高に拒否反応を示すこともない。しかしこれはあくまでも、長期的な話です。

FT: でも今回の円高はかなり急激にやってきました。私が先週に日本を離れたときは対ドル115円だったのに、帰国したら110円になっていました。これは急すぎますか?

福田: はい、急すぎます。

FT: それについて、日本は何ができるでしょうか。

福田: 実際には、ただ日本経済の問題ではなく、米国経済の状況が反映されているわけです。私たちにできることは限られています。ただし、投機的な動きは抑える必要があると思います。

FT: どう抑えるのでしょうか。日本は介入に踏み切ることができますか。

福田: 私は「慎重に」と言っているのです。

FT:  しかし危機的な状況になれば、介入のおそれもあるということですか?

福田: 私が言っているのは、そういうことにならないよう、慎重に、ということです。

FT: ほかの話題に移る前に、経済についてもうひとつだけお聞かせください。ご承知の通り、米国では今サブプライ ムローン問題が起きていて、これが日本にも波及しつつあると一部で指摘されています。輸出の問題があるし、穏やかではあるけれどもデフレは続いているし、 GDP(国内総生産)の数字もあまり良くない。このサブプライム問題のせいで日本のとても長い景気拡大が打撃を受けて、拡大がついに終ってしまうかもしれ ないという懸念が、外国では起きています。その点について心配なさっていますか。

福田:
 米国や欧州ほど、サブプライム問題の影響は日本にはないだろうと考えています。もちろん、一部の企業は打撃を受けるでしょうが、全体的な影響は限定的なものにとどまると思っています。

もちろん、世界経済がこれからどう展開するだろうという疑問はあります。世界経済が下振れする可能性はもちろんあって、国際貿易と金融に日本がこれだけ深 く関わっている以上、日本が影響を受けるのは必至です。しかしほかの国と比べれば、日本への影響はそれほどひどくならないだろうと思います。

FT: それでは政治の話に移ります。先週の東京の動きを私はロンドンから見ていたのですが、周りからはさかんに 「これは昔への逆戻りなのか?」と言われました。日本は統治不可能なように見えます。このこう着状態はどうやって打開できるのでしょう? 早めに選挙に踏 み切って有権者からの支持基盤を固めるのか。衆院の3分の2議席を押さえている、その数の力を使うのか(それで法律を通していくのか)。あるいは民主党に 歩み寄って、大連立ではないにせよ、何らかの形で時には協力していくのでしょうか。

福田: ご承知の通り、衆院と参院ではねじれ現象がおきています。衆院では与党が過半数を占めるが、参院では野党が過半数です。こういう状況は私たちの予想外のことで、しかもしばらくは続く見通しです。これは戦後日本で初めてのことです。

なので私たちは今、かつてない経験をしているわけで、これからどうやって進むべきかまだ検討中」と首相はFTに語った。「連立を組む試みにはすでに失敗したので、当面できることは、個別案件ごとの政策協調くらいです」

なので私たちは今、前例のない経験をしているわけで、これからどうやって進むべきかまだ検討中です。個別の政策ごとに野党と協力することは、あり得るでしょう。いずれは、ドイツのような連立が生まれるかもしれません。

私たちはすでに一度、連立づくりに失敗しているので、当面は政策ごとの協力を模索するしか方策はない。法案ごとひとつひとつ、野党の合意をとりつけて政策を施行するのが、政権与党の役割です。

FT: 次の選挙のタイミングというのは、重要な秘密事項です。もしかしたら当の総理ご自身、まだ決めていないのか もしれません。しかし、主要8カ国(G8)の国の間には、これだけ政治が混乱している状態では、一体どの政府が来年の洞爺湖サミットを主催するのか予測も つかない、と懸念する声があがっています。洞爺湖サミットの時点でご自分がまだ政権を率いている、あるいは洞爺湖サミットが終るまで総選挙は行わないと保 証できますか? それを世界に約束できますでしょうか。

福田: ええ、かなりの確度で保証できますよ。総選挙の時期を決める権限は、私がもっているからです。言い換えると、衆院解散がない限り、G8サミットを主催するのは私たちだということです。

FT: おっしゃることはつまり、総理は早い選挙よりも遅い選挙の方がいいと考えていらっしゃると、そうはっきり示唆されたように聞こえますが。

福田: 全ては、野党がどう行動し、どう考えるかによります。もし野党が普通に行動すれば、あなたが今おっしゃったような展開になるでしょう。しかしいずれにしても、選挙がいつになろうと、私たちが勝てばいい。それが大事なポイントです。

FT: 総理は今週末にワシントンに行らっしゃいます。いざとなれば衆院の3分の2議席を使って対テロ法案を可決させる用意があると、ブッシュ大統領に言うことができますか。

福田: それは国内の政治問題なので、話題にするつもりはありません。言う必要があるのは、新法可決のために努力していくということだけでしょう。

FT: 民主党の小沢一郎代表は、日本は国際情勢に積極的な役割を果たすべきだが、それは米国流の善か悪かという枠組みによってではなく、国連の枠組みの中でやるべきだという立場です。総理はこれに共感なさいますか?

福田: 小沢さんは国連決議、あるいは国連決議に容認された活動という意味で、話をされています。これについて日本 国内ではさかんに議論されており、小沢さんの主張が大きな支持を集めているというわけでは、必ずしもない。それに、国連決議の下で果たして日本がどれだけ 活動できるのだろうか、という問題もあります。

ご承知の通り、日本には(平和)憲法がありますから、国連がどんな活動を認めたとしても、それが日本国憲法上どうか、という問題がある。また小沢さんはどうも、日本の憲法よりも国連決議が優先すると言いたいような、そんな印象を受けています。

日米安保で定められた色々な取り決めが、実際に速やかに実行できるのかという問題もあります。ですから私たちは、小沢さんが本当に何を考えているのか詳細に把握しない限り、彼の提案に同意することはできません。

FT: 今回の訪米では当然、北朝鮮について議論することになります。首相の訪米期間中にも、ブッシュ大統領が米国は北朝鮮をテロ支援国家リストから外すと言う可能性もあります。これは北朝鮮の核武装解除という大きな合意の利益を考慮して、日本が容認できることでしょうか。

福田: もちろん私たちは、米国が核武装解除を巡って北朝鮮と手緩い交渉をしているとは考えていません。北朝鮮の核 兵器は明らかに日本にとって大きな脅威であり、我々は米朝交渉の方向性を支持しています。我々はこうした交渉ができる限り完全な形で成立することを強く期 待しています。

FT: 拉致問題という観点から、日本が反対し、「交渉はやめるべきだ。我々は気に入らない」と言うことはないのでしょうか。日本が立場を後退させ、拉致問題が完全に解決されないままでも、交渉プロセスの続行を認めることはあり得ませんか。

福田: もちろん、北朝鮮の核開発計画が破棄されるのは望ましいことだし、我々は北朝鮮のミサイルの脅威が取り除か れることも非常に重視しています。そして拉致問題も解決する必要があります。我々としては、日本はこうした3つの問題をほぼ同時期に解決すべく、北朝鮮と 交渉する必要があると考えています。

FT: 選挙がいつになるかというのは極秘事項です。実際、総理ご自身もまだ分からないのかもしれません。しかし、主 要8カ国(G8)のメンバーの中には、これだけ政治が混乱する中で、一体どの政府が北海道のG8首脳会談(来年7月の洞爺湖サミット)を主催するのか分か らないという懸念があります。

あなたがその時点でまだ政権を率いている、あるいは洞爺湖サミット後まで総選挙は行わないと保証できますか?これは世界に向けて確約できることでしょうか。

福田: ええ、かなりの確度で保証できますよ。総選挙を行う権限は私にあるからです。言い換えると、衆院解散がなければ、我々がG8サミットを主催するということです。

FT: 選挙の時期は早いよりも遅い方が望ましいという、かなり強いヒントのように聞こえますが。

福田: 野党の動きと考え方次第です。もし野党が自然に振る舞えば、あなたが今おっしゃったような展開になるでしょうね。しかし、いずれにせよ、問題の核心は、選挙がいつになろうと、我々が勝てばいいということです。

FT: 総理は今週末、ワシントンを訪問されます。状況が差し迫れば、衆院の3分の2議席を使って対テロ法案を可決させるとブッシュ大統領に言うことができますか。

福田: これは国内の政治問題なので、話題にするつもりはありません。私が言わねばならないのは、我々は新法を可決するために最大限の努力をするということだけでしょう。

FT: 民主党の小沢一郎代表は、日本は国際問題に積極的な役割を果たすべきだが、それは米国の是か非かという枠組みではなく、国連の枠組みの中でやるべきだと主張しています。小沢氏のそうした立場に共感できますか。

福田: 小沢さんは国連決議、あるいは国連決議に容認された活動という観点で話されている。これについては日本で大きな議論があり、必ずしも彼の立場が大きな支持を得ているわけではありません。そして、国連決議の下で日本がどれだけの活動を行えるのか、という問題もあります。

ご承知の通り、日本には(平和)憲法がありますから、国連がどんな活動を認めようとも、それが日本国憲法にどう関係してくるかという問題がある。また、私が受けている印象では、小沢さんはどうも国連決議が日本国憲法より上であると言いたいようです。

日米安保で定められた様々な条項が実際スムーズに実行できるかどうかという問題もあります。ですから我々としては、小沢さんが本当に何を考えているのか具体的な内容が分からない限り、彼の言っていることに同意することはできません。
日米首脳会談で議論する北朝鮮問題

FT: 言うまでもなく、今回の訪米では北朝鮮について議論なさるでしょう。総理の訪米中にブッシュ大統領が、米国は 北朝鮮の「テロ支援国家」指定を解除する方向で動いていると発言する可能性もあります。北朝鮮の核武装解除という大きな合意実現のためになら、日本として も容認できることでしょうか。

福田: 北朝鮮の核武装解除について、米国が手緩い交渉をしているとはもちろん思っていません。北朝鮮の核兵器はもちろん日本にとって大きな脅威です。私たちは米朝交渉の方向性を支持しています。この交渉が、できるだけ完全な形で合意にたどりつくよう、強く期待しています。

FT: ということは、拉致問題を抱える立場から日本が米朝交渉について、「これはよくない。やめるべきだ」と反対したりしないということですか? 拉致問題への十分な対応がなくても、米朝交渉の継続を容認するということですか? 譲歩するというほどではなくても。

福田: もちろん、北朝鮮の核開発計画が廃棄されるのは望ましいことだし、北朝鮮のミサイルの脅威が排除されることも 重視しています。さらに、拉致問題は解決されなくてはならない。この3つの問題をほぼ同時に解決するためにも、日本は北朝鮮と交渉しなくてはならないと考 えています。

FT: 国内の問題に移ります。総理は小泉政権で大きな役割を果たされました。小泉時代に何が根本的に変わったとお考 えですか。そして後悔していることは何ですか。悪化したことは何だと思いますか? 総理はここ最近の演説で、小泉時代の悪影響に言及していらっしゃいま す。何が悪影響だったと考えていらっしゃるのか、そしてどうやって対処できるとお考えか、お聞きしたいです。

福田: 小泉改革と呼ばれているものは、日本でそれまで普通だった物事のやりかたを変えた。それ自体は、私はいいこと だったと思っています。当時、「官から民へ」や「中央から地方へ」というキャッチフレーズをよく聞いた。内容について言えば、方向性は間違っていなかっ た。しかし時によっては、(小泉元首相は)急ぎすぎたかもしれない、それによるマイナス影響がいくらかあったかもしれないと、私は思っているます。

日本はここ数年、大きく変化しています。人口が減っている。ご承知の通り、第2次世界大戦が終わってからの60年間、日本の人口は年々増え続けましたが、数年前にその流れが変わりました。

高齢者人口が急増する一方で、労働力人口はこれから減っていく。こうした変化に対応するために、やらなくてはならないことがたくさんあります。小泉改革は、こうした問題を念頭に行われたものです。

私たちは、いや、あなたもそうです。今生きている者は皆、環境とエネルギーの問題において、大きな変化に直面している。挑戦に打ち勝つため、私たちは自分たちを変えていかなくてはならない。そういう大きな変化が必要とされる時代に、私たちは生きているのです。

改革は進める必要がある。もしかしたら、もっと大規模な改革が必要になるかもしれません。

FT: どういう改革でしょうか。改革というのは、かなり曖昧な言葉です。具体的に何を想定されていますか。

福田: 日本人を見ると、今言ったように労働力人口が減っていきます。それはつまり、女性と高齢者を労働力人口に取り込んでいく必要があるということ。労働力が減るに従い、内需も減る恐れがある。とすると経済の規模も恐らくは縮小する。

その一方で私たちは、返済が必要な巨額の公的債務を抱えています。もし経済が縮小し続けたら、債務返済は簡単にはできなくなる。ですから私たちは経済を拡大し、国民の生活水準を向上させるという目的を維持しなくてはならない。そのためには、諸外国との絆を深めるしかない。

つまり私たちは、日本経済の国際化を今後も推進していく必要がある。これは基本的に、日本からの対外投資と、海外からの対日投資の両方をもっと促すという ことです。そして海外からの対日投資を促すためには、日本市場をもっと開かれたものにするため、大いに努力をする必要がある。大きな障害がいくつもありま す。障害を取り除くため、私たちは戦わなければなりません。

FT: 質問があと1つしかできないので、何をお聞きするのがいいか。そうですね、参院選で怒りをもって行動した有権 者をなだめるために、総理がやろうと考えていることには、お金がかかるものがあるかもしれません。そうなると、今はいったん棚上げされている、消費税の増 税問題が出てきます。数週間前と比べて野党が弱まっている今、増税への動きを加速させられるでしょうか? 必要だと考えていらっしゃる消費税引き上げにつ いて、発言しはじめられますか? タイミングの問題だと思うのです。以前よりも、議論開始を前倒しできる状態になったと思いますか?

福田: 日本国民は、消費税率引き上げの必要性を感じているし、理解しています。とは言っても、政府の無駄遣いに不満ですし、自由競争入札ではない随意契約が多すぎると不満満を抱いています。現時点で私たちが消費税の問題を持ち出したら、国民は激怒するはずです。

今しなければならないことは、まず私たちが、政府支出の削減にできる限り努力し、その後に、消費税引き上げを認めてもいいかなと国民が思ってくれる、そういう雰囲気作りを目指すことです。

そしてもう1点。高齢化社会において、社会保障に必要な出費が増え続けますから、今後どれだけの追加コストが必要になるのか計算しなければなりません。日 本国民は、個人個人が将来どれだけの社会保障を必要とするのか、議論をしなければならない。そして政府は、国民に選択肢を示す必要があります。

FT: 総理はすでに決まっていた歳出削減措置を一部撤回しました。いや、今はまだダメだとおっしゃったわけです。歳出削減策の中には、行きすぎたものもあったということですか。

福田: 政府が歳出削減を強調すると、どうしても横断的な削減案になってしまった。それを実行すると、すでに苦しんでいる人たちがいっそう苦しむことになる。なので、歳出削減には限度があると思っています。



ぼっちゃんよりは、まともでしょ?