水曜日, 2月 27, 2008

「野党ボケ」した民主党の問題は小沢氏の資質にある 【山崎元のマルチスコープ】

ダイヤモンド・オンライン

 2月24日に発表された、読売新聞の世論調査の結果が興味深い。

 この調査は、国民の政治意識に関する大規模な連続調査で、今回で4回目となる。主たるテーマは、「政治を信頼するかしないか」だ。

  調査では、「政党や政治家を信頼しない」という回答が68%に上り、「時々政権交代があったほうが良い」と答えた人が63%に上っている。なかでも注目す べきは、自民党支持者でも、政権交代を是とする回答が40%に上ったことだ。政権交代を容認する理由のトップは「腐敗が起こりにくくなる」。自民支持層に もくすぶる現政権に対する強い不満や、クリーンな政治への希求が、調査結果には顕著に現れている。

 ちなみに、政治を「信頼せず」は、世代別に見ると30代がもっとも高く、80.1%に及ぶ。この数字は、20代よりもずっと高い。ロストジェネレーションと言われる不景気で割を食った世代が、政治への不信感を根強く持っているという証だろう。

  読売新聞で上記の調査と同日に(2月16日、17日に)行われた内閣支持率調査では、支持38.7%、不支持50.8%という結果が出た。読売の調査は対 面式で、調査主体が読売新聞社なので、単なるアンケート式よりも政府の支持率は高く出る傾向にある。10%とは言わないまでも、数パーセントは他紙の調査 よりも支持率が高く出やすいのである。その読売の調査で、これだけの不支持率とは、世論的には、福田内閣は相当に追い込まれた状況にある。

◇ 道路でも年金でも鈍り続ける民主党の攻勢

 国民は、明らかに与党に対して不満を持っている。この状況は、野党第一党の民主党にとっては、非常に大きな政治的チャンスのはずだ。

  では、この与党ピンチの中で、野党が十分活躍しているかというと、答えはノーだ。このところの民主党の与党への攻撃ぶりは、メディアを通して見る限りで は、今ひとつ以下である。当初、今国会はガソリン税に焦点を絞り、民主党は暫定税率を否決することでガソリンの価格引下げに追い込む戦術を掲げていた。だ が、伊吹文明自民党幹事長のワザに簡単に屈したというべきか、つなぎ法案で腰砕けにされてしまった。

 暫定税率問題がどう決着するかはまだ決定したわけではないが、目下のところは与党と手打ちをした格好に見えており、民主党が攻勢に立っているという印象がすっかり無くなっている。これは、明らかに政治的失敗だ。

 この挫折で、まさにガソリンが切れてしまったというべきか、民主党は他の問題でも攻勢が鈍り続けている。

 年金問題は、目下、民主党が争点にすれば、自民党に間違いなく勝てるテーマだ。安倍前政権での公約では、年度末の3月までには年金記録の照合をす べて終え、宙に浮いた年金問題に決着をつけるという話になっていた。しかしそれは達成されそうにない。政府が非常に不利な状況にある中で、民主党としては ここで年金問題に世間の注意を惹きつけなければならないはずだ。しかし年金問題もギョーザの毒で印象を消されてしまったのか、現在さして話題に上らず、民 主党側からの積極的な提案も出てこない。戦術が何とも拙い。

 イージス艦「あたご」の衝突事故も、本来であれば絶好の攻撃チャンスだ。そもそも、艦の中の当時の様子がまだ報告できる状態になっていないことが 大問題だし(要は上司が状況を把握できないのか、上司自身に直接的で大きな責任があるから発表できないのか)、艦長がまだ表に出て来ないのも異様だ。もち ろん、石破防衛相に対する責任追及は大いに行われるべきだ。

◇ 日銀総裁人事でも対案を出さずに様子見

 また、日銀総裁の任命問題は、ねじれ国会の中での民主党の側からの有力な攻撃材料であったはずだった。総裁任命は国会同意人事なので、衆参両院で の承認がないと前に進まないのだから、参議院での数が生きる。しかも、武藤敏郎副総裁の就任には大いに問題がある。本来であれば民主党が強く反対し、政府 に対して対案を掲げて対決すべきなのだが、むしろ民主党内の足並みが乱れて、民主党の弱体化を招く材料に転化した感がある。

 これはどうしたことか。小沢一郎代表は武藤氏の総裁就任について、良いとも悪いとも明言しないまま、「俺に一任せよ」という態度である。だが党内 では、仙谷由人元政調会長や岡田克也元代表などから、財政金融分離の原則により、武藤氏への不支持が表明されている。さらに今回は、鳩山由紀夫幹事長から も武藤氏への疑問符がついた。鳩山幹事長は先週ラジオ番組で「武藤氏の副総裁としての5年間のパフォーマンスは必ずしも評価が高くない」と語っている。こ れは今のところあまり強調されていないが、重要なポイントだ。

 日銀の状況は、会社の人事に喩えると、現社長時代の業績が良くなかったのに、現社長を支えた副社長を漫然と後任社長に昇格させようとしているよう な様子に見える。デフレ脱却の遅れや、サブプライム問題の軽視なども含めて、金融政策のパフォーマンスは良いとは言えない。また、コンプライアンス的な観 点からは、福井俊彦現総裁は村上ファンド問題(総裁在任中の明らかな運用行為)で本来辞任していなければならない不適格者であったが、武藤氏は、彼に辞任 を勧告するような骨っぽさを見せたわけではない。

 しかし、小沢民主党代表は、自分への一任で党がまとまるのか、様子見モードに入っているように思える。一任を取り付けて「求心力」を見せたいの か、この問題への対応で党内の敵味方を判別したいのか、意図は分からないが、建設的な議論が無いままに、時間だけが過ぎていく。このままでは、時間切れを 前に総裁空席を避けるために、という理屈を味方にして、小沢氏の下で与党の提案を呑むということになりかねない。それが小沢氏のシナリオだとすればいかに も姑息だし、既に彼の党内求心力は賞味期限切れになっているということだろう。

 そして、これは、民主党の他のメンバーにもいえることだが、武藤氏の総裁就任に本気で反対するなら、今の時点で対案を出していないのは無責任だ。 政府の提案を受けてから対応を決めるという態度には、何のやる気も感じられない。結局のところ人事では官僚組織の論理を受け入れざるを得ないという諦めの 空気が、野党である民主党の中まで覆ってしまっているのだろうか。

◇ 小沢一郎という政治家はもう耐用年数切れか

 民主党の一番の問題は、やはり小沢代表の党運営であり、はっきり言うと政治家としての彼の資質だ。コミュニケーション能力が低すぎるのだ。年金に してもガソリン問題にしても、小沢氏が正面に出て話をするわけでもなければ、党内をまとめて、党として一貫したコミュニケーションが出来ている訳ではな い。不機嫌そうに後ろにいて、様子見ばかりをしている印象を受ける。

「隣の芝生は青く見える」ということもあろうが、アメリカの大統領予備選で、バラク・オバマ氏やヒラリー・クリントン氏が、コミュニケーション能 力を最大限に発揮して、お互いのビジョンを語り、相手を批判し、国民の前に身をさらしている姿と比較すると、その差はあまりに明らかだ。小沢一郎氏が、次 の総選挙で政権奪取を目指す野党のトップなのだという事実を思うと、気が遠くなるなような情けなさにおそわれる。

 厳しい言い方をすると、小沢一郎という政治家はもう耐用年数切れなのではないか。少なくとも、彼は、現代の政治家に要求される仕様を満たしていな い。昨年の辞任表明劇も合わせて考えると、コミュニケーション能力が乏しく、小心で、気に入らないと直ぐにキレる、という人物なのだから、とても国のリー ダーを担う資質はない。

 先の世論調査でも明らかなように、国民は政治の腐敗を起こさないためには政権交代も是とする気持ちなのに、それに野党が応えていない。2年前の偽メール事件の時もそうだったが、民主党は攻勢が取れてきた肝心な時に失速する癖のある困った野党だ。

 もっとも、仮に民主党が政権をとったとしても、健康状態なども考えると、小沢氏を首相にするには限界がある。政治家は引き際が肝心だ。小沢氏は、次の世代に代表職を早く引き継いで、自分は後任者をサポートする形で、野党らしく振る舞う民主党を国民に見せるべきだろう。