木曜日, 3月 13, 2008

他人事で無責任な福田首相が“日本売り”を加速させる 【週刊・上杉隆】

ダイヤモンド・オンライン

 3月6日朝、いつものように首相官邸からメールマガジンが配信された。

 小泉時代に始まったこの試みは、メディア戦術上、ある程度の成功を収めている。2代の首相を経て、読者数は減少しているものの、直接国民にかけるという当初の目的は十分に達成している。

 しかし、時にその機能が逆効果になることもある。3月6日配信のメルマガこそ、まさしくその類であろう。

〈果実を分かち合う。福田康夫です〉

 こうした出だしで始まる当該回のメルマガは、次のように続く。

〈3 月を迎え春の訪れが感じられるようになりましたが、このところ食料品などの値上げのニュースが目立ちます。みそやしょうゆ、乳製品など、いずれも毎日の食 卓に欠かせないものばかりです。昨年来、パンや食用油から、ティッシュペーパーといったものまで、実にさまざまな食料品や日用品の値段があがっています。 スナック菓子の中には、袋の内容量が減ったものもあります(中略)。

 物価が上がっても、皆さんの給与がそれ以上に増えれば、問題はありません。しかしながら、働いている皆さんの給与の平均は、ここ9年間連続で横ばい、もしくは減少を続けており、家計の負担は重くなるばかりです〉

 ここまでは異論はない。国民生活の現実に即した記述である。この内容に関する限り、国家のリーダーとしての福田首相の認識に、安心感さえ覚える。

 しかし、これ以降が拙かった。首相として、驚くべき「方針」が綴られている。最初に読んだ時は自らの目を疑い、悪い冗談かとさえ思ったほどだ。

〈日 本経済全体を見ると、ここ数年、好調な輸出などに助けられて、成長を続けています。企業部門では、不良債権などバブルの後遺症もようやく解消し、実際は、 大企業を中心として、バブル期をも上回る、これまでで最高の利益を上げるまでになっています。これらは、さまざまな構造改革の成果であり、そうした改革の 痛みに耐えてがんばった国民皆さんの努力の賜物にほかなりません。

 私は、今こそ、こうした改革の果実が、給与として、国民に、家計に還元されるべきときがやってきていると思います。

 今まさに、「春闘」の季節。給与のあり方などについて労使の話し合いが行われています。

 企業にとっても、給与を増やすことによって消費が増えれば、経済全体が拡大し、より大きな利益を上げることにもつながります。企業と家計は車の両輪。こうした給与引き上げの必要性は、経済界も同じように考えておられるはずです。政府も、経済界のトップに要請しています〉

 日本は一体いつから、社会主義国家になったのだろう。どういった権限で、政府が民間企業の経営に「命令」を出せるのか。福田首相は何か大きな勘違いをしているのではないだろうか。

 確かに、景気が低迷し、消費が伸びない理由には、原油高などによる物価の高騰がある。福田首相が指摘する給与所得の伸び悩みがあるのもその通りだ。

 だが、その民間の対策について、内閣総理大臣が口を挟むのはどうか。あまりに僭越ではないか。

 そもそも、消費の購買欲を喚起したいのならば、政府が減税政策を打ち出し、事実上の「給与引き上げ」を行えばいいだけの話である。「果実を分かち 合う」のならば、政府が率先して、富を分配すればいい。国がやるべきことを棚上げしておいて、民間にそのしわ寄せを押し付ける「方針」など、政府の責任放 棄以外の何ものでもない。

◇ いつも他人事で無責任な福田首相

 思い返せば、福田首相はいつも他人事で、無責任だ。

 たとえば、「ギョーザ事件」発生直後のぶら下がり会見では次のように発言している。

「関係省庁が原因をよく調べた上で対応すると思いますよ。(略)まぁ、輸入食品といえども、十分注意するようにと言うしかないでしょ」

  また、イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故発生直後、記者から問われた感想を問われた福田首相はこう反応している。

「おー、そうだってね。大変だ」

 それにしても、なんという他人事だろう。国民の生命、健康を預かる内閣総理大臣のコメントとしてはあまりにひど過ぎる。ある意味、今回の「春闘賃上げ発言」も、首相にしてみれば、ごく自然な感覚なのかもしれない。

 だが、こうした無責任な発言こそが、結果として、日本経済を縮小させていることに、福田首相はそろそろ気づくべきではないだろうか。

◇ 福田首相こそ景気低迷の元凶だ

 世界同時株安の際も、日本政府の方針を問われた福田首相は「様子を見て判断します」と語り、世界を唖然とさせた。そうした無責任な発言により、海外投資家が逃げ、日本売りは加速し、株式市場の低迷を余儀なくされているのだ。まさしく『エコノミスト』の特集(JAPAIN: The world's second-biggest economy is still in a funk? and politics is the problem)の通り、それは畢竟、政治の責任なのである。

 ストラテジストの中には、4月にも株価が1万円割れを起こす、と警告している者もいる。

「果実を分かち合う」といいながら、自ら分配を拒否しているのは政府自身だ。そして、恥ずかしげもなく、そのメルマガで、無責任な「方針」を打ち出す福田首相こそ、景気低迷の元凶なのだ。