火曜日, 10月 30, 2007

日本経済と小泉神話

フィナンシャル・タイムズ

(フィナンシャル・タイムズ 2007年10月17日初出 翻訳gooニュース) FT東京支局長デビッド・ピリング

東京の日興シティグループのエコノミスト、村島帰一氏はロンドンから戻って来たばかり。ロンドンはあまり楽しくなかったという。日本の国債や証券をもつ投資家たちと何度か会合した結果、村島氏はこう結論した。「日本への関心が薄れている」

関心が薄れている一因は、わくわくするとは言い難い日本の経済成長がいまだに、外需依存だからだ。しかもその外需依存は、ますます不安定さを増している。 しかしそれよりも根深く、日本経済にがっかり落胆する気分が広まっている原因は、9月の安倍政権崩壊をきっかけにした政治膠着が、そのまま政策の麻痺につながるのではないかと懸念されているからだ。

こうした懸念は、表面的にはよく理解できる。9月には与党・自民党の派閥領袖数人が集まって、自分たちで決めて、灰色スーツを着た71歳の福田康夫氏を総裁室に押し込んだ。この人選方法はまさに、小泉政権の前にさかのぼるオールドスタイルな日本そのもの。小泉元首相は国民に直接訴えかけて支持を集め、そう やって旧弊や因習を覆したものだが、今回のこれは……という不安を、多くの人が抱いたのだろう。

さらに不安なことに、福田氏というコンセンサス重視型の政治家が首相になったと時を同じくして、日本ではまさにその党内コンセンサスを飛び越えて実施され た「小泉改革」への反発が噴出している。与党は今年7月、5年間にわたる景気回復の具体的成果をほとんど得られていない、日本の最貧地域の有権者に、手痛いしっぺ返しをくらった。

2001年4月から2006年9月まで総理大臣だった小泉氏は、「改革なくして成長なし」と訴え続けて、有権者だけでなく、少なくない数の外国人投資家を 見事に説得した。小泉氏の在任期間がちょうど、日本で戦後最長の景気拡大と時期が重なったため、この成長は改革のおかげなんだろうと多くの人が考えたの だ。この単純な分析をつきつめるとつまり、改革がいま止まれば成長も止まる、ということになる。

構造改革がどういう性質のものだったか。日本経済の回復に構造改革が具体的にどういう役割を果たしたのか、それとも関係なかったのか。誤解されている部分がある。最も好意的に解釈したとしても「改革」というのはせいぜいが「良い変化」という曖昧な意味しかもたない、ある意味でいい加減な、政治家にとっては便利な言葉だ。特に、自分が施行する法律が全て好ましいものだとは限らないという事実を、はっきり認めたくない政治家にとっては、便利な言葉だ。日本では この「改革」という言葉は、「財政再建」と「規制緩和」の両方を意味してきた。それだけに、意味はますます良く分からなくなる。

小泉政権下での予算削減や規制緩和の推進はいったい、経済成長にどういう効果があったのか? ほとんど何もなかった。2001年の金融危機の最中に政権を とった小泉氏は、政府借入金を大幅削減すると約束した。しかし幸いにして、元首相はそんなことをしなかった。あの時に政府の借金を大幅に減らしていたら、 ただでさえデフレ状態にあった経済がさらにひどい景気後退に陥っていただろう。小泉氏は確かに公共事業予算を削った。また任期末期に向けては、支出全般を 抑制し、課税されていることが分かりにくい巧妙な隠れた税によって歳入を増やした。これは日本の将来の長期的な健康のためには、良いことだったかもしれな い。しかしこれらの施策が景気回復のきっかけになっただなどと主張する経済学者は、たとえいたとしても、きわめて少数派だ。

規制緩和は成長を促進させることはできる。しかし日本で行われたほとんどの規制緩和は(たとえば金融や小売り部門での緩和は)、小泉氏が首相になる前に実施されたものだ。

小泉内閣の官房長官だった福田氏は、小泉政権による規制緩和の功績について質問されると、風邪薬が薬局以外でも買えるようになったことを例として挙げた。 確かにこの措置は、ハンカチとティッシュを手放せないあまたのサラリーマン諸氏にとってきわめて便利な、津々浦々まであまねく影響力をもつものだったかも しれない。しかし、これが経済成長の根源だったとはほとんど誰も言わないだろう。

小泉政権の下で日本経済が回復した、その本当のカギとなったのは、輸出業に恩恵となった中国の好景気と、金融機関の建て直し成功だ。円安基調を維持するた めに金融当局が行ったすさまじい為替介入によって、輸出業はさらに助けられた。しかしさすがに、いくら日本で「改革」論争がごちゃごちゃに混乱しまくった とはいえ、この為替介入を「改革」に分類する人は誰もいなかった。

小泉改革の中で、最大かつ本物の改革だったのは、郵政民営化だ。これは小泉氏が辞任した1年後にならないと始まらなかったし、完成するには 2017年までかかる。しかし外国人投資家は2005年末の時点で早くも、郵政民営化を理由に日本の株式を買いまくった。おかげで当時の株価は一気に 40%近く高騰したのだ。

リーマン・ブラザーズは最近、こういうコメントを書いている。「小泉時代、興奮や派手なレトリックはともかくとして、構造改革のペースはとりたてて速くはならなかった」

そもそも小泉氏が、めくるめく新世界を実現できなかったのだ。小泉時代の財産を福田首相が全部なかったことにしてしまうのでは? などと心配するのは的外れだ。

財政面でいえば、よくも悪くも新首相は、赤字削減を大事なテーマとして抱えているようだ。辛い目に遭っている農村部に国家予算をつぎ込むべきだという圧力が、政治的にはあるのかもしれない。しかし福田氏は、公共事業拡大を否定し、2011年度にプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化させるという (達成可能な)政府目標を改めて表明している。そしてこれまでのどの前任者よりも、消費税引き上げ議論に積極的なように見える。

規制緩和については確かに、野党が参議院をコントロールしている限り、大した前進は期待できなさそうだ。もしも農産品関税引き下げや外国人労働者の規制緩 和を期待している人がいるなら、考え直した方がいい。とは言えそもそもからして、これといってろくに何も起きていなかったのだ。すでに実現したものを新政権がむやみに解体してしまうなどというおそれは、ほとんどない。コンビニやスーパーから総合感冒薬を撤去しろ、などと言い出す政治家は、今のところはまだいないのだし。

日本に関しては、確かに心配に値する材料が色々ある。たとえば給与水準が伸び悩んでいることとか、消費需要がなかなか活気づかないとか。しかしながら、福田氏が小泉氏の改革マニュアルを破り捨ててしまうかもしれない、などという心配は無用の長物だ。



よく分析してるよね。
小泉さんが、結果なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんにもしてないことを、よく分かってらっしゃる。
マネーゲーム冗長させたことを、功績と呼ぶなら呼べばイイだけのことで、実態経済が上向いていたなんて話は、嘘っぱちでしかない。
それでも、郵政民営化に踊らされたツケは、じわじわと国民にしわ寄せてくるだろうね。

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