日曜日, 11月 23, 2008

NBOnline 竹中平蔵特別ゼミナール

ニューディールを求める米国人?! そりゃ言い過ぎだね。 オバマは社会主義者でもないし、共和党支持層は、未だに大きな政府は不要としてる....。
ただ、フリードマンの新自由主義の行き着いた先が、今回の世界的な経済危機じゃないのかなぁ?というのは、誰でも行き着く感慨だよね。 だとすると、持論を押し付け過ぎるのも、どーかと思う。
ちなみに、日本の経済的基盤を作ろうと足掻いたこの人は、現在の日本をどう評価してるのか?


1時限目 世界金融危機とその影響

◇ 他人事でない日本の企業と家計

竹中氏 : それでは、「世界金融危機」の緊急講義を始めます。まず意見を聞きましょうか。今回の危機をどう見ていますか。

生徒 : 正直、どうして大騒ぎをしているのか分かりません。米国の金融機関の問題ではないのですか。

竹中氏 : とんでもない。日本経済にとって非常に大きな問題です。10月に世界で一斉に株価が急落しましたね。あの時、日本の株価下落率は主要国の中で最も大きく、危機の震源地である米国も上回りました。投資家が日本の経済の先行きを最も深刻に見ているからでしょう。

 一般には、金融危機で経済に深手を負った米国や欧州に比べれば、日本の経済は傷が浅いと思われていますね。しかし現実には、日本のファンダメンタルズ (経済成長や物価など経済の基礎的条件)は決して強くない。少なくとも、投資家はそう見ているはずです。でなければ、こんなに日本の株価が下がるはずがあ りません。

 日本では昨年まで景気が良かったと言われていますね。一方、米国では昨年夏に金融危機の発端となったサブプライム問題が起きました。ところが、昨 年1年間の両国の株価上昇率を比較すると、米国のプラス6%に対し、日本はマイナス11%。日本では景気が良かったのに、株価が下がりました。日本の経済 成長に対する投資家の期待がいかに低いかが分かるでしょう。

 そして、そうした日本経済の期待成長率を押し下げている要因の1つが行政の規制強化です。

 とりわけ金融機関に対する規制強化は経済にマイナスに働きます。コンプライアンス(法令順守)を重視するあまり、金融機関の融資姿勢が萎縮している。中小企業に対する金融機関の「貸し渋り」や「貸しはがし」が起きているのは、それが大きな要因だとも言われています。

 しかも、日本の金融機関の中にもサブプライム問題で損失を出しているところもありますから、今後はさらにそうした動きが広がっていく可能性があります。 中小企業の場合、事業資金を金融機関からの借り入れで賄っているところが多いので、資金のやり繰りに行き詰まり、経営が立ち行かなくなるところも出てくる かもしれません。

◇ 輸出の減少で景気が悪化

 加えて、金融危機の影響で米国や欧州の景気が確実に悪くなりますから、日本企業の欧米向けの輸出もかなり減ります。

 そもそも昨年まで日本の景気が良かったのは、欧米や中国など新興国への輸出が好調だったからです。製造業を中心にして日本企業の業績が大幅に伸びました。

 しかし、金融危機で欧米などの景気が悪くなれば、日本製品は以前ほど海外で売れなくなり、日本企業の業績は悪化します。

 ひいてはそれが従業員の賃金を圧迫します。新規採用を抑えたり、従業員を減らしたりする動きも出てくるかもしれません。そうなると、多くの人が買い物などの消費を手控えるようになります。国内でも以前よりモノが売れなくなるわけです。

 この厳しい状況を打開するためには、経済構造の改革が必要でしょう。ところが、今の政治は改革を先送りして、景気対策の名の下に財政のバラマキだ けをしているようにも見えます。それでは、財政赤字が膨らむだけで、経済の期待成長率は向上しません。投資家が日本の将来に不安を感じるのも当然でしょ う。だから、日本株が売られる。この政治不信こそ「日本売り」の最大の理由なのかもしれません。

生徒 : 先生。今は「世界大恐慌」に近いのですか。

竹中氏 : いや、その見方は行き過ぎでしょう。世界大恐慌の時には、例えば米国の失業率は20%を優に超えていました。今の米国の失業率は6%を超えたところです。「恐慌」と言える状況ではありません。

 そもそも経済は必ず変動するものなんです。好況もあれば不況もある。今回の金融危機はそうした波動の中の非常に大きな波の1つでしょう。とはいえ、危機の終息までには、まだかなりの時間がかかると思います。

2時限目 サブプライムローンの仕組み

◇ 証券化でリスクの所在があいまいに

竹中氏 : 2時限目は、金融危機の引き金となったサブプライムローンとその証券化について説明します。

 サブプライムローンとは、信用力の低い人に対する住宅融資です。過去に借金を返済できなかった人や所得の低い人が住宅を購入する際に、金融機関から借りたものです。

 普通、金融機関はこうした人にはお金を貸したがりません。貸し倒れのリスク(危険性)が高いからです。ところが、米国で証券化の技術と市場が発達したこ とで、金融機関がそうした人にお金を貸しても、利益を上げられるようになりました。そこで、サブプライムローンが急速に広まっていったのです。

生徒 : 先生。証券化と聞くと、マネーゲームを連想します。証券化自体に問題があるのではないですか。

竹中氏 : 確かに日本ではそうした議論が多いけど、海外ではそんな話を聞いたことがありません。例えば株価が乱高下するからといって株式会社や株式市場の制度そのものを否定するような議論は起きないでしょう。証券化についても同じです。

 もし「証券化が良いか悪いか」と問われれば、迷わず「良い」と答えます。証券化によって企業の資金調達が容易になり、事業を拡大できるチャンスが広がるからです。企業は資金を金融機関から借り、一方でその金融機関は、投資家から資金を集めることができます。こうして企業活動が活発になれば、経済全体にもプラスになります。

◇ 安全で儲かる投資対象?

 では、そもそも証券化とはいかなるものなのか。「住宅ローンの証券化」で考えてみましょう。

 通常、貸し手である金融機関は、借り手である個人からローン(元本と金利)の返済を受けますね。この金融機関がローンの返済を受ける権利を「債権」と言 います。ここで金融機関がローンを証券化するというのは、金融機関が持つ「ローン債権」を投資家に売却することを言います。

 大まかに言えば、仕組みはこうです。金融機関は複数のローン債権を束ねたり分割したりして作った「ローン証券」を投資家に売却します。金融機関は以後も借り手からローンの返済を受け取りますが、実際の返済の受け取り手はローン証券の所有者である投資家になるんです。

 こうした証券化は金融機関にとってメリットがあります。投資家にローン債権を売却すれば、その時点で融資額(元本)を回収できるからです。つま り、貸し倒れのリスクがなくなるわけです。信用力の低い人に融資をする場合には、なおさらそのメリットは大きい。だからこそ、証券化を活用したサブプライ ムローンが広まっていったわけです。

 投資家にもサブプライムローン証券を購入するメリットはありました。もともと金融機関にとってサブプライムローンは貸し倒れリスクの高い人を対象とした融資だったので、融資条件には通常より高い金利を設定していました。投資家にはその高い金利が魅力的だったわけです。

 また、証券化商品の貸し倒れリスクを第三者として評価するスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)やムーディーズといった米国の格付け機関が、サブプライムローン証券の安全性を高く評価したことも、投資家に安心感を与えました。

 結局、サブプライムローン証券は、利回りが高いことに加え、格付け機関の“お墨付き”もあったことから、投資家には「安全で儲かる投資対象」に見えたのです。

生徒 : 世の中に、そんなに「うまい話」があるわけがありません。

竹中氏 : その通り。サブプライムローン自体は悪くはない。しかし、問題点はあったんです。例えば、証券のリスクに関する情報開示や情報管理の在り方が適切だったのかどうか。また、格付け機関の評価はどのように行われていたのか。反省すべき点はほかにもいろいろあります。とはいえ、今後、証券化がなくなることはありません。大事な点は、問題が起きたら、そこから何を学び、何を修正するかということです。

3時限目 金融危機に至る経路

◇ 金融機関同士の不信増幅

竹中氏 : 今回は、サブプライムローン証券が不良債権化して、金融危機が起きるまでの経緯をたどり、その問題点を浮き彫りにします。

 発端は、米国で上昇を続けてきた住宅価格が下落に転じたことです。というのも、サブプライムローンやその証券化は、住宅価格が上がり続けることを前提にしたシステムだったんです。

 サブプライムローンは貸し倒れリスクが高いことから、高い金利が設定されていました。なのに、なぜ低所得者層はそのローンを利用したのでしょうか。

生徒 : はい。家が欲しいあまり、無理をしたのではないでしょうか。

竹中氏 : 残念。正解は、住宅価格が上がり続けていたからです。住宅価格が上がれば、その担保価値も上がります。担保価値が上がるということは、所有者の信用力も高 まることを意味します。信用力が増せば、低金利の有利な条件の融資に借り換えができるようになります。そうなれば、サブプライムローンの返済期間を短縮で きます。

 しかも、サブプライムローンには多くの場合、返済上の優遇措置があり、最初の2年間は少ない支払いで済むようになっていました。その間に住宅価格 が上がり有利な条件の融資に借り換えられれば本来の重い金利負担を避けることができます。ですから、住宅価格が上がり続けているうちは、低所得者層も高金 利のローンを利用できました。

◇ 貸し倒れ急増で不良債権化

 これまで経済的な理由で家を持てなかった人たちが続々と住宅を購入し始めたことから、住宅価格はみるみる上がっていきました。そして、バブルの様相を呈するようになりました。

 ですが、そういう人たちの数にも限りがあります。しかも、住宅は短期間で頻繁に買い替えるものではない。新規取得の動きが落ち着くと、需要の減退に伴って価格が下がり始めました。

 住宅価格が下がれば、担保価値も下がるわけですから、サブプライムローン利用者は有利な条件の融資に借り換えられなくなります。そうなれば、本来の高金 利で借金を返済しなければなりません。過重な支払い負担に耐えかねて、ローンの返済を途中で放棄する人たちが出てきました。

 その後の住宅価格の続落に伴って、こうしたローン利用者のデフォルト(債務不履行)の動きが広がっていきました。同時に、その担保である住宅にも 「含み損」が発生しました。すなわち、担保である住宅を売却しても、融資額に見合う資金を回収できなくなったのです。こうして、サブプライムローン証券は どんどん不良債権化していきました。

生徒 : 格付け機関は証券に高い格付けを与えました。

竹中氏 : そう。実は、事態を深刻にしたのが、サブプライムローン証券が高度で複雑な仕組みで作られていたことです。例えば、1つの証券を切り刻んで別の証券に仕立てたりしていました。そうなると、投資家が証券のリスクを見極めることは困難です。そこで、彼らが頼ったのが格付け機関でした。

 ところが、格付け機関は住宅バブルが弾けるまでサブプライムローン証券の安全性を高く評価していました。つまり、個々の住宅ローンのリスクは高くても、それが一気に表面化する可能性は小さいため、それを束ねたサブプライムローン証券の安全性は高い、という理由です。

 結果的には、格付け機関も証券のリスクを見極めることができなかった。マーケットは動揺しました。「サブプライムローン証券の本当の価値はいくらなのか」と、誰もが疑心暗鬼に陥りました。新たな買い手も現れず、ついにはマーケットで値がつかない異常事態が発生しました。

 そして、そのことがサブプライムローン証券を大量に抱える金融機関の経営を圧迫しました。金融機関同士も互いの経営状況に不安を抱き、日常業務に 必要な資金を融通し合わなくなりました。結果、金融機関の中には、資金繰りに行き詰まって経営破たんするところも出てきた。こうして金融危機が起きたんで す。

4時限目 市場の失敗

◇ 誰も制御できなかったバブル

生徒 : 先生、前回の講義を聞いて、金融機関の認識の甘さが目につきました。サブプライム問題の本質はそこにあったのですか?

竹中氏 : その通り。問題の本質は、一義的には金融機関の経営の失敗、そして投資家の投資の失敗です。

 その失敗の原因は、まず「米国の住宅価格は上がり続ける」という錯誤があったことです。確かに、第2次世界大戦後の米国では住宅価格が一貫して上昇基調 にありました。「だから、今後もそうなるだろう」と安易に考えてしまった。そして、その安易な想定に基づいて、これまた安易な投資をしてしまった。

 実は、サブプライムローン証券については、投資に必要な情報が十分にそろっていなかったうえに、リスク分析も十分になされていませんでした。本来 なら投資に慎重でなければならないのに、先ほどの安易な発想に加え、格付け機関の評価に安易に頼り、それを妄信してしまった。これが2つ目の失敗です。

 格付け機関の評価が間違っていたことは、2時限目で話しましたね。そもそも格付け機関がそれほど信頼できるものかどうかは、金融関係者はよく分かっていたはずです。1997年のアジア通貨危機をはじめ、この10年ほどの間に彼らの評価が外れたことは珍しくありません。

 さらに言えば、いったい格付け機関ではどんな資格を持った人たちが格付けをしているのか。サブプライムローンを作った人たちに対抗できるほどの高度な金融工学を身に付けているのか。そうした疑問もわいてくるし、そもそも情報が十分に開示されているとは言えませんね。

 要するに、サブプライム問題では、格付け機関を含む金融関係者が一様に安易なことをしたわけです。サブプライムローンの証券化という新しい金融手 法が入ってきたにもかかわらず、金融関係者がうまくコントロールできずよく分からないまま、皆がそれにのめりこんでしまったということです。そして、それ こそが問題の本質なのです。

生徒 : 先生、そもそもバブルは防げないのでしょうか。

◇ バブル発生を防ぐのは困難

竹中氏 : バブルの発生と崩壊は、いわゆる「市場の失敗」による現象です。残念ながら、市場は必ず失敗するものなんです。歴史を振り返れば明らかなように、洋の東西を問わず、市場では何度もバブルを繰り返しています。バブルが「熱狂」や「錯誤」といった人間の本性に根差した現象である以上、ある意味その発生と崩壊は避けられないのかもしれません。

 実際、サブプライム問題による経営悪化で引責辞任に追い込まれた大手金融機関シティグループの元CEO(最高経営責任者)、チャック・プリンス氏が有名 な言葉を残しています。「危険なことはある程度は分かっていたが、音楽が鳴っている間はダンスをやめられなかった」と。これがバブルの本質です。

 今回の住宅バブルについては、もしかしたら金融当局が「住宅価格が上がり過ぎている」と警鐘を鳴らす必要があったのかもしれません。ただ当局といえども、バブルを完ぺきに予見できるかどうかというと、そこは現実にはなかなか難しいでしょうね。

 「資産価格の変動と金融政策の対応」というテーマは、古くて新しい問題なんです。経済学者の主流的な考え方はこうです。「金融政策で資産バブルの 発生を防ぐのは難しい。だから、バブル崩壊後の対応が重要だ」。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備理事会)のグリーンスパン前議長や、後任となった バーナンキ現議長も、この考え方だと思います。

 事実、ITバブル崩壊後、グリーンスパンは利下げを迅速に繰り返すなど金融緩和策を果敢に実行し、バブル崩壊の影響を軽微にとどめました。そして、バーナンキもそれ以上の迅速さで同様の政策を敢行しました。

 なのに、深刻な金融危機に陥ってしまったのはなぜか。次の最終講義では、90年代の日本の不良債権処理問題と比較しながら、金融危機がここまで深刻になった理由を説明しましょう。

5時限目 危機終息のための手立て

◇ 「政治の失敗」克服が決め手

竹中氏 : いよいよ、最終講義です。今回は、危機終息のための手立てを説明しましょう。

生徒 : 先生、それは分かります。マスメディアが言っていますよ。「1990年代の日本の公的資金活用の経験を生かせ」と。

竹中氏 : いやいや、その考えは間違っています。実は、90年代の日本の公的資金活用は失敗事例なんです。まずは、その理由を説明しましょう。

 日本では、80年代後半に起きた株式・不動産バブルが90年頃に弾け、銀行が膨大な不良債権を抱え込みました。そこで、政府は98年と99年に公的資金(税金)を使って銀行に出資する「資本注入」を行いました。

 90年代の日本の経験とは、この2度の資本注入を言います。

 ところが、それでも金融不安は収まりませんでした。各行がどれだけ不良債権を抱えているか正確な情報が明らかになっていなかったからです。マーケットは疑心暗鬼に陥り、銀行の経営不安がくすぶり続けました。

 2001年に発足した小泉政権は、まず銀行が抱える不良債権の正確な把握に取り組みました。これを「銀行の資産査定」と言います。政府が不良債権の規模 や中身を把握し、そのうえで公的資金を使い銀行から不良債権を買い取ったり、銀行に資本注入したりしたんです。ここで再び資本注入を行ったのは、不良債権 処理に伴って銀行が抱えた多額の損失を穴埋めする必要があったからです。そして03年、りそな銀行に2兆円出資する資本注入によって、ようやく金融不安が 沈静化に向かいました。

 つまり、90年代の日本のように、政府が銀行の不良債権の内容を正確に把握しないで、やみくもに公的資金を使って銀行に資本注入したとしても、金融不安は解消できないわけです。

◇ 「信認危機」で事態深刻化

生徒 : 先生。米国も資本注入しますが、危機が終息しないのは、同じ理由からですか。

竹中氏 : いや、むしろ「政治の失敗」と言えるでしょうね。日本でもそうでしたが、米国でも公的資金活用に対する国民の拒否反応は強いので、政治家はそれに賛成しづ らい。だからこそ、米国政府が最初に議会に提示した公的資金で金融機関の問題資産を買い取る金融安定化法案を下院が否決してしまった。これがマーケットに 衝撃を与え、金融危機が一気に深刻化しました。10月上旬の世界的な株価暴落は、まさしく下院の法案否決の後でした。事態は「信認危機」へと急転したんで す。

 現在、金融機関が抱える問題資産の多くはマーケットで値がつかないため、その価値はゼロに近い。市場が機能不全に陥っているわけですから、政府がそうした問題資産を買い取ることが期待されたわけです。

 そして、そのためには政府が証券の適正な価値を算定する必要がありますが、これが技術的に大変難しく、作業にかなりの時間がかかる見通しです。さらに、その後の政府による証券の買い取りや資本注入の際にも、様々な問題が生じる可能性があります。

 不良債権問題を解決するためには、越えなければならないハードルがいくつもあり、その道のりは遠いんです。米国の金融安定化法は、その入り口に過ぎません。

 ところが、その入り口でつまずいてしまったので、米国への信認が一気に揺らぎました。マーケットは米国の問題解決能力に疑念を抱くようになったのです。これが信認危機です。

 その後、上下両院で金融安定化法案の修正案が可決されましたが、米国への信認が回復したとは言えません。そのことが4時限目の講義で話したFRBの金融政策の効力をそいでいる理由なんです。

 つまり、今回の金融危機では「市場の失敗」に「政治の失敗」が重なって事態が深刻化したわけです。そこにマクロ経済の悪化、つまり住宅価格が下がったことで資産が目減りし、消費が落ち込んで経済全体が悪くなるといった要因が重なって世界の株価が下落しました。危機終息への道のりは平たんなものではありません。

放課後 今だから言えること…

私が考える信認危機の本質

生徒 : 先生、ありがとうございました。講義でも伺ったのですが、1990年代の日本の危機と現在の米国の危機は異質だったということですか?

竹中氏 : う~ん、いいポイントだね。結論から言えば本質は違っていた。日本の危機は銀行が不良資産を抱え込んだ「バンキング・クライシス」だったんだ。これに対して、米国の危機はもともと、銀行以外の金融機関を巻き込んだ「マネー・マーケット・クライシス」だったんだね。

 もちろん、米国の銀行も住宅ローンを貸していたよ。でも、それを証券化してリスクを切り離していた。その意味では、日本の危機と違って、銀行の巻き込まれ方は少なかった。だから、本来なら社会全体への直接の損害は小さかったはずなんだ。

 ところが、「政治の失敗」によって底の抜けたような「コンフィデンス・クライシス(信認危機)」が起きてしまった。結局、両国の危機を比較すると、当初は違うものだったけれど、信認危機が起きたという意味で、結果は似た形になってしまったということかな。

生徒 : 政治の役割が重要なんですね。

竹中氏 : そう。今回の危機によって、世界経済の様々な問題が一気に顕在化する「ティッピング・ポイント(沸騰点)」が到来したからね。

 こういう危機の時こそ、政治の強いリーダーシップが必要なんだ。政府は「非常事態」という認識の下で、なりふり構わず事態に当たらなければいけない。マーケットがそれで「大丈夫」と思えば、信認危機は収まり、通常の金融問題になるはずだよ。

生徒 : 今回の危機の原因として「グローバル化」を挙げる人もいます。

竹中氏 : いや。最大の問題は、2000年以降の世界的な資金の流れの変化だろうな。つまり、世界中の資金が米国に集まるような仕組みになったということだよ。

 ちまたでは「米国が戦略的にウォール街に資金を集めた」という陰謀説まであるようだけど、違うんじゃないかな。やはり米国経済が90年代に躍進した結果、米国の期待成長率が高まって、そういう現象が起きたんだと思う。

生徒 : 今回の危機で「投資銀行の終焉(しゅうえん)」を唱える人もいますね。

竹中氏 : それもおかしい。投資銀行というのは、要はブローカーだからね。極論すれば、1人でもできる。だから、今後も小規模な投資銀行が出てきても、不思議じゃない。

◇ 金融機能強化法復活の裏側

生徒 : 最近の日本のニュースで気になることがあります。金融機能強化法です。公的資金で地方銀行などに資本を注入できるようにする法律だそうですね。でも、どうして今年3月末で期限が切れた法律を復活させるんですか。

竹中氏 : 今、ものすごくこっけいなことが起きているんだよ。与野党とも、景気対策として金融機能強化法を復活させると言っているけど、そもそもこれは、僕が小泉内 閣の金融担当大臣の時に、その任期の最後に政治家の大反対を押し切って通した法律なんだ。それこそ、当時は与野党いずれも大反対だった。ところが今、その 反対した人たちがこぞって「法案復活」と言っているわけ。

 でも、これが政治。そして、その「政治の無理解」がどれだけ金融問題の足かせになるか。実は、不良債権処理や金融再生のロジックは、さほど難しくはない。問題は、政治とのバトルなんだよ。

生徒 : 金融庁は、資本注入の際に地銀などの再編を促さないんですか。

竹中氏 : 恐らく金融庁は「金融業界をこうしていこう」というような積極的な考え方はまだ持ってないだろうね。“個別療法”で対応していくんじゃないかな。良く言えば、ケース・バイ・ケース。悪く言えば、場当たり。

 そもそも官僚はそんな大きな構想を持てないと思うよ。そんな大きな責任を背負っていないからね。やはり首相や金融担当大臣が抱く構想の問題じゃないかな。


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