日曜日, 11月 30, 2008

竹中氏、日本が落ちぶれた理由は....

竹中平蔵 特別インタビュー
ダイヤモンド・オンライン 2008年11月22日(土)09:15
◇ 「麻生政権は評価できないほど無茶苦茶」

竹中平蔵・慶應義塾大学教授を中心とした改革派エコノミストの集団である「チーム・ポリシーウォッチ」は、2年前から活動を行っているが、改革の後退、政策 の偏向、それに伴う経済の悪化という現実を踏まえ、サイトを全面的にリニューアルして情報提供を強化した。そこで今回はポリシーウォッチの代表であり筆者 の元上司でもある竹中教授に、今の日本について率直に語ってもらった。正しい現状認識のための一助としてお読みいただければ幸いである(聞き手・岸博 幸)。


―日本経済の現状をどう見ていますか?
  日本経済は明らかにすごく悪くなっている。政府の調査の中で、経済の実態判断のために一番信頼できるのは景気ウォッチャー調査であるが、11月に公表され た最新の結果は、同調査の開始以来最も悪い数字になっている。これが事態の深刻さを表しているのではないか。日本経済は土砂降りに近い状況になっている。

―そこまでの危機感があるかは別にして、麻生政権は経済対策を発表しています。特に定額給付金については様々な批判が巻き起こっていますが、どう評価していますか?
  政策論の観点から考えると、ワイドショー的な次元以外でも問題が多いことが分かる。第一に、そもそもこの話は減税から始まった。税金を払っている人を対象 に、税金を安くするということである。それが、いつどのような理屈で定額の給付金に変わったのかについて全く説明がない。
 第二に、そもそも
定額給付金はマクロ経済政策なのか、貧困対策なのか。その意味付けによって政策の実行方法も変わってくるはずなのに、政策としての性格についての説明が全然ない。
また、もしマクロ経済対策を意識している場合、以前の地域振興券で配った金額の1/3しか消費に回らなかったという教訓をどう活かし、どう変えようとして いるのか。この点についても説明が全然ない。政策としてのそもそも論について何も説明がなされてないのは最大の問題である。
 第三に、どう実施するかという制度・体制の問題がある。地方に色んなことが丸投げされ、高額所得者への給付の是非が問題になっているが、マクロ経 済対策であるにせよ、貧困者に対する所得再配分の政策であるにせよ、どちらにしても国の政策である。国の政策である以上、国が制度設計しなくてはならな い。それを地方分権だから地方に任せるというのであるならば、財源2兆円そのものを税源移譲して地方に使い方は任せる方が、よっぽど筋が通っている。  ついでに言えば、この財源をどこから確保するのか。たぶん一部なりとも埋蔵金を使うはずである。としたら、経済財政政策担当大臣はこの前まで「埋蔵金はない」と言っていたのだから、どこで変わったのか、あるとすれば幾らあるのか、全て説明する責任があるのではないか。

―定額給付金の話
を離れて、麻生政権の経済対策についてはどのように評価しているのでしょうか?
 政策を作る際は、“what is the problem”(何が問題なのか)をまず明確にしなければならない。なぜ景気が悪いのか。一時的な理由で需要が不足しているのか、それ以外の理由があるのか。その“what is the problem”が見えない。
 今の景気悪化の要因は3つある。第一に、改革が止まって成長期待が低下し、消費と投資が下方修正される過程で不況になり、経済に勢いがなくなって いる。第二にコンプラ不況。政府のとんでもない規制で民間を縛り始めた。第三に金融がまた悪くなってきた。これが”problem”であり、それに対応し た”solution”があるべきなのに、”problem”が明確でないから思いつきの政策になっている。
 本来はこれら3つの問題に対応する対策を講じなければならない。改革については、羽田空港拡張などのナショナルプロジェクトを実施すべきである。 コンプラ不況への対応のため、消費者庁を設立するならばその中に規制見直しのための部署を作るべきである。金融については、銀行の預貸率引き上げを金融政 策、銀行行政の目的にすべきである。この3つの政策をやれば景気の状況は変わる。2兆円の定額給付金など止めて羽田拡張など別のところに使うべきだ。―それでは、麻生政権をどう評価していますか?
 評価できない位に無茶苦茶であり、評価しようがない。“problem”も“solution”もなくて、それについてのaccountability(説明)もないのだから、
よく国会もメディアも状況を放置しているなという気がする。
 2005年の総選挙のとき、当時の小泉政権は構造改革をすると言った。しかし、今は改革しない政権なのだから、本来はそれで良いのかを国民に聞く べきである。それが民主主義の大前提ではないか。総理が何人続いているからというのではなく、前の選挙のときとは違う政策をやっているんだから、選挙で問 うべき。これが本質的な問題ではないか。

―3年後の日本はどうなっていると思いますか?
 そのときのリーダー次第ではないだろうか。それは、国民というのはリーダー次第だと思うからだ。
 よく“政治家は国民の声を聞かないといけない”と言われるが、それは違う。国民はリーダーによって変わる。国民は、“それはこうじゃないか”とい うリーダーが出てくることで変わるのである。小泉政権誕生のときを思い出してほしい。2001年の時点で国民が急に変わったのではなく、小泉総理という ちゃんとしたことを言うリーダーが出て来た。ちゃんとしたこと言う総理が出れば、国民は理解力があるから、“ああ、そうだな”ということになる。
 国民はすごく実利的だと思う。“この人はばらまいてくれそうだ”というリーダーが現れると、みんな手を出す。逆に、“この人は絶対ばらまいてくれない、厳しい”と思う人がリーダーになると、自分でしっかりやるようになる。それが民主主義における国民ではないだろうか。
ダイヤモンド・オンライン 2008年11月29日(土)09:15
◇ 「日本が落ちぶれた本当の理由を語ろう」【岸博幸コラム】

前回に 続き、竹中平蔵・慶應義塾大学教授へのインタビューをお届けする。今回のテーマは、低下し続ける世界の中の日本の存在感。竹中教授は、政治の迷走もさるこ とながら、日本人一人一人の力が落ちてきていると警鐘を鳴らす。今回は、前回以上に公の場で言わないような発言がたくさんあるので、是非ご一読されたい (聞き手・岸博幸)。

―竹中教授は様々な国際会議で世界のリーダー達と意見交換していますが、金融危機を経て、彼らの最大の問題意識は何だと感じていますか。
 何層もあると思うが、最大の問題意識は、新たな世界の秩序をどう作っていくかということではないだろうか。
 G20などの場でも議論されるが、今の国際機関や国の枠組みでは限界が来ている。自分の国に有利になる形に持って行きながら、どのような世界秩序を確立できるか。それを5年、10年かけてやっていくというのが、一番高いレベルでのリーダーの関心事だと思う。
 次にリーダー達の関心事となっているのは、世界が進まなくてはならない方向と国内のポピュリズムの間での対立の激化である。
 どの国も、グローバル化の中で競争力を発揮して勝てるようにしようと努力している。その結果として国内で保護を受けている人々の既得権益が浸食される場合、ある程度ポピュリスト的な対応を取らないと政権が生き残れない。
 このような構図の下で、頑張っている政権ほど国内的には苦しい。例えば、サルコジが“強いフランスを作る”と言って頑張ると国内の人気ががーっと下がった。世界のリーダー達はそうした葛藤と困難に直面している。

―世界のリーダー達の間で、日本は存在感を発揮できているのでしょうか。
 はっきり言って、世界のリーダーの間で日本の存在感はすごく乏しい。日本が何をやろうとしているのかよく見えないのだから、当然だ。小泉政権が終わってから、日本はこういう方向に向かっているというメッセージがなくなった。
 加えて、改革が大きく後退して経済も悪くなっているので、経済が強いという意味での存在感もなくなった。実際に、今年の日本の株価の下落率は米国より大きい。この二つの意味で、日本の存在感はなくなってきた。
 ロンドンのエコノミスト誌が“Japain”――Japan(日本)とPain(痛み)を一緒にした造語――という日本批判の記事を出したのも、一体日本はどうするつもりだ、GDP世界第2位なのだからちゃんとやれよ、という世界からの厳しいメッセージだったと思う。

―なぜ日本はそこまで落ちぶれてしまったのでしょうか。
 日本の国益は何かという議論がしっかりと行われていないからだ。国会でもそうした議論は一切ない。麻生総理は、“不良債権処理の経験を教えてやる とかピントのずれたことを言ってG20に行ったが、そもそも日本としてG20の場で何を確保したいのか、どう持って行きたいかが全く見えない。
 アジアの中での日本の影響力を確保することを狙って、アジアワイドでの新たな組織を作るといったことを提案の軸にすべきだった。日本は、米国や欧州とは違う第三の途を行くことが大事である。

―来年1月にダボス会議が開催され、そこで世界レベルでの来年のアジェンダが設定されるでしょうが、ダボス会議のメインテーマはどうなると思いますか。
 おそらく3つのテーマが同時に出てくるのではないだろうか。第一に、金融の混乱をどうするのか。
 第二に、マクロ経済が悪くなり世界不況になっているから、不況対策をどうするのかというかなり具体的な話。
 第三に、金融を中心とした世界のシステムそのものが制度疲労を起こしていることから、新たな制度設計をどうやっていくのかという中長期課題も議論 されなければならない。この3つのどれが突出するというのではなく、3つのテーマが同時に議論されていかざるを得ないのではないか。

―それでは、今の日本の一番本質的な問題点は何だと思いますか。
 日本人一人一人の力が落ちているということである。力が落ちているからこそ、非常に安易に国に頼るグループがたくさん出て来る。政治家もパワーが 落ちているから。安易にポピュリズムに走る。そして、それをチェックすべきメディアや評論家も力が落ちていて、ちゃんと機能していない。その意味で、今は 福沢諭吉が百何十年前に言ったことがまさに問われているのではないだろうか。

―個人の力が落ちているというのは間違いない事実だと思います。その一方で、本当に先が見えない世の中になっている。そうした中で、一人一人の個人はどうすべきなのでしょうか。
 『学問のすすめ』という本を福沢諭吉が書いたが、明治維新の当時、国民の1割がこの本を読んだ。今で言うと1千万人が読んだのであり、これはすごいことだ。明治の頃を見習って、国民一人一人が自分のエンパワーメントをしようと決意して頑張るしかない。
 ところが、そのためには勉強が必要になるが、日本では勉強という概念そのものが歪んでいる。受験勉強が勉強と思われていて、受験勉強できた人が勉 強できると思われてしまっている。しかし、受験勉強などまったく関係ない。受験勉強ができたのに社会で役に立たない人は一杯いる。逆に、受験勉強につまず いたので自分は勉強できないと思ってしまっている人もたくさんいるが、そんなことははまったくない。自分の著書『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)では そういうことを伝えたかった。

―ところで、竹中先生のスケジュールを見ていると、凄まじく多忙な仕事漬けの毎日を過ごしていますが、何か日々の楽しみとか生き甲斐ってあるんでしょうか。
 これは自分の信念だが、日本はもっと良い国になれる。色んなところに行って色んな人と話していて、つくづくそう感じている。先日も八丈島に行って 中学生に講演したところ、子ども達がすごく熱心だっただけでなく、学校が知らせてもいないのに島の大人たちもたくさん聞きに来てくれた。
 日本人は捨てたもんじゃない。日本も必ず良くなれるし、そうなってほしい、自分も頑張って、経済学者としてそれに貢献していきたいと日々思っているんだ。

*最後にひとつ。麻生総理が先週、郵政民営化の見直しをほのめかす発言をしました。前回の衆議院選挙は郵政民営化が争点で、国民がそれに賛成して自民党が大勝したことを考えると、論外の発言です。この発言について、ポリシーウォッチのメンバーが厳しいコメントをたくさん出しているので、是非ポリシーウォッチでご覧いただければと思います(岸博幸)。

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コイツも好き勝手言うよな....。

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