木曜日, 11月 20, 2008

10兆円拠出してもコケにされ続ける、日本外交のいつもの敗北【週刊 上杉隆】

ダイヤモンド・オンライン 2008年11月20日(木)09:15

  先週末(11月14日)からワシントンで開かれていた「世界金融サミット」は、15日、閉幕した。G20と世界銀行、IMF(国際通貨基金)、UN(国 連)、FSF(金融安定化フォーラム)などの国際機関が参加して、未曾有の金融危機を救おうという試みは、金融安定化を謳った「首脳宣言」を採択してひと まず着地した。

 日本から出席した麻生首相は、会議冒頭、IMFへの1000億ドル(約10兆円)の融資を約束した。同日(14日)発行の「WSJ」(ウォールストリートジャーナル)に寄稿したものと同じ内容である。

 その前日(13日)、パキスタンへの5億ドル融資を発表した中国と比べても、日本の貢献は、金額・規模とともに十分すぎるほどのものであった。

 ブレトンウッズ体制の終焉が叫ばれているこの会議の中で、日本の「貢献」は、どのように評価されているのだろうか。

IMF・世界銀行こそ、同ブレトンウッズ体制の核だった。1944年に構築されたこの世界金融体制が、第二次世界大戦後の世界金融のルールを形作ってきたのは確かだ。

 しかし、初代IMF総裁のケインズ博士の理論が世界中で見直され始めているのが象徴するように、同体制の耐用年数も過ぎているという指摘が出始めていた。

 実際に、今回の会議でも、IMFの機能低下、同基金の改革について議論が集中している。

 G20、とくにG7以外の国々からのIMFへの不満は深刻だ。今年3月にクォータ制を導入し、新興国の役割を高めようと試みたものの、IMFへの不信は拭えていない。

 韓国などのアジア諸国にとっては、97年のアジア金融危機の際、IMFの融資が受けられず、国内経済がどん底にまで叩き落とされてしまったトラウマがある。それが10年たった現在でも、同体制への不信感となって、会議でも表出することになったのだ。

 だからこそ、日本政府のIMFへの貢献は際立っていた。〈麻生提案〉と銘打ったこの提言は、周到に準備され、今回のサミットで麻生首相を「スター」とするための高価な「武器」であったのだ。実際、政府・外務省の狙い通り、翌日の紙面には、次のような見出しが躍った。

〈首相、存在感を発揮〉(11月16日付/読売新聞)。

 しかし、不思議なことに、大活躍したはずの麻生首相だが、それは、日本国内のメディア報道に限られるようだ。海外のメディアが扱った日本のニュー スといえば、せいぜい「日本政府、IMFへの巨額融資を発表」(AP)などのストレートニュースに過ぎない。もっとも大きい扱いでも、〈日本と中国が巨額救済案を提示〉という「WSJ」の分析記事程度だ。

 海外の報道によれば、同会議で存在感を示したのは麻生首相ではない。それは、サルコジ仏大統領であり、オバマ次期米大統領の代理人オルブライト元 国務長官、あるいは胡錦涛中国国家主席、メドヴェージェフ・ロシア大統領、ルラ・ブラジル大統領などのBRICsの首脳たちであった。

◇ サミット開催地決めでも日本は敗北続き

 日本は存在感どころか、サミット開催地をめぐる駆け引きでも敗北を喫している。しかも続けてだ。

 開催前のことだ。洞爺湖サミットに引き続いて(札幌での仏中首脳会談など)、サルコジ大統領は、独自の外交路線を展開し、開催地を強引に日本から 奪い取ろうとしていた。サミット議長国で行うのが筋だという日本の主張を退け、代わりに金融危機の発生国でもある米国開催に同意を示した。

 ワシントンに奪われた日本は、戦略を変え、第2回金融サミットの日本開催を目指した。ところが、またしてもサルコジ大統領が独走し、記者会見でこう言い放ったのだ。

「来年3月までに開かれる第2回会合は、(来年の)サミット議長国でもある英国(ロンドン)で開かれることが望ましい」

 笑ってしまうほどの「ダブル・スタンダード」だが、驚くべきことに、この「サルコジ案」が次期開催地の主流となっている。

 今回のサミットで、サルコジ大統領は雄弁であり続けた。フランスのみならず、欧州議長としてヨーロッパを代表して、国家・地域の権益のために、叫び続けた。ブッシュ米大統領へ「ドル基軸通貨の終焉」を突きつけたのもサルコジだ。

 こうしてコケにされている間も、日本外交は現実を直視せず、「独自外交」(笑)を模索していた。オバマ次期大統領との会談が難しいと分かると、一転、ブッシュ大統領との「日米首脳会談」の可能性を探ったのだ。

 だが、それさえも困難を極める。各国が水面下で次期政権のオバマチームの面々との接触を模索している間にも、日本はブッシュ大統領との首脳会談を目指した。

 思えば、麻生首相はブッシュ大統領の米国に秋波を送り続けていた。所信表明での「日米同盟」重視宣言、給油法案の成立確約――。

 だが、結局は、ブッシュ大統領は、麻生首相との会談を拒否した。あの米大統領史上最悪のレームダッグ大統領と呼ばれるブッシュ大統領からである。

 ならば、麻生首相のこれまでの「ラブコール」はいったいなんだったのか。

◇ 国内メディアだけが麻生首相を持ち上げた

 対北朝鮮のテロ支援国家指定解除が示すように、日本外交は、今回もまた米国に袖にされている。麻生首相本人が、米国との緊密な関係をいくら誇ろうが、それが現実なのである。

 そうした不毛な「訪米」を終えて、麻生首相を待っていたのは、凱旋将軍のように温かく見守る日本のメディアであった。これだけコケにされて、「存在感を発揮」などという見出しが新聞に躍るのか、筆者にはどうしても理解できない。

 それにしても、デジャヴではないか。2年前のドイツでのハイリゲンダムサミットが終わった直後、安倍首相(当時)がこう誇ったのを思い出してしまう。

「私の提案が入って、日本がイニシアティヴを発揮し、それによって共同宣言が採択された」

 同行した世耕補佐官も、日本からの随行記者団に盛んにそれを誇った。その結果、〈温暖化対策で日本が主導権〉という文字が新聞紙面に躍ることになる。

 だが、実際は、この地球温暖化に対する「合意」は、議長であるメルケル独首相の手柄となっている。世界のメディアで、「日本のイニシアティヴによって――」、と報じたところはひとつもない。〈安倍首相の手柄〉は日本国内だけの報道だ。(拙著『官邸崩壊』に詳述)

今回も同様だ。同行した松本純官房副長官が盛んに麻生首相の「活躍」を喧伝すればするほど、2年前のあの悪夢を思い出してしまう。そしてまた、麻生首相自身が記者会見を開いて次のような言葉を発すれば発するほど、暗澹たるデジャヴを感じるのは私だけであろうか。

◇ 評価されない「夢想外交」はそろそろ終わりにすべき

「今回の会合で私は具体的な提言を行い、それが首脳宣言に反映された」

 確かに海外メディアで、日本の対IMF1000億ドル融資については報じられている。

 だが、その内容は、評価とは程遠いもので、「日本はやっぱり金があるな」という程度のものばかりだ。サミット期間中、記者会見で自主的に日本の名前を出して評価を与えたのは、ストロスカーンIMF専務理事ただひとりであった。 ただ、これも、お金をもらった「お礼」を述べただけの話にすぎない。

 日本外交は今回もいつものように、ひとりで夢を見ながら敗北していったのだ。

 麻生首相が誇った「WSJ」への寄稿文についても、じつは同記事は「アジア版」のみの掲載であった。つまり、金融サミットの当日、サミット参加国の多くは、麻生記事を読むことも、日本の貢献策の内容を知ることも出来なかったのである。

「夢想外交」はそろそろ終わりにするべきではないか。

結局この手のアナウンスも、選挙対策だったんでしょ?
それならそれで、冷徹に判断すりゃイイんだろうけど、その代償が10兆って洒落にならな過ぎ....。

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