月曜日, 12月 22, 2008

【竹中平蔵 ポリシー・ウオッチ】最も失われた1年


 ■誤った政策がもたらす三重苦
 日本経済が大変な危険水域に突入した。経済成長はマイナス、企業は大 幅減益、雇用減少が鮮明化し、家計消費が大幅に悪化している。日銀短観も悲観一色となった。そうした中、政府の経済政策が不適切な方向に向かっている。現 状は、確かに100年に1度の金融の嵐が吹き荒れている。しかしより深刻なのは、現内閣の経済政策が迷走を続けていることだ。
 あまりの迷 走ぶりに、メディアの評価も厳しさよりはあきらめムードが漂う。しかし政策を糾(ただ)すために、何が問題なのか明確に指摘しておこう。不適切な経済政策 が、いったんは復活した日本経済の蓄積を食いつぶしつつある。首相からは、予算規模を拡大する一方で、増税時期を中期プログラムに明記するという一貫性を 欠く指示が出され、予算編成はそのような方向で進んでいる。このままでは、景気は回復せず、財政再建は遠のき、そして増税だけが残るという姿になる。まさ に、誤った政策による三重苦だ。1990年代の日本経済は失われた10年と呼ばれたが、平成20年秋に始まった麻生政権下での政策混乱が来年秋まで続け ば、日本は「最も失われた1年」を経験するかもしれない。
 三重苦の第1は、この政策のままでは経済が回復しないという点だ。経済の現状をかなり深刻にとらえる必要がある。金融は大幅に逼迫(ひっぱく)しており、過去2年間で3倍に増えた倒産件数は今後さらに増加するだろう。何より重要なのは、中小企業のみならず上場企業が多数倒産(年初からすでに30社超)していること、しかも黒字倒産がみられることだ。金融機関のバランスシートは欧米ほど傷んでいないのに雇用情勢の悪化は着実に進んでいる。現状では、非正規雇用の問題ばかりが注目されるが、正規雇用の削減も進むと考える必要がある。一部の企業は、金融経済危機をエクスキューズ(言い訳)にして、日本から海外に大幅に活動拠点を移すのではないか。本格的な空洞化だ。構造改革が停滞したために規制緩和が進まず税率も高いままの日本からいかに撤退するか、グローバル企業はしたたかに考えていよう。
  三重苦の第2は、財政再建が大きく遠のいた点だ。そもそも成長なくして財政再建はない。日本の財政健全化は「23年基礎的収支の黒字化」を目指して苦しい 道のりを歩んできた。結果的に過去5年間で基礎的収支は28兆円の赤字から8兆円の赤字へと、大きく改善した。この改善を、本格的な増税なしに実現したのである。このまま改革を続け経済を活性化し(税収増を確保し)、一方で歳出健全化を続ければ23年の黒字化目標達成は決して難しいことではなかった。
 しかし今回の予算編成で、基礎的赤字は再び13兆円へと拡大する。これまでの改革の成果は一気に食いつぶされることになる。

 ■諮問会議は金庫番か
 財政悪化の理由として、しばしば100年に1度の危機、そのために財政拡大が必要という論理が展開されている。たしかに経済は厳しい状況であり財政拡大による刺激策は必要な局面だ。しかし、目の前にあるのは危機をエクスキューズにした安易な財政拡大だ。
 そもそも従来、開放経済の下では財政拡大は大きな効果を持たないことが知られてきた。財政で内需を増やしても、一方で金利上昇・通貨高・輸出減と いうメカニズムが働き、財政の効果がキャンセルアウトされるためだ。その中で日本は、ロジック(論理)を無視して常に財政拡大を指向してきた数少ない国 だった。
 にもかかわらず今回、各国が財政拡大に踏み切ったのは、理由がある。それは、金融機関のバランスシートが傷んでおり金融政策が効かないことと、経済の悪化が極めて大きいことである。しかし日本の場合、金融機関のバランスシートは欧米ほどには傷んでおらず、金融政策の効果が相対的に は期待できる状況にある。したがって、まず金融政策を積極的に展開し、そのうえで効果は限定的であることを前提に必要な財政拡大を行う、という位置づけが必要だった。しかし日銀の対応は、今回も遅れた。
 財政政策については、将来的に必要になる財政支出を前倒しで行うことが基本であり、現実 にアメリカもヨーロッパ諸国もそうした財政政策を掲げている。しかし日本は、2兆円の定額給付金に象徴されるように、将来の財政支出とは関係のない支出、 効果が期待されない支出を行おうとしている。まさに、経済は回復せず財政赤字だけが残る、という構図である。
 三重苦の第3は、増税を行う ことだけが明確にされている点だ。政府の「中期プログラム」では、首相指示に基づいて「3年後の増税」が明記された。このプログラムは興味深い内容になっている。消費税を引き上げるという「マクロ」の財政赤字を削減するための項目と、所得税の見直しや法人税引き下げなどいわゆる「税構造」見直しが混在している。しかしマクロについては、いったいなぜ3年後に増税が必要なのか経済的背景が全く分からない。経済がどれほど成長し、どれだけの歳入欠陥があるから 3年後に増税が必要なのか、明確な説明がない。金庫番的発想で増税することを書きたかった、という内容なのだ。
 しかもこれが、経済財政諮問会議で決定された。そもそも諮問会議は、マクロ経済と財政の整合性を議論することが最大の役割であり、だからこそ財政審や税調とは違う重要な役割を担ってきた。しかし今回、諮問会議はマクロ経済との関係を示すことなく、3年後の増税を決めた。諮問会議本来の役割を自ら放棄したように映る。
 残念ながら現状は、何でもかんでも金融危機のせいにしてなし崩し的にロジックを無視した政策が行われている。結果的に、規模も内容も中途半端で安易な財政ばらまきだけが繰り広げられようとしている。このままでは、経済は改善せず、財政赤字のみが深刻化するという90年代の二の舞いになりかねない。そして国民には増税の負担感のみが残る。日本経済の「最も失われた1年」を回避する正しい政治的リーダーシップが求められる。


論理的に悲観的になられると、先行き暗くしか思えない....。
どーしろってーの?

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