月曜日, 12月 22, 2008

資源大国・日本の誕生:北野幸伯(国際関係アナリスト・ロシア在住)


Voice2008年12月20日(土)15:30
世界的に石油不足が深刻化

 現在「エネルギー市場」といえば、もっとも重要なのが原油価格の動向である。原油価格は2008年年初から上昇を続け、7月に史上最高値の1バレル=147ドルを記録した。その後は約3分の1の50ドル台まで下げた。
 2010年の時点で原油価格はどうなっているのだろうか? 2つの動きがあり、予測は難しい。
 1つは原油価格を下げる動き。アメリカ発の危機が波及し、世界的金融危機が深刻化している。景気が悪化し、原油の需要が減少すれば、当然原油価格は下がっていく。現在の状況を見ると、2010年に景気が回復しているとは思えない。
 もう1つは原油価格を上げる動き。アメリカとイスラエルは、何度もイラン攻撃の可能性に言及している。実際に戦争が起こり、イランが原油輸送ルートの要所 ホルムズ海峡を封鎖すれば、原油は200ドル以上になるかもしれない。事実08年1月には一触即発の事態も起こっている。

〈 ホルムズ海峡でイラン高速艇が米軍艦船を威嚇=米国防総省――08年1月8日7時28分配信
[ワシントン 7日 ロイター] 米国防総省は7日、ペルシャ湾のホルムズ海峡で現地時間5日夜から6日未明にかけイラン革命防衛隊の艦船5隻が、米海軍艦船3隻に至近距離まで接近し、威嚇行為を行ったことを明らかにした 〉

 結局、「原油価格の動向を短期で予測するのは難しい」という結論になる。
 しかし、日本の行くべき道を知るためには、もう少し長いスパンで未来を考えてみればいい。
 数年先を知るのは困難だが、長期で未来を予測するのは、逆に簡単である。長期的に見ると、世界的エネルギー危機が起こる可能性が高い。
 第1の理由は、世界の人口が年8000万人ずつ増えていること。つまりエネルギー需要は1年間に8000万人分ずつ増えていくのだ。米商務省の予測によると、世界人口は2013年に70億人、27年に80億人、45年に90億人を突破する。
 第2の理由は、世界経済の拡大により、エネルギー需要が増加していくこと。
米エネルギー省によると、1日当たりの世界石油消費量は、2000年の約7700万バレルから、05年には8500万バレル、10年9400万バレル、 15年1億200万バレル、20年1億1000万バレルと増加しつづけていく。石油消費量がとくに急増していく見通しなのが、中国とインド。
 第3の理由は、新エネルギーの普及が進まないこと。
「石油の話ばかりするが、新エネルギーが普及していくのではないか?」と疑問を抱かれる人もいるだろう。しかし、現時点での見通しは暗い。
 2000年の時点で、石油は世界のエネルギー消費の39%を占めていた。2位は石炭で24%、3位は天然ガス(22%)、4位原子力(6%)。
 20年になるとどうなるのだろうか?
 37%が石油。20年間で2%しか減らない。減るといっても、エネルギー消費全体内の割合が減るだけで、量は前記のように増加しつづけていく。
 2位は天然ガス(29%)、3位石炭で22%。残り12%のなかに原子力、水力、風力、太陽エネルギー、燃料電池などが含まれる。
 新エネルギーと期待される、風力・太陽エネルギー・燃料電池を全部合わせても、20年の段階で全エネルギー消費の5~6%にしかならない。
 第4の理由は、石油が枯渇する日が近づいていること。世界を牛耳るイギリス・アメリカの油田がすでに枯渇しつつあるのは、よく知られた事実である。そればかりか、遅くても2040年ごろには世界的に石油不足が深刻化していくと予想される。
 以上4つから、長期的に石油価格は上昇しつづけていくとの結論に行き着く。

 もう1つ重要なのは、石油の供給が減少していく過程で、石油獲得戦争が起こる可能性がある。
 そういえば、フセインのイラクには「大量破壊兵器」も「アルカイダとのつながり」もなかった。では、アメリカがイラクを攻撃した真の理由は何なのか?
 あのグリーンスパン氏は、「イラク開戦の動機は石油」と断言している。

〈 「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録で暴露――17年9月17日15時0分配信
[ワシントン 17日 時事]18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている 〉

 事実、アメリカはイラク占領後、先に進出していた中国・ロシア・フランス企業を追い出し、石油利権を独占した。この3国が国連安保理で、イラク戦争に最後まで反対したのも偶然ではないのだ。今後、この手の紛争は増えていくだろう。
 まとめると、(1)石油の需要は長期的に増加していく、(2)石油は枯渇する方向で、長期的に供給は減少していく、(3)石油をめぐる紛争は増加していく、(4)エネルギー危機が起こる可能性は高い、となる

エネルギー自給率100%へ

 日本の進路を語るとき、排除されなければならないのは、「石油争奪戦」に参戦することである。米中ロは現在、熾烈な資源獲得競争を繰り広げている。いずれ も、自国の利益のためなら何でもありのワイルドな大国である。日本は第2次大戦時、この3大国を敵に回して敗れた。同じ過ちを繰り返してはならない。
 では、日本はどうすればいいのか?
 エネルギー自給率100%をめざすべきなのだ。
 「不可能だ!」
 そんな声が聞こえてくる。しかし、これは可能なのである。
 メタンハイドレートという新エネルギーがある。簡単にいうと、「凍結状態のメタンガス」。メタンハイドレートは、メタンを中心に周囲を水分子が囲んだかたちになっている物質で、ほとんどは海底にある。
 見た目は氷と同じ。しかし、火を付けると燃えるので、「燃える氷」と呼ばれている。一立方メートルのメタンハイドレートを解凍すると164立方メートルのメタンガスになる。
 石油、石炭と比較すると、燃焼時の二酸化炭素は半分ほど。温暖化対策にも有効な新エネルギーなのだ。
 米地質調査所とエネルギー省のデータによると、世界のメタンハイドレートは、陸域で数十兆立方メートル、海域で数千兆立方メートル。これは、世界天然ガス 確認埋蔵量(145兆立方メートル)数十倍。天然ガス、原油、石炭の総埋蔵量の2倍以上といわれている。まさに世界を救う新エネルギーといえる。
 ここからが重要。メタンハイドレートは日本周辺にたっぷりあることがわかっている。
 米エネルギー省によると、南海トラフ(東海地方沖から宮崎県沖)北側に4200億~4兆2000億立方メートル。地質調査所の調査では、南海トラフ、北海道周辺海域に、6兆立方メートルが存在する。これは、日本の天然ガス使用量の100年分に匹敵する。
 日本近海は、なんと世界最大のメタンハイドレート量を誇っている。そのため、日本は石油枯渇後、世界最大のエネルギー資源大国になる可能性がある。
 実際、政府、東京ガス、三井造船、三菱重工、日立製作所、新日本石油などが、すでに研究開発に取り組んでいる。
 最近では、こんな情報もある。

〈 燃える氷をすくい取れ 「メタンハイドレート」試験採掘へ――MSN産経ニュース08年8月19日0時36分
経済産業省は資源価格の高騰を受け、天然ガスの代替エネルギーとして期待される「メタンハイドレート」の日本近海の海底での産出試験に平成21年度から着 手する。同省によると日本近海には国内の天然ガス消費量の100年分に相当する大量のメタンハイドレートが存在するとしており、成功すれば日本のエネル ギー政策に大きな影響を与えそうだ。19日に開催する同省「メタンハイドレート開発実施検討会」で試験計画の内容を説明し、了承を得たい考えだ。計画では 30年度までの商業生産を目指す 〉

 エネルギー革命を起こす可能性があるのは、メタンハイドレートだけではない。たとえば、二酸化炭素削減効果があるバイオエタノール。これまでは、主にトウモロコシやサトウキビを原料に生産されているため、穀物価格を暴騰させる原因になっている。
 しかし、ゴミからバイオエタノールをつくれば、インフレは起きない。
 静岡油化工業株式会社は、「おから」を使ったバイオエタノールを開発した。「おから」とはご存じのように、豆腐の生産過程でできるカス。食べることもでき るが、年間72万トンが捨てられている。同社の長嶋社長は、「100%おからエタノール」で自動車を走らせる実験に成功。排気ガスはまったく無臭だった。
 同社長は今後、じゃがいもの皮・うどんやパンの残飯など、ゴミからバイオエタノールをつくる研究を続けていくと意気込んでいる。ちなみに、「おからエタノール」は静岡県庁で使用されることが決まった。
 もう1つ、「バイオ水素」という面白い技術もある。
 自動車メーカーは現在、水素を燃料とする「燃料電池自動車」の開発に取り組んでいる。燃料電池自動車は、水だけを排出するので「究極のエコカー」と呼ばれ るが、問題もある。それは、水素をつくる過程で、石油やガスを使うこと。結局「化石燃料の呪縛」からは逃れられないのか?
 玉川大学工学部の小原宏之教授は、「バクテリアがつくった水素」で車を走らせる実験に成功した。
 バクテリアのなかには、水素を発生する水素生成菌がいる。同教授は静岡県佐鳴湖から水素生成菌を採取。菌は300リットルの水素を生成し、自動車はこれを燃料に時速40キロのスピードで走った。
 水素生成菌は、枯渇する恐れのある石油などとは違い、無尽蔵で究極のエコエネルギーといえるだろう。
 このように、日本にはとんでもない技術が雨後のタケノコのように現れてきている。世界的金融危機と景気の悪化で世相は暗い。しかし、危機の向こうには、エネルギー大国日本の姿が見えている。


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