水曜日, 12月 31, 2008

世相


福井新聞「越山若水」 2008年12月25日
 「第一志望落ちた会社に派遣され(派遣社員)」。今年のサラリーマン川柳(第一生命保険)の入選作である。ところが1年もたたないのに、今ではとても笑 えない▼100年に一度の金融危機が日本経済を直撃している。トヨタやソニーなどの世界企業が業績悪化を理由に次々と派遣切りを宣言。年の瀬に仕事も住居 も失う人が急増している▼派遣やパートなど非正規社員は、日本の労働者の3分の1以上を占めている。急速な景気悪化で先行きも見えない中、今後真っ先に整 理対象にされるのもこうした人だろう▼きのう麻生太郎首相が自ら、来年度政府予算案と本年度第2次補正予算案を発表した。さすがに雇用安定や失業対策には 重点を置き、首相は「国民生活を守る」と見えを切った▼特効薬になればいいがどうも不安が残る。麻生首相は先週末ハローワークを視察。求職に来た若者に 「何をやりたいか決めないと就職は難しい」と“説教”したという▼確かに正論だが昨今の事情は「何でもやります」と願い出ても仕事が見つからないほど深刻 である。庶民感覚には少々疎い首相だが、ピントがずれている▼2004年に改正された労働者派遣法は、大量の非正規社員と格差を生み出した。小泉純一郎元 首相が製造業の要請を受けてのことだ。未曾有の雇用危機を回避する責任は、政府与党にも経済界にもあるはずだ。


河北新報「河北春秋」 2008年12月25日 木曜日
 世界恐慌に揺れた1929年、小津安二郎監督がメガホンを取った無声映画がある。「大学は出たけれど」。70分の作品だが、今は11分ほどのプリントし か残されていない▼昭和金融恐慌の余波もあり、当時の大学生の就職率は約30%。学士様に吹き付ける風は冷たかったが、小津はなぜか喜劇に仕立てた
  ▼新調の背広を着て会社の面接に現れた主人公に、役員は「欠員がない。受付の仕事ならあるけれど」と、つれない返事。主人公は「わたしは大学を卒業したん です」と憤然と言い放ち、引き返してしまう▼下宿に戻ったら、息子が就職したことを信じて疑わない母親と婚約者が田舎から上京してきたから、さあ大変。う そがばれ、婚約者との関係にも当然ひびが…
 ▼大学生の就職内定取り消しが相次ぐ2008年を小津ならどう描いただろう。「受付の仕事は 嫌」と、わがままを言う学生など今どき少なかろうから喜劇にはなるまい。100万円の「解決金」で若者の未来をくじいたデベロッパーには、告発のカメラを 向けたか▼麻生首相が内定を取り消した企業名の公表を検討すると表明した。その言や、よし。ところで映画の主人公は再度会社を訪問、受付から始める決心を 伝え、めでたく採用される。ハッピーエンドを引き寄せるには、経営者の度量も要る。


[新潟日報「日報抄」 12月22日(月)]
 「ホッピー系労組」。そんな言葉が若者、特に非正社員の間で使われているという。ホッピーはビールそっくりの味わいで、焼酎を割って飲む。関東の居酒屋などで人気があり、懐に優しい庶民の味方だ
▼でも、意地悪な見方をすると「ビールもどき」になる。これを飲みつつ、仕事の愚痴をこぼすサラリーマンの姿が目に浮かぶ。そのイメージが「闘いを忘れた労組もどき」に重なる。「ホッピー系」はいまの労働組合に対する苦みの利いた皮肉である
▼作家雨宮処凛(あまみやかりん)さんの造語らしい。不安定な生活を強いられるフリーターたちを「プレカリアート」と表現し、「生きさせろ」と訴える。格差社会の矛盾が噴出した今年、時代を射抜く雨宮さんの言葉は、「反貧困」運動の共感を広げた
▼労組の全国組織率が18・1%で三十三年続けて低下したという。ただ数字に表れない変化もある。誰でも加入できる独立系のコミュニティーユニオンが各地で結成され、「派遣切り」などに抗議し奮闘している
▼雨宮さんは同世代の若者について、優しさを見せると引きずり落とされるという「競争原理」に洗脳されてきたとする。だから「団結や連帯という言葉は、(若者に)ほっとする安心感を与える新鮮な言葉なんです」(「世界」十月号)。労組の再生に希望を託す
▼年の瀬を空前の雇用不安が覆い尽くす。たとえ非組合員でも不当な解雇を進める企業には、一泡吹かせる。大組織が多い「ホッピー系労組」は汚名返上の機会だ。きょう二十二日は労働組合法の制定記念日。

さてさて....

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